第11話 取引停止

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 タイガが言うことが本当かどうか確かめるため、一旦オークから手を離し、脈を確認した。首を触っても顔を触っても、オークが目覚める気配は無い。何なら、オークの口から白い液体が垂れた。これはヨダレじゃない、もっと……死が近い時に漏れる特殊な液体だ。


 となると……もしや、本当に死んでいるのか?


「お前、オークを剣を使わずに倒したよな。何をした?」とシータが尋ねる。


 だからさっき説明した通りだ……と言おうとしたが、質問の意味が違うことに俺は気づいた。方法を聞いているんじゃない、力をどこで手に入れたか聞いているんだ。


 しかし、初めての経験だ。モンスターを手だけで倒したのは。今まではあくまで体の動きを止めるくらい、上手くいってもその程度だった。それが今、それらを通り越して……一発で死に至らせた。


「お前は何者だ?」


 そうタイガが問う。


「俺は……フォルス・ウール……だ」


 それしか答えられない。


「別に責める訳じゃないけど。ただ凄いなって思った。俺たちにはできないと思うから」とホークは助け舟でも出すかのように言った。


 危ない、これ以上問い出されれば本当のことを言ってしまってた。というか、彼らなら言ってしまってもいいのでは……とも思ってきた。彼らなら分かってくれるはずだ。


 でも、万が一のことがある。まだ言うのは止めておこう。


「まぁ良い。オークの死体は取引先が持ってってくれると聞いたから、少しだけここら辺で待機」


 タイガの言葉通り、皆その場で座って休憩し始めた。


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 日も昇り辺りが明るくなったところで、取引先と思われる団体がやって来た。台車を持った人と、護衛用の剣を持った人、巨大なモンスターでも切り裂けそうな巨大な剣を運んでいる人、高級な服を身に纏った人までいる。


「立派だよ君たちは、特に1匹だけ何の傷も付いてない。こりゃ、高値で売れるわ」


 高級な服を纏った人がそう発言した。

 傷も付いていないのは俺が押さえつけたオークのことだろう。やはり傷がついていない方が高く売れるのか。


 彼は長く生やした髭を触りながら、俺の方へ近づいてこう言った。


「新入りかい?」


「はい」


「新入りか。全く、タイミングの悪い奴だ」


 タイミングの悪い奴? よく分からないまま、彼の話を聞いていた。


「私たちはより良い世界を目指し、取引を続けて来た。そこでな、君たちよりも優秀なパーティーを見つけた。私たちに順従で、賢い。君たちに比べてな」


 彼は俺から離れ、タイガやホークの目の前を歩きながら話を続けた。


「君たちは肌も黒ければ、黄色い者もいる。目が黒い者もいれば、白い者もいる。髪がある者もいれば、無い者もいる。単刀直入に言おう、君たちが邪魔だ。君たちと取引すれば、悪評が立つ。それでは不利だ」


 彼は他の仲間たちがいる場所に戻り、手を広げてこう言った。


「君たちとは取引停止だ」と。


 突然、その言葉を合図としていたと言わんばかりに、周りの森から剣を持った男たちが、ガサガサと一気に出てきた。彼らは皆俺たちのことを囲むように、じわじわと追い詰める。


「君たちを消してくれるよう頼んだのだ」


 彼はそう言うと、仲間たちを引き連れて台車で遠くへ去っていった。


「その目はストーズ出身だな、次はセントリーを侵略しに来たってか?」

「うわ、病気が移るな」

「仮面を着けてるって、そんなに人に見せられない顔してんのか?」


 剣を持った男たちは俺らを囲みつつも、そう心無い言葉を投げかけた。言われた側のメンバーは落ち込んでいた。剣を持っていない者もほとんど、持っていたとしてもそれはさっきオークを刺したばかりで、汚く使い物にならなそうだった。


「俺は何のために生きてきたんだ」とジェスが嘆く。それもそう、信頼してきたはずの取引先に汚い言葉を言われ、裏切られたのだから。


 相手は6人、俺たちは7人。人数で言ったら俺たちの方が上だが、残念ながら半分以上が戦意を喪失している。剣を持っていない者もいる。


「お前らはここで死ぬ運命さ、俺たちがお前らを殺したって何の罪にも問われない。実質モンスターを殺しただけだ、逆に褒められる」


 彼らはそう言うと、剣を構えたまま突進してきた。このままでは……倒されるどころか、殺られる。


 そう思った俺は、メンバーを守るようにして、彼らの剣を盾で防ぐ。昨日会ったばかりのメンバーだが、守らなきゃいけないのは事実。だって同じ人間だから。


 逆に彼らの顔面に向かって、拳を入れる。体重を拳に全てかけた、渾身のパンチだ。それを食らった彼らは派手に吹き飛ばされた。岩に激突している者もいれば、木の根元に頭をぶつけている人もいた。


 相手は殺しに来ているかもしれないが、俺は殺しはしない。あいつらと同じことようなことはしない。


 最後に残った奴の顔面に向かって、最上級の拳を入れ込む。人生一の力で、二度と立てなくなるほどに。そうなっては困るけど。


 周りの奴らを全員倒し、戦意を喪失したメンバーたちを奮い立たせるように起こしながら、剣を持ってその場から逃げた。追っ手が来ると、また戦いになる。俺は人と本気で戦ったことがないから、今みたいな戦闘は体にも精神的にもこたえる。


「あいつ、何秒で奴らを倒したか見てたか?」

「見てないや、ちょっと昔のことを思い出していたから」


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