第10話 どうなってんだ?

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 その日から正式にシャリアのメンバーとして活動することになった。違法なパーティーのため、都市へ手続きする必要がない。だから怪我をしても保護されないし、追放されても泣き寝入りするしかない。まぁ、元から余程のことがない限り世間は守ってくれないが。


 で、拠点はいつもの場所。ボロボロの空き家。

元々は喫茶店があったようだが、そこの店主もストーズ出身で差別されていたらしい。あまりの被害で店を畳み、姿を消したとか。


 俺の住処は……無くなった。

 パーティーへの加入が決まり一度ウェール村に帰ったのだが、そこで村長にこう言われた。


「シャリアを立て直すまで帰ってくるな」と。


 そのまま休憩する暇もなく追い出されて、今はボロボロの拠点にいる。他メンバーもここで寝泊まりしているため、俺もできないことはない。


 それに、ここ近辺は人通りが少ない。ここ一帯は空き家だらけ、誰も近くに住んでいない。そのため彼らは1人1軒ずつ家を持っている。雨水すら凌げないほどの空間ではあるが、無いよりはマシだろうと。


 ウェール村とシャリアの暮らしを見て思うが、同じ世界でここまでの差があったのか。そもそもこれも考えたことがなかった。


 家は下級階級だが、毎日ご飯を食べられたし、不便なことはなかった。上級階級の人は何でも好きなだけ食べれて、何でもできた。俺はそれに憧れていたが、俺よりも下の人がいるとは、この歳になっても思わなかった。


「今日はシティスト郊外で討伐だ。取引先がオークの肉を欲しがっている。何に使うか分からねぇけど」


 タイガがそう言うと、皆各々準備を始めた。彼らが使っている剣は対モンスター用の剣ではなく、対人間用の剣。討伐できなくはないが、相性が悪い。それではいつか耐久が……。


「悪いが、俺たちに武器を売ってくれるような優しい輩は居ないんだ」


 不思議がっている俺の表情を見て察したのか、シータがそう答えた。そうだった、と納得するのもおかしな話だが、彼らは……だな。


 代わりに俺が買ってきてやりたいが、俺も中々の格好をしていて難しい。何だって、黒いローブに白い仮面だからな。


「行くぞ、日が昇る前には到着しよう」


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 シャリアの拠点自体、ポリスタットの端の端の方にあるため、少し歩けばもう森が近い。どちらかと言えば、シティスト管轄の森の方が近い。


 今日向かうのはそこ、シティスト管轄の森で、よくオークやゴブリンが出現すると言われている場所。デリーシャ時代はあまり行ったことがない。基本、それは下級討伐パーティーの仕事。オークやゴブリンとかを倒している暇は、上級パーティーには無かった。


 別に真っ昼間から動いてもいいらしい。顔が見えないように朝早くから行動している訳でもなく、オークが寝ているから朝早く向かうらしい。そんなこと、逆に知らなかった。基礎的な情報なのに。ゴブリンとは最近出会ったが、オークとか最近関わっていないからよく覚えていなかった。


「居たぞ、道中にぐっすり眠っていやがる。悲鳴を上げないようにしてから脳天を刺せ」


 タイガがそう皆に指示をした。

 リーダーであるユーゴではなく、タイガが指示をするみたいだ。


 それは置いておいて、オークは計4匹いる。それに対してこちらの人数は7人。

 オークは人の倍程の大きさと力を持つ。普通に戦おうとしたら、当たり前のように吹き飛ばされる。だからどう倒すか……は覚えていない。


 4人がオークの体を、眠りから覚まさないように押さえつける。そこに残りの3人が脳天に向かって剣を刺していく。そういう手順らしい。


 俺は体を押さえつける担当になった。もちろん、力には自信がある。オークを起こさないように、首に手をかける。起こさないように、慎重にだ。


 上級モンスターも寝ることがある。その時はゆっくりと近づいて、首に手をかける。大体、首ら辺に神経のツボがある。押せば気絶するモンスターだっている。後ろから手を回して、中指をオークの首に押し込めば、一発で動けなくなる。


「ズブフッ」とオークが鼻を鳴らした。


 剣を刺そうとしたメンバーも、他のオークを押さえつけていたメンバーも皆一斉に振り向いた。急いでオークの顔を覗くと、まだ気持ちよさそうに寝ていた。危ない、今起こしていたらとんだ戦犯になるところだった。


 冷や汗をかきながらも、皆一斉にオークの脳に向かって剣を一気に突き刺す。オークらは抵抗する間もないまま、体をビクンビクンと激しく動かしながら死んでいく。何も発さないで、家族に別れの言葉も告げられずに死んでいくのだ。それを考え始めると、何だか可哀想になってくる。


 俺が押さえつけているオークにはまだ剣が刺されていない。そのため、彼らが剣を抜いて軽く処理する間も、押さえつけたまま待っていなきゃならない。もうそろそろ腕が痛くなってくる頃だが、それくらいで弱音を吐いてられない。


「ユーゴ、シータ。どっちでもいいから、終わり次第ウールの所に行け」とタイガが言う。タイガの剣はまだオークの体から抜けていない。死後硬直ってやつか? それとも単純にオークの肉が硬いのか。どちらにせよ、俺の剣を使えばいいのに。




「どうなってんだ?」




 俺の方を見ながらシータがそう発した。

 どうなってる……とはどういうことだ?


「おい、オークが……」とユーゴも驚いている。


「どうした?」と彼らに尋ねた。俺はそう聞くしかない。今、この場から離れられないから。


 タイガは剣を放り出してこっちにやって来て、その場ですぐ驚いた。


「オークが死んでるぞ!」


 そう何人かが発した。俺の方を向いてそう言っているから、俺が押さえつけているオークのことだろう。オークが死んでいる? 俺はまだ首を押えただけで、まだ何もしていない。


「ウールお前……さっき右手でなんかしてたよな。何をした?」とタイガが俺に尋ねた。


「何って、右手でオークの首をこう……グッと入れて……」と身振り手振りで彼らに伝えた。


「それだけでオークを殺したのか、お前何者だ?」


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