第9話 違法な道を突き進む

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 まずはメンバーについて知っておかなければならないと思い、リーダーが誰か尋ねた。


「ユーゴ、顔に傷が入ってて寝てるやついるだろ。あいつだよ」


 どうやらリーダーは気絶しているらしい。俺が気絶させてしまった、それは申し訳ない。さっき「なんか探してんのか」と言っていた人物で、右頬には古傷が入っている。剣で切られたのか、悪化させるように盾を当ててしまったな。


「ユーゴが寝てるから俺が変わりに話す。俺の名前はタイガだ。俺たちは……国・ストーズ生まれ」


 ストーズ……? 俺は多分、その国を知らない。俺たちが今いるのは”セントリー”という国。近くに”カーミング”や”トゥーエル”という国があるのは知っているが、ストーズは知らない。


「ここからもっと西にある小国だ、色んな人種が集まっている。モンスターも出没するが平和だった。それなのに戦争で故郷を失い、仕事どころか家族も全て消えた。俺たち6人はセントリーに行き着き、働こうとしたが……できなかった。何故か分かるか?」


 彼は歯を食いしばり、手を震わせながら話を続けた。


「差別だよ。人種差別だ。先祖が何かをしたらしいがよく分からねぇ。分からないが、俺たちは仕事も住処も奪われた。『お前らは家じゃなく森に住め』とか『猿は黙れ』とか何度言われたか。同じ人間なのにな」


 俺の周りには肌が白い者しかいなかった。俺は幼少期、シティスト近辺の村で暮らしていた。その時にさっきの『肌の色が違う人は悪』と聞いたのだ。肌の色だけで人を区別とか差別するのは間違っている、と思っていたし現に間違っていた。


「ずっと俺たちは苦い思いをしてきた。今もだ、仕事が無いから住処も無い。そこで6人で討伐パーティーを作った。モンスターを討伐して死骸を違法で取引する業者に渡す。それで何とか生きてきた」


 彼らにこんな壮絶な過去があったなんて。俺は人に差別をしたことがない……と思う。したかどうかなんて覚えていない。そもそも肌の色が違う人に会ったことがないから。でも、彼らは苦しんできた。変な価値観を持った人達に苦しめられて。


「さっきはつい殴っちまった。それは謝る。いつも見ず知らずの人に殴られるから、つい対抗するためにな」


「そうか、それは大変だったな」


 俺はほぼ無意識にそう言っていた。


「俺たちを心配するのか、初めて見た。有難いが、お前も差別されるぞ。だから俺たちを守る人は誰もいない」


 そうか、差別されている人たちを守ろうとすると、守ろうとした人たちまで巻き込まれて差別される。これだったら、差別する側に回った方が得になってしまう。嫌な世の中だ。ま、俺が世界を知らなかっただけだか。


「それで、お前はどうしてシャリアに入りたい? 金は思ってるより入らないぞ。取引でも下に見られるからな。昔はメンバーを募集していたが、それもやがて無駄だと分かった。メンバーを募集していないことはないが」


 どうするべきか迷った。素直に「シャリアを立て直すため」とは言えない。


 と、ここで他のメンバーたちが目覚めた。


「悪い、1人ずつ紹介するよ」とタイガは寝ているメンバーを無理やり起こして立たせた。小声で「早く立てよ」とか言っているのが聞こえた。無理をしなくていいのに。


「こいつはジュリー。俺たちの中で1番の力持ちだ」と紹介された男は、黒い肌をしている。


「こいつはジェス。身長は高いが不器用」と紹介された男は、紹介通りに背が高い。白い肌をしているが、本当に差別されてきたのだろうか。


「こいつはシータ。力持ちだし頭も冴えてる。オールマイティな存在だ」と紹介された男は、真剣な眼差しで俺の事を見つめてくる。筋肉質な男だ。


「こいつはユーゴ。言った通り、ここのリーダーだ。それ以外に言うことはない」と紹介された男は、髪の先を金に染めている。肌の色も少し俺と違う。


「こいつはホーク。目を見てみろ」と紹介された男は、ジェスと同じ肌の色をしている。が、目が皆と違って白い。目の色で彼も差別されてきたのか。


「で、俺はタイガだ。訳あって髪がない上、肌も黒い。だからよく悪人として扱われてきた。俺は差別をしたことがないのに、差別はされる。不平等だろ?」


 彼らは生計を立てるために、違法取引でも何でもやってきたんだろう。何度も言うが、たった目の色とか肌の色が違うだけなのに、ここまで扱われるなんてな。俺には考えもつかない。


「あんたの名前は何だ? 仮面を取れない事情があるならいい。目的だけ教えろ」とユーゴが口を開いた。頬の傷は目に食い込んでおり、上手く機能しているかすら怪しかった。


「俺はフォルス・ウール。仮面は色々とあって外せない。でも、パーティーに入らなきゃならなくて、君たちを探していた」


 多くを語らないようにして、伝えられることだけ彼らに伝えた。彼らは納得したように、頷いていた。


「あんたも大変だったんだな、しかし俺たちは何たって”最底辺のパーティー”だ。入りたいなら止めない……とも言えない。入るのは勝手だが、今より酷い生活を送ることになるぞ?」


 ここまで言われるなら入らない方が賢明だろう、俺にとっても彼らにとっても。しかし、どうしてもウェール村を立て直さなきゃならない。追放された真の理由も知りたい。


 半端な気持ちではダメだと分かっているが、俺には実力もある。一応は、あそこに居たから。


「違法な道を突き進む、屈するな、耐え続けろ、いつか見返せる日が来るまで」


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