第8話 シャリア
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ウェール村の村長は、討伐パーティー・シャリアのことを「最底辺のパーティー」と称していた。何をしたパーティーかも分からない。紙に書いてあった”6人組”と”全員男性”、これくらいしか情報がない。
ポリスタットのどこを拠点に活動しているかも書いていないため、そこだけは村長に教えてもらった。逆に言うなら、それ以外は一切教えてもらえなかった。
聞いても「自分で調べろ」と言うのみ。特に装備なども用意されなかった。そのため、なけなしの金で黒いローブと仮面を買った上に、髪も軽く染めた。
銀色の自分の髪に、彼に言われた通りに桃色を足した。銀髪でも目立つ方だったが、桃色を混ぜることによって更に目立つようになった。しかし黒いローブを羽織ることによって、髪はほぼ見えなくなった。それでも不安なため、白い仮面を着けて完全に見えなくさせた。
ついでに、名前も考えた。
そのままの名前は流石に使えない……ということで、彼女の考えた”フォルス・ウール”になった。
名前の由来は”自身の失踪した両親の名前から取った”との。急に深刻そうな顔になったため、深く聞くのはやめた。
更に新情報もある。
彼女はデリーシャを知らなかったようだ。どうやらウェール村には新聞など無いみたい。都市に行けば新聞は出回っているが、彼女が都市に行く時は基本忙しいため、新聞など見ている暇がないとか。
世の中の情勢を知る時は、新聞以外の手段に頼る。新聞は討伐パーティーについて多く書かれているから。皆、討伐パーティーに興味津々な様子。
俺はマイト・ラスター……ではなく、フォルス・ウールとしてシャリアの拠点に向かった。黒いローブを羽織り、白い仮面を被る。彼女に別れを告げ、ある程度の荷物を持って。
シャリアの拠点は、ポリスタットの郊外の喫茶店近くにあると聞いた。そこで村長に教えられた場所に行ってみたが、喫茶店は無かった。代わりに、ボロボロの空き家があった。これが喫茶店とでも言うのか。ウェール村並に酷い有様だ、窓もなければ、木は腐って柱も壁も崩れそう。
周辺の人に聞いてみたかったが、明らかに格好が怪しいために、とても人に話しかけられるような状態ではなかった。仮面を外せば気づかれるかもしれないし。
「なんか探してんのか?」
明らかに格好がおかしい俺に向かって、何者かが話しかけてきた。ローブを羽織っているため、声が聞こえにくい。仮面を着けているから別にフードは取っていいな……と思い、取ってから振り向いた。そこには剣を持った同い歳くらいの青年たちが立っていた。
初めてだ、黄色い肌や黒い肌を持った人が目の前にいる。この世界は肌の白い人が主流で、遠くの地に肌の違った人間がいるとは聞いていたが、それが目の前にいる。つまり、遠くから来た人間たちか?
「お前、敵か?」
青年たちのうちの1人が俺にそう言った。
俺も剣を持っているから、戦いを仕掛けたように見えたんだろう。しかし、俺はシャリアの拠点に行きたいだけだ。
「俺はシャリアに加入したい、そのためにシャリアの拠点を探している」
「もう……めんどくせぇな」
彼らは何を勘違いしたのか俺を取り囲み、拳を構えていた。何を考えてそうなったんだ?よく分からないまま、彼らは突進してきた。
そうだ、肌の色が違う人達は悪と聞いた。
あくまで聞いた話だし、肌の色だけでそう区別できるものではない。
でも、実際に襲いかかってきているからな。
ともかく、突っ立っていたら殴られる。
俺も背中に収めていた盾を取り出し、彼らの振るう拳を防ぐ。彼らは複数人だから、こちらから攻撃を出す暇がない。彼らの拳を、俺は盾でずっと受け止める。これこそ、デリーシャで培ってきた防御力だ。
しかし彼らもそろそろ手が傷んでくる頃だろう。対モンスター用の硬い盾で人間の拳を防いでいるのだから、彼らの骨も実際に折れてきそうだ。後、俺も疲れてきている。
そうだ、ずっと防御ばかりしていてもダメだ。あの夜を思い出せ。俺は「役に立った」のか?防御ばかりで、皆のサポートをしていたが……それはただの言い訳だったのでは?
なら、今こそ動こう。
攻撃してくる彼らの顔面に向かって、一発ずつ盾で攻撃を加える。平べったい部分で、顔面に向かって押し付けるように。流石……対モンスター用の盾だ、攻撃を受けた人達は一発で気絶した。
「ちょ待ってくれよ……話を聞けって」
「ふざけんなよ……」
まだ攻撃されていない青年たちがそう発した。話を聞いてないのは君たちの方だ。俺は勝手に殴られた方だぞ。
「待て……俺たちはシャリアだ!」
彼らは次々にそう叫んだ。
お前らがシャリア……? 俺はもちろん疑った。もし彼らがシャリアなら、彼らは加入したいと言っている人に対して暴行を加えようとしたことになる。辻褄が合わない。一応攻撃の手を止めた。
「ともかく着いてこい、あとそこで眠ってるジェスを運べ!」
彼らは気絶している仲間たちを背負い、その空き家に向かった。本当にここで合っていたのか。気絶したジェスという高身長の青年を中まで運び、扉を閉めた。扉も今にも崩れそうだったため、ゆっくりと静かに。
中は暗くてよく見えなかったが、誰かがお手製のランタンで灯りをつけたため、少しだけ明るくなった。奥にはいくつか使われなくなった看板が無造作に置かれていた。
”メンバー募集中”
”誰でも入れます”
こんな謳い文句が並んだ看板を外に置いていたのか分からないが、逆に怪しいな。俺が先入観を持っているだけかもしれないが。
更に奥を探索してみると、筆で汚い言葉が大量に書かれていた。
”消えろ”
”モンスターよりお前らが憎い”
一体彼らが何をしたのか分からないが、何があったのかだけ知りたくなってきた。ここまで書かれる討伐パーティーなんて初めてだ。悪いモンスターを討伐すると言ったら、普通は慕われる。もちろんデリーシャに限った話じゃない、ほぼ全部のパーティーがそうだと思っていた。
「甘いな、お前がどこて暮らしていたかは知らないが」
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