第15話 緑の巨人・ハローク

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「第2のゲーム、スタートだ!」


 上で優雅に座っている上級階級の1人がそう叫ぶのとほぼ同時に、目の前にいた緑の巨人・ハロークが俺に向かって飛び出して来た。

 普通の巨人とは違い緑の肌をしていて、腕や足は木質化している。所々葉が付いており、遠くからは木にしか見えない。


 緑の巨人・ハロークは恐ろしい。普通の巨人でさえも討伐に時間がかかるのに、緑や炎の巨人へとグレードアップされては、討伐する側としては困る。

 炎の巨人・ムスルは、名前の通り……身体が炎に巻かれている。それでいて、普通の巨人と同じ大きさか少し大きいかのどちらか。


 だが緑の巨人・ハロークに至っては、普通の巨人と同じ大きさだが、腕や足が伸びる。まるで樹木のように成長を一瞬で済まし、腕を剣のように尖らせてから討伐者をいとも簡単に刺し殺す。


 モンスターの攻撃を防ぐために作られた盾ですら貫通してしまうほどに。逆に肉体も樹木化しているために、剣が通らない時だってあるらしい。


「逃げろ!」


 俺はパーティーメンバーにそう告げ、急いで受け身を取った。逃げるのは間に合わなかった、ハロークの存在に気を取られていたから。ハロークは俺に向かって突進した。俺は衝撃波により、簡単に吹き飛ばされた。


 やはり巨人、1人では互角に戦えないのは分かっている。しかしタイガが負傷して、他のメンバーの動きも制限されている今、動けるのは経験者である俺だ。ハロークと戦ったことはないが、同じような炎の巨人とは……ある。


 ハロークはその何でも貫けそうな鋭い腕を使わずに、普通の巨人も持っている、何の変哲もない足で俺のことを踏み潰そうとした。

 これは受け身を取ったところで踏み潰されて終わりだ。避けるしかない……と思い、武器を両手で持ったまま全力で逃げた。メンバーのいる方向とは真反対の方へ。


 ドン……ドン……と巨大な音を立てながら、ハロークは俺を追いかける。逃げる人間の俺と、追う巨人であるハローク。いつかは絶対追い付かれるため、何か対策を考えようとするも……思いつかない。


 ハロークの弱点である首元を狙えばいいのだが、そこにどうやって攻撃を当てるのか。さっきは助走をつけ跳んでから、巨人の背筋を狙った。


 しかし……今の俺にできる気がしない。ついさっきの出来事だったが、その時は力がみなぎっていた。力が湧いていくような感覚と、何者かに身体を持ち上げられている感覚になっていた。脳に電流が走ったのも感じた。あくまでもその一瞬だけで、今は何もない。


「どうしたノーマッド、逃げてばかりじゃ勝てないぞ! 時間制限なんてものは無いからな」


 俺のことを見下ろしている上級階級の人間らは、何の策も無しに逃げ惑う俺に向かってそう叫んだ。そうだ、このまま逃げていても終わらない。もう一度連携して倒すか、いいや、さっきみたいなことが俺にはできるか?


 まず、緑の巨人にとってこんな空間など、赤ん坊専用の仕切りのついたベッドくらいにしか感じないだろう。狭すぎる……って意味だ。


 首元が弱点だと分かっていても、作戦が思いつかない以上、彼らを巻き込むのは危険だ。ここは俺だけで何とかするしかない。


「グリャァァ……」


 奇声を上げながら追いかけるハロークに向かって、俺は1本の剣を投げた。デリーシャ時代から持っていた大切な剣だ。こういう時こそ活躍してくれるだろうと信じて、奴の首筋に向かって一度振り返ってからぶん投げた。


 実際、奴の首筋に当たりはしたが、もちろん刺さらなかった。投げるだけでは力が足りなかったのだ。逆にそれを知ることができたので成功といえば成功だが……そう簡単にはいかなかった。剣はちょうど奴の首のくぼみに落ち、取りに行くのも難しい場所に置かれていた。


「グルルルャャャ……」


 奴は奇声を発しつつも、立ち止まったまま腕や足を樹木に変化させていった。両手を胸も前で組んだと思えば、それは木の鎧へと変化し、腕は鎧の横から新たに生えてきた。


 足もその場から動けないように、樹木の根みたいに太く長く硬く、固定するように変化させた。足元には根、見上げれば胸には葉や枝、これはただの木にしか見えないが、きちんと赤く光る目と顔はついている。


 新たに出現した鎧のせいで、奴の弱点である首筋を狙うのが難しくなった。後ろからなら狙えそうだが、奴は俺を目の前にしている。動いたところで、息の根ごと止められる。


 待てよ、奴の足は固定されている。腕も長く生やしているが、所詮は樹木。届かないところだってあるだろう。人間の腕だって長いが、痒くたって届かないところがある。それと同じ……であってほしい。


 俺はハロークの固定されている足……すなわち根を伝って、奴の弱点まで走る。樹木と化した、緑の巨人の身体をだ。突き進む俺を払おうとするが、奴の腕は届かずに止まっている。これなら簡単に首筋まで辿り着けるな。


「グルルル……」


 死を悟ったのか、奴は腕をバタバタさせながら、身体を伝って登ってくる俺を振り落とそうとしてきたが、何度も言う通り攻撃が届かない。根を伸ばすのに力を使い過ぎたか、腕を伸ばせば届いたのに。


「トドメだ」


 俺は奴の首筋に向かって、残った1本の剣を両手で突き刺し……できない。


 奴の首筋から新たな腕が4本生え始めていた。腕といってもウネウネとしていて、関節とか存在せず、自由に動かしていた。


 ウネウネとした4本の腕は剣を防いだ後、俺を突き飛ばした。俺は受け身を取ろうとしたが、それも無駄だと気づいた。なんせ、高い。ここからどんなに受け身を取ろうとも、落下死するだけだ。


 でも、このまま何もせずに落ちて死ぬ訳にはいかない。俺にはやるべきことが沢山残っている。それを残して死ぬ訳には……ダメだよな。


 俺は何とかして生き残るべく、空中でもがいた。小型のナイフとか無いか、それがあれば奴の身体に突き刺してぶら下がれるのに。仮面を取って、それを突き刺すか……そこまでの強度も無いな。


 考えている内に……地面だ。


 グギッ


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