第5話 ウェール村
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酒屋の店主と共に、モンスターの”車”に乗って都市・ポリスタットを訪れた。彼は彼で買い出しに行かなきゃならなかったらしい。方向も同じだし、彼の買い出しを手伝うことにした。今までお世話になったことだし、少しでも手伝えればいいな……と。それに、ポリスタットについても知っておかなきゃいけない。情報収集も兼ねて。
ついでに、ポリスタットとシティストは隣の都市同士と言えど距離はある。朝イチの車で出発したとしても、着くのは太陽が真上から少しずつ下がっていく時間帯。車も遅い訳じゃない、離れているだけ。
「いやいや悪いな、最近の異常気象もあって食物が値上がりしてるんだ。どうせポリスタットに行くんだ、ここで買い溜めしとかないとな」
そうだ、最近やけに気象が異常と言われている。追放される少し前から、都市では雷が三日三晩落ち続けた。雨も降らずに雷だけが。温暖と言われていた都市も少しずつ暑くなってきた気もする。そのせいで野菜が育たなくなったのか。追放された後もそれは続いている。
自分の物事を振り返る基準が「追放された後」や「追放される前」になっているのが、心なしかまだパーティーに執着しているようで、嫌になってきた。単純に1週間前と言えばいいのに。
「そうだ、俺がよく行く野菜屋の主人がこの辺の村に詳しかったはずだ。俺が野菜を買っている間に聞いとくといい。世の中に疎い、お前のことを誰か認識できないはずだ」
酒屋の店主の言葉通り、彼が野菜を購入している間に野菜屋の主人に話を聞いた。
「今度ウェール村を立て直すよう依頼されたのですが、ウェール村ってどういった場所ですか?」
「何だ、物好きか」
野菜屋の主人はそう返した。物好き? ウェール村を立て直すことが、そこまで嫌われるようなことなのか?
最小の村とは聞いていたし、故郷でもない村の立て直しを手伝うなんて他の人からすれば馬鹿みたいかもしれないが、俺は依頼されたからにはやり遂げたい。何でも屋の意思ではなく、俺の意思で。
「あそこの村はやめとけ。変わりモンの村長さんがうるさいぞ。外からの輩を受け付けない、モンスターの襲撃は酷いのに一向に対策を打たない。何人もの都市のヤツらがウェール村を保護しようと……あいつは断った。おかげで田畑は荒らされ、出ていく人も増えた」
そういや言っていたな。ティナ……という少女は可愛らしいが、ティナの爺が気に食わないと。彼女の祖父が村長で、その村長が外部からの干渉を嫌う人間なら……俺は行っても断られるかもしれない。
いや、教会で出会った謎の黒い人からの依頼だ。それを言えば少しは変わるだろう。受け入れてくれとは言わないが、一応は依頼された身だ。やり遂げたいという気持ちもあるし、彼の願いも叶えたい。
「どうしても行きたいなら止めない。だが理不尽なことがあっても耐えろ。お前みたいな真面目な人間が、世の中では損をする。逃げ出してもいいが、耐えれるなら耐えろ」
初対面の人に勇気づけられた。俺はよく人に「真面目だ」とか言われることがある、今も言われたが。それで損をしたことはないと思う。損をしたと実感していないってのも考えられるが、俺自身そう考えていないんだからいいのでは、なんて思う。
でも、彼の言葉には説得力がある。耐えれるなら耐える。それは今後の人生でも肝になってくるだろうな。
「終わったぞ。行くか。俺はもう帰らなきゃ間に合わない。お前も早めにウェール村に行っといた方がいいぞ」
彼の買い物が終わったみたいだ。俺はウェール村に、彼はシティストに、行き先も方向も異なる。俺は野菜屋の主人と彼に礼を言い、ウェール村に向かった。都市の中心部からは離れているが、交通手段が無いために徒歩で向かった。
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ウェール村に辿り着いたのは、彼たちと別れてから4時間くらい経った時。もう日は落ちかけ、辺りも真っ暗。
いざ、辿り着いたのは良いが……これは村なのか。田畑は荒れに荒れ、もう何の植物も育たなくなるまで放置したのかというほどに、人の手が加えられていなかった。一部の家も壁が崩れていたり、窓が破られているものだったりと、人が住むには不便なものが多かった。
そもそも、人が暮らしている気配がない。夜になったというのに明かりがついていないから。都市の方は日が沈む前から明かりがついていたのに、こちらではどこからも明かりが漏れていない。
「何かお探しでしょうか?」
暗闇でよく見えなかったが、少女の声が聞こえた。声からして村の方から聞こえるな。声が聞こえた方へ、俺は走った。
「貴方は誰でしょうか?」
走った先には、青がかった黒髪の少女が立っていた。食事中だったのか、何かを咀嚼しながら喋っている。人がいて良かったと安堵したが、もしや彼女が……ティナという人か。顔の特徴は聞いていなかったが、確かに可愛らしい顔をしている。
「ある人から『ウェール村を立て直してほしい』と依頼された……マイト・ラスターです」
つい無意識に本名を言ってしまった。自身に人気がなかったとはいえ、一応は有名な討伐パーティーの一員だった。新聞にも端の方に名前が載っていたし、追放された人間だと知られたら面倒臭いことになりそうだ。
が、彼女は違った。
「あぁ、ありがとうございます。ようやく来てくださったんですね。今お茶を出しますから……」と、俺を知らない様子。その方が好都合なのだが、少し悲しくも思えた。
その時。俺は何者かに肩を叩かれた。
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