第3話 ゴブリン
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俺は背中に差していた剣を取り出し、左手で盾を構え、右手で剣を強く握り締めた。いつもはパーティーで動いていて、サポートに回っていたから倒せていたが、独りで攻撃しなきゃいけない。本当に討伐できるのかと、少々不安に陥った。
でも、殺らねば殺られてしまう。ゴブリンは小柄で攻撃力も低いが、集団となればそう簡単にはいかない。少しの油断やミスが命取りになる。今回は助けてくれる仲間もいない。孤独で戦闘。
「ウギャギャ……」
ゴブリン共は鉄の棒を地面に打ち付け、威嚇する。鉄の固くて鈍い音が、天井のない教会で響き渡る。殺る気だ、と感じるのと同時に、3体程が俺に向かって突進してきた。
鉄の棒くらいなら盾で防げるが、同時に全方向から攻撃されたら防げない。
今は上手く逃げよう。装備が重くとも、相手が小柄で俊敏だろうとも、一旦はこの不利な状況から逃げる。
ゴブリンに円状に囲まれている俺は、1番小柄なゴブリンの頭を蹴り飛ばし、逃げるように教会の外へ出た。教会は森に囲まれているが、入り口はそこそこ平坦。ここなら好き勝手にできる。
教会の中は障害物が多い。人間の俺には突っかえるような障害物でも、小柄なゴブリンなら簡単に通れてしまうように、教会の中での戦闘は俺には不利だった。よく「物陰に隠れて戦え」というが、言葉には時と場合ってものがある。物陰に隠れて戦っていても、ゴブリンらは身軽だから、物陰に隠れている俺を見つけてボコボコにするだろう。
”身軽なモンスターと戦う時は、基本平坦な場所で戦うのが良い。逆に巨大なモンスターと戦う時は、近くに障害物があった方がいい。身を隠しつつ攻撃ができる。巨大モンスターなら、物陰に隠れている人間をまとめて潰すことはできても、丁寧に潰すことはできないから。”
これは、ガルの言葉だ。彼が俺たちに教えてくれた。戦闘面ではとても頼りになる奴だった。リーダーとしてパーティーをまとめ上げ、戦闘中でも気にかけてくれた。そんな、良い奴だった……のに。
これ以上彼の事を考えていても、キリがない。彼は変わってしまったんだ。いつからか弱者を切り捨て、強い者を求める思考に変わったんだ。俺は弱者と認定され、追放された。それだけのことだ。だからなんだ。
実際、思う節はあるんだから。俺も更に強くなって、見返せるようになればいい。もう二度と彼らと一緒に戦うことはないだろうし。彼らは彼ら、俺は俺。
気がつけば、ゴブリンらはまた円状に俺を囲み始めていた。奴らは徐々に距離を詰め、囲む円の直径も短くなっていく。
覚悟を決め、俺は剣で最も小柄なゴブリンの首を撥ねた。骨や肉が邪魔するため上手く断ち切れないが、命が落ちたのは確認できた。
さて、モンスターと言えど奴らは生物であることに変わりはない。仲間の首が撥ねられたのを見て怯えて逃げる奴もいれば、仇と言わんばかりに立ち向かってくる奴もいる。
立ち向かって来たのは、生き残った6体中1体だけだった。俺からしても気が楽だった、ゴブリンを1体だけ相手するというのは。逃げられないように奴の首元を盾で地面に押さえつけ、手と足を斬る。ゴブリンの独特の鳴き声も上げなくなった所で、とどめを刺す。
少しばかり、罪悪感がある。でも仕方のないこと。モンスターは人を襲う。それを防ぐために人はモンスターを討伐する。お互いに命を奪い合う戦い、いつかは終わってほしい。
「お見事」
教会の奥の方から、人間の声が聞こえた。依頼人か、急いで中に戻ると、斜めがかった十字架の前に黒いローブを着た人間が立っていた。声と身長からして男性だろうが、フードを深く被っているため顔が見えない。
「ぼ、私が君を呼んだ。君に依頼をした。本当は教会の清掃じゃない。教会の跡地だ、ここにはもう誰も住んでいない」
ここは教会の跡地だったようだ。それはそうだろう。モンスターが簡単に出没するような場所で、礼拝を行える訳がない。ガラスが割れているのも、柱が崩れそうなのも、跡地だったから……で納得できる。
なら、どうして俺は呼ばれたんだ? 教会の清掃が目的でないのなら……何だ?それに、俺は”何でも屋”の仕事の一環で訪れた。もしかすれば、俺じゃなく別の人が訪れていた可能性もある。
「何でも屋、面白い名前だよ。そこには君とスピラーしか働いていないし、彼は酒で溺れている。もう閉店するんだし、ここに来るのは君しかいない」
スピラー……文脈から察するに、何でも屋の店主か。酒で溺れていたのは分かる、俺と出会った時も酒臭かった。となると、酒屋の店主は俺に閉店間近の店の手伝いを紹介したのか。仕事を貰えるだけありがたいが、もうじき閉店するならどちらにせよ変わらない。
「それより、君に依頼がある。”ウェール村”を立て直してほしい。私の故郷なんだが、私はもうじき遠い地へ行かなければならない。君なら私の代わりが務まる。報酬も住処もある、パーティーをクビになった君ならや----」
待て、彼は今「パーティーをクビになった」と言ったな。何故彼がそのことを知っているんだ。俺は追放されたことを、酒屋の店主にしか言っていない。
都市の役人に追放支援金の手続きをしたが、役人には守秘義務が課せられる。誰が追放され、誰がどのパーティーに入ったか、それらは公表されない。追放された側かした側が声を発することは可能なのだが。でも俺は誰にも言っていない。ガルが言ったのか。
不思議だ、顔を全部覆い隠している彼の存在が。名前も教えなければ、性別も教えない。何も明かそうとしない彼の存在が気になり、俺は彼に近づこうとした。
「来るな!」
彼はどこからか小型のナイフを取り出した。一瞬の、見事な手さばきだった。彼には近づいてはいけないと察知。とりあえず俺は後退り、距離を取ってからまた話を始めた。
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