第2話 有害な存在
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「んで、パーティー追放されたのか?」
俺は酒場を訪れた。もう閉店の時間帯だったらしいが、気前のいい店主のご好意で特別に入らせてもらった。そこで追放に至った経緯を全て話した。最初から最後まで店主は驚いていた。俺が追放された理由にも、ガルの言葉使いにも納得いかない様子で、説明する度に彼は首を傾げていた。
「俺の奢りだ、飲めよ」
彼は俺にビールとパンを奢りつつ、奥で調べ物を始めた。ビールの味はそこまで美味しくない。いつもは美味しく飲めていたが、今の状況も関係しているのか、味を正しく感じることができないようだ。パンも同じ、喉元は通るが、正しく味を認識できていない。
「何でも屋ってのはどうだ?」
突然、彼はカウンターの前に立ち、食事をとっている俺の前で紙を広げた。そこには”何でも屋”と書かれた店の絵が載っていた。
「言葉通り、依頼された物を何でもこなす店だ。お前なら体力があるしいけるだろう。ここなら俺のコネがある」
何でも屋か、働き口が無いならここで働きたい。何でも屋と言っても、何をするか分からないというのが少し恐ろしい。依頼された物なら何でもこなすのか、それは俺にもできるのか。
一応、俺はパーティーのメンバーだった。できるなら、普通のパーティーに所属したいのだが。できるならでいい、無理にとは言わない。でも、自分の力を活かすには……モンスター討伐が向いているはず。一応は……一人前だから。
「パーティーはオススメしない。あの有名な”デリーシャ”を追放されたと雇用者が知ったら、難がある人物として認識されるぞ。デリーシャは巷では有名で、善人揃いのパーティーとも呼ばれている。勇者じゃなくて”優者”と呼称されていたからな」
デリーシャ……由来は知らないが、俺以外の誰かがパーティーにそう名付けた。巷の人かもしれない。
優者と呼ばれていたのも知っている。何ならさっきまでは俺もそう呼ばれていたんだから。優秀な者の集まりだったし、ガルも他メンバーも元々は優しく接してくれた。
「俺はお前を幼い頃から見ているから分かるが、普通の人間じゃ追放された側が難ありと捉える。今日は泊めるから、明日行ってこい」
店主のご好意で、新たな職を紹介された。彼はフィンに会いたいと言っていたが、俺もフィンの行き先は分からないため、特に何も伝えないでいた。
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「ここが何でも屋……か」
俺は無意識にそう発していた。
目の前には”何でも屋”と書かれた看板が、斜めに掛けられている。窓のガラスはボロボロに割れていて、店の柱も腐り始めている。少し触るだけで店自体がボロっと崩れそうだった。
「おめえか、カヴァの弟子は」
突然後ろから声がしたので振り返ってみると、顔の真っ赤な少し腹の出たおじさんが立っていた。酔っ払っているのだろう、少し酒臭い。カヴァというのは店主の本名、となるとおじさんは、何でも屋の店主となる人か。酒屋の弟子になったつもりは無いが、彼に話を聞くことにした。
「話通りだ、何でもする店だ、依頼を受けだらするだけだ。修理だっだり家政婦として派遣されだり、村を立て直すことだっである」
少々訛りが気になるが、仕事を貰えるなら働きたい。パーティーに参加するのが不可能に近いと分かった今、ここで働けば身にあった仕事ができると感じた。新たに働き口を探すのは困難だ、転職なんて以ての外、受け入れてくれる人達なんてほぼ居ない。その受け入れてくれる人が、目の前にいるんだから。
「引き受けるんなら、今日から颯爽と早速行ってもらうで、ハハハ!」
彼は豪快に笑った後、ボロボロで今にも切れそうな紙を俺に手渡した。そこには「やることリスト」と大きく書かれていた。どうやら依頼内容をまとめた紙らしい。彼は俺に目線を送っていた。これをやれ、ということか。
「引き受けるんだろ、やっでこいよ。ガハハ」
彼はまた豪快に笑い、強引に俺を外に追いやった。どうやら、本当に全部やらねばいけないらしい。変な仕事を引き当ててしまったようだ。
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依頼内容を整理しよう。
整理しようにも、依頼は2つしか書かれていない。教会内の清掃・農村の手伝い、この2つだけだ。教会の清掃は定期的な雇用でなく、単発での雇用らしい。だから今日やってしまえば、これで終わりということになる。なら、教会の方でいいか。
これだけ何故か昨日に依頼されたものだった。常識なら昔に依頼された農村の方を取り組むべきなんだろうが、農村の手伝いは長期的な雇用のため、もう少し話し合いが必要だと考えた。
それに、この農村の名前を聞いたことがない。ウェール村と呼ばれているらしい、都市からどれ程離れているか知らないため、今すぐ行くのはお互いに宜しくないだろう。
ボロボロの紙に付いていた、茶色く文字すら見えない地図を頼りに、教会を訪れた。周りは森に囲まれ、ポツンと教会だけが存在していた。
こちらも教会といえない位に、壁が崩れ落ちていた。神を信仰する暇があったら、教会を修築した方がいい位に。信者も教会に行きたいと思わないだろう、中に入って実感した。空は丸見え、ステンドグラスも破れ、十字架も斜めに倒れかかっている。
昨日に依頼されての今日だから、人は誰かしらいると思っていたが、誰もいない。宿屋も近くにないため、依頼人を探すには骨が折れそうだ。
しかし、ここは森に囲まれている。人が入れない地は、モンスターの巣窟である。討伐パーティーに暮らす地を追いやられたモンスター達は、やがて人が入ってこない森に住処を作るようになる。だから、もしかすればモンスターが----
いた。もう既に周りを囲まれていた。格好からしてゴブリンだ。薄汚い服を着て、どこで拾ったか鉄の棒を持ち歩いている、人を襲うこともあれば家畜を喰い殺すこともある、有害な存在。
一人前で、元々は討伐パーティーの一員だった俺。幸運なことに装備品は持ち歩いている。持ち切れない分は酒屋に預けてあるが、剣や盾といった基本の武器や鎧は、ちょうど持っている。
周りには7体ほどのゴブリン、俺1人でも……いけるか?
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