徳積銀行

今回の使用単語

「くれない。かしだし。のんだ」

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「貸し出しできないってどういうことですか!」


 受付カウンターで思い切り叫んだ。大きな書棚に無数の本が並んでいるけど、ここはただの図書館なんかじゃない。時間を貸し出してくれる館。時館じかんと言ったところだろうか。どんな物語にも存在している時間を貸し出してくれる。つまり、僕たちの人生一つ一つが物語であるということ。そして、その物語を紡ぐ為に必要なのが時間だ。とはいえ、その仕組みは図書館というより銀行に近いかもしれない。

 「借りる」と言うからには当然「返す」ことが必要となるはず。時間を返す方法なんてないと思うけど。だから、返せているのか分からないまま借りていた分がなくなりそうになったらまた借りにくる。それを繰り返していたある日――という名の今日。「できない」と返されてしまった。どうしよう、このままでは僕の時間は日が暮れないうちに尽きてしまう。


「あなたへの時間の貸し出しが制限されています」

「どうして!」

「どうしてと言われてもデータベースがそうなっていますので……」

「審査が通らないということですか? 僕に返せる信用がないと? というか、時間ってどうやって返すんです?」

「簡単ですよ、他人の為に時間を使えば良いんです。もしかして、今まで知らずにいたんですか?」

「……恥ずかしながら」


 視線を逸らしこめかみを人差し指で掻いた。なるほど、それなら知らないうちに返せていてもおかしくない。そして、今僕が時間を借りられないのも納得がいく。

 人は自分の為だけに生きていてはいけないのだ。


「とにかく、借りられない理由は分かりました。ですが、今から返そうにも僕はもうほとんど時間を持ってないんです。かと言って、ここで終わりたくもない」

「なるほど。それなら……」


 受付がカウンターから出て僕の横にやってきた。「耳を貸してください」そう言われ、少し屈む。僕の他に誰の気配もないのにわざわざそうするなんて、余程の内緒話をするつもりなんだろうか。たとえば、規則に反して不正に時間を貸し出してくれるとか。

 右耳に吐息と一緒に入ってきた言葉はとてもそんな物騒なことではなかった。真逆と言っていい穏やかで平和的な解決策。僕に残された僅かな時間で他人の為にできることの提案。

 僕は提示された条件を快く飲んだ。


「ありがとうございます」




――――――――――――――――――――

富山県高岡市付近だそうです。

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