味を占める
今回の使用単語
「そろい。かんよ。たべたら」
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「また君たちか……」
近所の悪ガキの中学生を補導した。中学校近くのコンビニで万引きが多発していると通報があり、駆けつけると学ランの少年が鞄の中に売り物のお菓子を忍ばせているところに出くわした。署まで来るように促すと「チッ」と舌打ちだけ返された。
署に戻ると少年と同じようなシルエットが四つ。いずれもよく見知った顔だ。俺が補導した少年の仲間。揃いも揃って学ランの前を開けて校則違反のカラーシャツを見せつけている。しかも、アイドルよろしくイメージカラーでも決めてあるのか全員色がばらばら。赤、青、黄色、緑、紫。
決まりを破って大勢とは違うことをするのがカッコいいというノリや風潮は分かるが、それがどうしてカッコよかったのか今ではもう分からない。若気の至りは、ある程度の年齢に至るとリセットされてしまうらしい。
「まさか君たち全員、万引き事件に関与してるとはな」
ため息混じりに彼らに言い放つ。実のところ、驚きはしなかった。何せ小さな町、悪さをしている少年と聞いて真っ先に思い浮かぶのはここ最近だと彼らだけだった。ただし、イメージだけで決め付けてはならない。「どうせアイツらだ、何度言い聞かせたって聞きやしない」なんて諦めて野放しにしていてはいけない。正しい道に導いてやってこその補導であり、俺たち警察だ。
「とりあえず、食べたらどうだ。取り調べじゃないし俺も刑事ではないが、こういうときはカツ丼だろ? ここらでけじめ付けようと思って用意した」
何か悪さをすればタダでカツ丼が食える、そう信じて下らないことをしていた時期が俺にもあった。ある種の夢みたいなものだったから、彼らもかつての俺と同じようなことを考えているのかもしれない。そんな思いで出前をとってみた。
しかし、誰一人として口を付けようとしない。俺なら目の前にカツ丼を出されればバカみたいに素直にかき込んでただろうに。
「誰が食うかよ」
「いや、食えよ」
「食ったらオレら悪いって認めたことになるだろ」
「実際悪いからな、万引きは犯罪。それくらい知ってるだろ。というか、そんな理屈誰が言ったんだ」
「ドラマ」
一人が言うと他の四人は何も不思議がる素振りを見せずにただ頷いている。知らない刑事ドラマだな……。これがジェネレーションギャップというやつかと衝撃を受ける。
「……まあ、なんでもいい。とにかく食え、それが罪の味だと噛み締めろ」
なんだか違う気もしたが、良い感じにまとめられただろう。少年たちがカツ丼に箸を付け始めたのを見て満足した。
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岩手県一戸町付近だそうです。
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