先手必勝

今回の使用単語

「しかも。ひそかに。ぞうきょう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どこででも胸を張れることではないけど、あたしはゲームが得意だ。特にネット対戦するアクション系。少なくとも、新学期のクラスでの自己紹介では堂々と特技として言える。教室にいる誰にも負ける気がしない。

 それなのに、あたしの番が回ってくる直前に「得意なことはゲームです」と言った男子がいた。その後に同じことを言ったら、喧嘩売ってるみたいになるじゃん。なんでよりによってあたしの前にいるかなぁ。何も悪くないのに、目の前のもっさりとした天パがなんかムカつく。

 イヤだな、と思いながらもそれ以外に言うことも考えてなかったから予定通りの自己紹介をする。


「得意なことはゲームです、誰にも負けない自信があります!」




 * * *


 家に帰ると真っ先にパソコンの前に向かった。今日も今日とてゲームに励もう! ログインし、可愛いアバターと目を合わせて気分を上げる。

 一件、メッセージが届いてると通知が見えた。差出人は……ああ、あの子か。たまに一緒に遊んでるネット友達。同い年ということ以外何も知らないけど、平日の昼間にログインしてるってことは、向こうもあたしと同じような事情ってわけみたい。


"一度対戦してみない?"


 そんなあっさりとしたメッセージだった。なんだかんだでこの子とは対戦したことなかったから、良い機会かも。

 OKして専用ルームを作って早速対戦開始。三分間の攻防で全てが決まる。短期決戦、先手必勝。早さがモノを言うからすぐさま初めの一手。

 ……って、え?

 いつもの一手目がガードされた!? 呆気に取られてたらあっという間に形勢が崩され、そのまま負けてしまった。嘘……こんなの、初めて……。


"ねえ、そんなに上手かった!?"


 すぐさまメッセージを送った。するとテンポ良く返信が来る。


"春休みの間ずっとやってたから、それで結構腕上がったのかも"

"しかも、デッキもめっちゃ増強してるし!"

"ガチャの引きが良かったんだ。君に内緒で密かに強くなってみた笑"


 珍しく"笑"なんて使ってるのがかえって悔しさを湧き上がらせてくる。


"もう一回!"


 そうやってずっとずっと、日が落ちきるまで対戦し合った。これくらい仲良くできる子がクラスにもいたら良いなぁ……。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

新潟県柏崎市付近だそうです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る