分からないな

今回の使用単語

「ふうふあい。さげて。あらいぐま」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「オシドリって別におしどり夫婦じゃないらしいわね」


 家族で動物園に出掛けた。鳥類の放し飼いゾーンに足を踏み入れてすぐに妻がそんなことを口にする。幼い娘に手を引かれながら視線を上へ遣った。


「へぇ」

「つまらない返事。夫婦愛なんて全然なくて、オスは子育てを手伝うことなくすぐに違うメスとつがいになるみたいだけど……何か思い当たったり?」

「ないない! いきなり何言うんだよ……」

「ふふ、冗談よ。あなたに限ってそんなことあるはずないって信じてるもの」


 控えめに微笑む姿も華やかで、俺には勿体ない人だと改めて思う。特別秀でたところもなければ精一杯に頭を下げて頼み込んだわけでもないのに、どうして学校のマドンナだった彼女が俺の隣にいてくれているのか。今でも不思議でならない。

 そんな彼女によく似て幼稚園生にして既に将来が楽しみな愛娘が「あ!」と声を上げて俺の腕を強く引いた。鳥類のゾーンを駆け抜け通過していく。細いツインテールを揺らしながらどこへ向かっているのだろう。


「アライグマさん! かわい〜」


 ぱっとその姿を見ただけでアライグマと分かるとは、我が娘ながら感心してしまう。たしかに可愛らしいけど、こんな顔をしていたのは初めて知った。


「アライグマといえば、本来は凶暴らしいわね。アニメなんかの影響で可愛らしいと誤解されがちだけど」


 また妻の豆知識。毎度どこかひねくれている。世界に愛されてそうな雰囲気を纏っていながらそんな風だからギャップが強い。


「なんとなく、君に似てるな」


 無意識に口から出た。ちらりと隣の顔を見てみると――




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

福島県猪苗代町付近だそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る