日本語で喋れ!

「ピーコートかダッフルコートか、どっちが良いと思う?」


 商店街の服屋。最早腐れ縁とも言うべきそいつは、何やら冬物の上着を両手それぞれに持ち俺にそう問いかけてきた。形状が違うことは分かるが、どちらがどちらなのか分からない。しかも、どちらでも防寒性能に違いはさほどないように見える。


「どっちも冬着だろ、対して変わんねぇよ」

「そんなことない。ピーコートとダッフルコートじゃ印象がかなり違う」

「お前ならどっち着ても一緒だって」


 これはしばらくかかりそうだ。鏡の前で服を合わせて何度も見比べているそいつを置いて、俺は商店街の中の雑貨屋へ移動した。

 子供の頃から少しも変わらない古ぼけた内装が落ち着く。駅前にできた商業施設のような新しい場所はどうにもそわそわしてしまう。

 店内を物色し食器売り場で足を止める。ちょうど新しい皿が欲しいと思っていたから何か見繕いたい。一人暮らしでも取り皿が必要だと感じることが最近は多い。腐れ縁共が許可もなく突然上がり込んでは飯を要求してくるからだ。俺の家が一番集まりやすいのかなんだか知らないが、律儀に食材を持参してまでやってくる。


「お、ミニプレートか。あれば何かと便利だよな」


 どうやら服の選定が終わったようで、そいつはひょこっと脇から顔を覗かせ物色していた皿を視界に入れた。購入したらしい上着に袖を通している。言っていたどちらかは分からないが、左手に持っていた方だ。


「お前はそこも英語じゃないと気が済まないのか?」

「その方がオシャレでカッコイイだろ。まあ、これは皿って言った方がしっくりくるな」


 梅の木が描かれている陶器の小皿。軽い響きの片仮名よりただ皿と言う方がずっと格好良い。


「ちなみに、ピーコートもダッフルコートも英語じゃないぞ。どちらも由来はオランダ語にある」


 ……どっちでもいい。




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今回の使用単語

「ふゆぎ。とりざら。ゆらい」

岐阜県高山市付近だそうです。

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