カガミ

 朝晩は随分と冷えるようになった。ベッドから身体を起こし、窓が結露していることに気付く。室内と外の温度差を分かっていて出かけなければならないのはとても辛い。朝番の日は家を出るまでが正念場だ。だけど、一旦出てしまえばこっちのものだ。

 家の前の川のほとりに霜が貼り付いている。明日はもっと寒くなるらしいから、水面に氷が張っていてもおかしくはない。小さい頃は凍った水溜まりの上を滑って遊んだりしたっけ。氷面に映った自分の笑顔をよく覚えてる。あの時も寒かったはずなのに、どうしてあんなに楽しかったんだろう。

 大人になると大事なことを忘れてしまうような気がする。いろんな権利と引き換えに二度と手に入れられないものを手放している。そんなことを考えながら電車に乗り込んだ。線路の向こうに光は見いだせない。

 職場に到着し更衣室で着替えをする。エプロンの紐をきゅっときつく締めるのが切り替えの合図だ。


「いらっしゃいませ」


 笑顔を貼り付け私は今日も知らないになる。




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今回の使用単語

「あさばん。ほとり。はりつく」

広島県三次市付近だそうです。

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