命の洗濯

 長期休暇に温泉を訪れた。元々暇さえあれば温泉地を訪れていたから、久々の旅に心が躍る。

 生憎の天気ではあるが普段雪と無縁の地方に住んでいるもので、しんしんと降り積もる白が一面に広がる街並みは壮観で、思わず息を呑んだ。


 宿に着くと女将や仲居さんたちが整列し私を迎えてくれた。一時の殿様気分、異世界へ足を踏み入れたようて現実を忘れさせる。受付での手続きもそこそこに部屋へと向かった。

 藺草いぐさ特有の良い香りが扉を開けてすぐに鼻を通り抜けた。最近建て替えて新しくなったようだが、純和室を残しておいてくれたことに感謝したい。やはり日本人の性なのだろうか、畳の部屋が落ち着く。

 上着を脱ぎ荷物を簡単に片付けたところで、いきなり本日の目玉に入る。温泉だ。長距離移動の疲れを一気に癒してしまおう。


 露天の岩風呂からは海がすぐ近くに見えた。時化ていて、波が激しく打ち付け冷たい塩味の飛沫しぶきが時々飛んでくる。熱めの湯で火照った頬に冷たい飛沫がなんとも癖になりそうだ。

 脇には椿が植えられている。鮮やかな紅の花弁と真っ白な雪の対比が絵になる。ここで一句と言いたがる俳人の気持ちが分かったような気がした。

 合理化だのと言って機械に囲まれ部屋の中で作業を続けるより、一旦手を止め自然に囲まれ外で息抜きをすることも大事だと実感する。


 さて、この後は夕食だ。旅館自慢の蟹料理を堪能するとしよう。




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今回の使用単語

「いわぶろ。つばき。ごうりか」

愛知県瀬戸市付近だそうです。

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