スランプ

«貨物列車の通過待ちをします、暫くお待ちください»


 各駅停車の鈍行が島式ホームに停車した。扉が開いてすぐそのアナウンスが車内に流れる。少ししゃがれた声が、雑談に紛れることなく輪郭をくっきりとさせ私の耳に届いてきた。

 梅雨晴れ、何日も続いていた雨の日と何日も続くであろう雨の日に挟まれた今日は晴れ。清々しい、すっきりとした良い天気だ。

 ホームを挟んだ向かいの線路を貨物が流れていく。いくつも続く赤紫にたまに白や水色が挟まっている。鉄の箱たちは長く連なり、車内を陰にする。長らく空に蔓延はびこっていた分厚い雨雲にそっくりだ。そしてそれは、冴えない頭にかかったもやにもよく似ている。

 文筆業をしている私の筆は最近すっかり止まっていた。良いアイデアが浮かばなかったのだ。このままではいけないと、気分転換に遠出をすることを決意した。そして今この電車に乗っている。

 長い長い貨物列車がようやくホームを過ぎ去る。途端に疎ましいくらい日光が射してくる。だが、久々に浴びるからか悪い気はしない。

 扉が閉まり、私を乗せた電車は鈍くも前へ進み出した。さて、靄にもそろそろ通過して頂きたいものだ。




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今回の使用単語

「かもつ。つゆばれ。あいであ」

岐阜県揖斐川町付近だそうです。

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