かくしごと
ラーメン屋の店主は揃いも揃って腕組みをしているな。
大学通りの入れ替わりの激しいテナントに入った新しいラーメン屋を見てそう思った。入口の横の壁に設置された看板に、大きく店主の写真が印刷されている。頭にはタオルを巻いて、季節を問わず半袖のTシャツを着た険しい表情のオッサン。三軒先のラーメン屋も似たようなもの、Tシャツの色がグレーかネイビーかの違いくらい。
夕方十八時半。講義の終了時刻と飯時が重なると、店先には行列が形成されている。どのオッサンの店にも同じくらいの行列、こだわりを持ってそこに並んでいる奴もいればそうでもない奴もいる。かくいう私は後者。
年内最後の講義終わりにふらっと列に紛れた。寒空の下で一人だと大したことない行列でも妙に長く感じられる。退屈しのぎに両耳を塞いだイヤホンから「眩しい太陽」だの「輝く水面」だのと季節外れも甚だしい曲が流れ出す。気に入った曲を見境なくプレイリストに登録してしまっているから仕方がない。
回転率が良いので、夏を一通り耳元で感じたあとすぐ店内に案内された。暖かい、夏うたに体感温度が追い付いてくる。
食券を買って店員に渡しカウンター席に座る。トッピング以外のベースは一種類のみだからか、ものの数分で提供された。塩ラーメン、ここの売りはそうらしい。ブロック状にカットされたチャーシューと味玉が一個半。なんで? 中途半端だな。
あっさりとして口当たりの良いスープを飲みながらふと考える。なんでラーメン屋の店主は揃いも揃って腕組みをしているんだろう。心理学で腕を組むことはたしか、隠し事をしている証拠とか言っていたっけ? 講義の記憶を手繰り寄せながら、麺を啜り噛み締めた。コシがあってスープもよく絡んで美味しい。
ラーメン屋店主は隠し事をしている。秘伝のスープとか言うし。いや、本当にそうか?
結局、謎に包まれたまま完食し席を立つ。器を返却し「ごちそうさまでした」と今は腕を組んでいない店主に告げた。
「ありがと、メリークリスマス!」
そういや今日はそんな日だったか。すっかり無縁になっていたから忘れていた。店主に会釈をしようと視線をそちらへ戻すと、厨房の奥に写真立てが見えた。家族写真、店主と奥さんと小学校低学年くらいの男の子。
なるほど、あの半分はささやかなプレゼントってわけか。
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今回の使用単語
「うでぐみ。へんきゃく。ぎょうれつ」
和歌山県田辺市付近だそうです。
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