インビジブル

 『将来有望なスーパーキッズ』などと冠して凄技を披露する小中学生を紹介する番組が、街角の小さな電器屋のテレビから流れていた。若い時から大人を「あっ」と言わせることができるくらいの技を披露できているということは、少なからず才能というものを持っている証拠だ。そんな目にも見えない不確かで漠然としたものを、羨んで恨んで病んだ。

 自分には何もない。分かりやすいもので言えば、職や家族や友人。分かりにくいもので言えば、目標や希望や才能。そういうものが何一つこれっぽっちもない。自分が世界中で一番の不幸者だと信じて疑っていない。こんなにどうしようもない奴は他にいない。

 才能さえあれば、そんな風に青いだけの空を見上げる。それさえあれば、職もあって目標もあって家族だってできていたかもしれない。希望を持って友人と笑いあえていたかもしれない。そうやって天を睨みつけた。自分はそういう人間だ。

 最短ルートで大成功を収めるには才能が必要で、それさえあれば良いと思い込んでいる。授かったそれを生かす為に、階段を一段ずつ上っていく努力をないものとして考えている。自分よりも一回り以上も年下の彼ら彼女らも、上達する為に努力をしていたに違いないのに。見えないものは、あっても都合良く無いものとみなしてしまっていた。

 自分はありもしない最短ルートを探し続けて当然見つけられず、こうなった。落ちて堕ちて墜ちるところまできた。今更階段を踏みしめる苦労を知ったところで、脚に疲労が蓄積するだけの徒労に終わる。

 地に足をつけることを辞める。元々ついていなかったんだ、今更なんてことはないだろう。だけど、『将来も何もかも無くなったただの人間』として、せめて彼らと同じ画面に、自分がこの世界に存在していた事実だけでも、放映されれば良いのに……な……。




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今回の使用単語

「じょうたつ。ばんぐみ。おちて」

北海道静内古川町付近だそうです。

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