この音、どこに染み入る?

 弁護士と聞いてどんな職業だと想像するだろう。裁判でよく喋ってる奴だとか慰謝料請求や借金の過払い金請求などの金銭トラブルを解決する奴だとか、そんなイメージだろうか。あるいは、タレントでもないのにテレビに出て偉そうに知識をひけらかしている誰だかよく分からない奴ってイメージだったりするかもしれない。それで間違ってはいない。だけど、花丸大正解とも言えない。なぜなら、俺はそのイメージに当てはまらないから。

 俺は弁護士。ただ資格を持っているだけではない、それを生業としている。しかし、世間がイメージするような華々しい活躍はしていない。そんなものは一部のエリートか巡り合わせが良かった強運の持ち主だけだ。俺は今日も人前に立つことなく朝早くから事務処理をしている。

 問い合わせの連絡もない静けさだけが寄り添うオフィスで黙々とパソコンに向かう。誰かを護る為に弁ずる人、だから弁護士。それなのに、俺は自分の為に一言も喋らず表計算ソフトとにらめっこ。それでもいい。世間から見ればらしくないとしても、これが俺なんだ。

 虚しく響くタイピング音も、いつか夢見た『誰かを救える存在』になる為の一歩になるならおもむきがある。




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今回の使用単語

「しずけさ。べんごし。れんらく」

福島県喜多方市付近だそうです。

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