魔が差す

 日が落ちるのと同時に君はベッドから身体を起こした。多くの人間が朝から数えて二度目の活気に溢れる頃に活動を始め、日が昇ってくると寝静まる、そんな生活をしている。昼夜逆転、それは夜に魔物が活発に動き出すかららしいけど、実際はどうなのやら。目に見えないものを信じたくなくて、視界が悪くなる夜のせいにしたい単なる人間のエゴかもしれないよ。

 リビングの椅子の背もたれにかけていたワイシャツを着てその上から着古したパーカーを羽織る。せっかくのきっちりとした身なりを台無しにするそのスタイルが君にとっては一番の仕事着らしい。

 君は自称・降魔師。悪魔を退治する人。「降魔」って本当は「こうま」じゃなくて「ごうま」って読むらしいけど、そんなのどうでもいいよね。いや、マガサスなんて名前の羽根の生えた子馬がいるのかもしれない。人間をそそのかす子馬の姿をした悪魔が君には見えている。

 その悪魔を退治する為、君は今日も一人暗闇の中を駆けずり回る。馬車馬の如く……なんて言ったら君を悪魔だと言っているみたいだ。だけど、誰かから何かからすれば君だって十分に悪魔なんだよ。


 さて、笑顔で君を送り出したところで眠りにつこうか。人間が多く活動している時間の方が何事もやりがいがあるからね。




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今回の使用単語

「せもたれ。わいしゃつ。こうま」

埼玉県川口市付近だそうです。

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