第3話 できない言い訳を考えるな
えぇ――――! お代って?
歌を歌うとか?楽器を弾くとか?
私何も出来ないよぅ!!
パッと明るさを取り戻した店内に、
「はーい。ロッド外しまーす。続けて髪染めて行くわね。あまり染めた事無いみたいだから、地肌に
麗奈の心情とは裏腹に、間の抜けたおネエ言葉。もう、いくら目を凝らしても
私、今すぐ逃げ出すべきなんじゃない?!
「オーナー! この子、ガタブルよ〜」
「あっ、あの! わ、私、音痴なんです! 楽器だってピアノを子供の頃少しやった程度だし、踊りだって知りません!」
美人オーナーさんが、丸椅子をツーと引き寄せ麗奈の横へ座った。穏やかな優しい目で麗奈を黙って見つめる。
「ひっく、わたし、ひっく、ほんと何もできなくて。ひっく、せっかくデザインの勉強したのに、コンビニバイトなんてしてるし。このまま、何も変わらずバイトにあけくれるだけなんだって! う――」
まるで
優雅な仕草で自分もレモンティーを飲みながらゆっくりとオーナーさんは話しだした。
「コンビニほど今の世の中に貢献している店はないわ。宅急便、収納代行、コピー、チケットその仕事量は膨大でしょ?」
そうだと思う。でも私が本当にやりたいことは…。
「人生の中で、やらななきゃいけない!って時は、ほんとはそんなにたくさん無いものなのよ。でも今がその時だ!っていう瞬間は逃がしちゃ駄目。どんなにキツくても明日笑っていられるならとことん突き進むべきよ」
「……でも」
「できない、やらないに必死に言い訳を考えるのはやめなさい。前に進む為に必死になった方が、その先を夢見れる分楽しいものよ」
暖かい言葉。
「セキ。この子、うんと可愛くしてあげて」
「あら〜ん、もちろんよ」
和服おネエサマはセキさん。
男の人なのに、可愛らしく小首を傾ける。
「あの、それで、お代とは?」
「うちのお代は、
「ごらく?」
「あたし達は、この邸から出れないの。正確に言うと外では姿を保てないわけ。だから、娯楽には飢えてるのよ」
クスクス笑うセキさんは、指をパチンと鳴らした。すると、姿が消えた。いや、和服だけしか見えない。横にいるはずの美人オーナーさんもティーカップだけが宙に浮いている。周りを見渡せばそこにいるとはわかっているのに服だけが動いていて声はするけど顔が見えない。
「踊ってるお前、イキイキしてたぜ」
「イキイキ? あたし、死んじゃってますけど〜」
「あっははは! 確かにな!」
「でもあんたの太鼓もイケてたわ。チュ」
「やめろー。セキの投げキッスは勘弁だぜ! チャラピアス、お前のは、ドサ回りのチンドン屋か〜?」
「なに? キサマのメガネも太鼓みたいに叩いてやるか?」
ケンカ? ではないと思う。楽しげで陽気なやりとり。
もしかしてここは幽霊屋敷?!
でも、でも! まったく怖くない!
「あの、幽霊さんって、もっとドロドロしていて怖いものだと思ってました!」
「ま、そういうのも確かにいるわね。でもあたしたちは楽しいことが好きなのよ」
再びパチンと音がすると、さまになったウインクを投げかけて、うるわしい皆さんの姿にもどる。
「あなたにもこれは好きってものがあるんじゃないかしら?」
私の好き? なんだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます