第387話悪魔編・偽その76
風香先輩の髪の毛が変化した凶器。ソレが一斉に俺に襲いかかってきた。
避けることはできない。
死ぬ。
俺は、ここで死ぬ。
風香先輩の思い通りになってしまう。
残された富士見は……富士見はどうなる?
富士見は、風香先輩のそばでずっとずっと――。
「ふざけたこと、言わないで!!」
しかし、俺の体に凶器は突き刺さらなかった。
何故なら再び富士見が立ち上がり、凶器全てを受け止めていたからだ。
「何が……何がさようならよっ!! そんなに……そんなに名残惜しそうな表情して……だったら殺さないで一緒に生きたらいいじゃない!!」
富士見は叫ぶ。その体に次々と凶器が突き刺さっているにも関わらず、彼女の叫びは止まらない。
「あなた、私のこと好きなんでしょ!? 怪奇谷君のことが好きなんでしょ!? だったらその相手を殺すなんて間違ってる!! 好きなんだったらただ一緒に過ごせればいい。それだけでいいじゃない! いつまでそんな馬鹿げた思想を抱いてるつもりなのよ!! いい歳してくだらないのよ!!」
「くだらない……ね。言ってくれるね! 姫蓮ちゃんには私のことなんてなんにもわからないよ! それに言ったでしょ? 仮に私が悪魔化を辞めたとしても私に居場所なんてない。もう遅い……例えどんな奇跡が起きたとしても……もう私に人間として君たちと一緒に過ごす世界は存在しないんだよ!!」
風香先輩は富士見の言葉が気に入らなかったのか、俺ではなく富士見を集中砲火している。富士見の体は、再び凶器に襲われ続けた。
「この超絶美少女の私なら……いえ、私たちなら!! あなたと共にいられる!! 例えそれがどれだけ現実的じゃなかったとしても……それでも私たちならなんとかなる!! 今までだってそうしてきた!」
富士見は凶器を受けながらも、ジリジリと一歩一歩前に進んでいく。
「確かに具体的な方法なんてものはわからないし、思い浮かびもしない。けれど、私たちにはたくさんの仲間がいる。きっと、私や怪奇谷君だけでどうにかならない問題も解決出来る。きっとどうにかなる」
「そんなのは希望的観測だよ。全く信用できないね! っていうか、そもそもそんなこと望んでないって何回言ったらわかるの!?」
「そんなこと百も承知だって言ってるんですよ!! いい加減気づいたらどうですかこのバカ女!!」
「は、はぁ!? ば、バカって……姫蓮ちゃん!? そ、それが先輩に対する態度なのかな?」
俺はそんな2人のやりとりをただ黙って見つめていた。
こんな感情剥き出しになってぶつかり合う2人の姿は初めて見た。
けれど、その姿を見て。
「は、ははは」
なんだかものすごく、笑いたくなった。
「ははははははははははははははははは!! なんだよそれ!! は、ははははは!!」
「か、魁斗君!?」
「……ちょっと、人が傷ついてるっていうのに、何笑ってるの?」
「い、いやすまん。なんていうか……色々考えるのがバカらしくなってさ」
俺は富士見を見つめた。そしてその先にいる存在、風香先輩のことも。
本当に、考えるのがバカらしくなった。
ただ2人のやりとりを見て、本心でそう思った。
俺はその上で、俺がやるべきこと。なすべきことを改めて考えた。
そして、その思考がまとまった。俺は何をして、何をなすべきか。
何が、やりたいのか。
「多分なんだけどさ、俺色々考えすぎてたと思うんだよ。風香先輩が人を殺したいなんて想いを抱いてるって知った時、意味がわからないって思った。そして第一に俺を殺そうとしていることも。富士見を道具にしようとしていることも。色々な人や幽霊を利用してきたことも。何もかも、意味がわからなかった。だから直接問いただしたかった。なんでですか? ってな」
風香先輩は攻撃を辞め、その場で立ち止まった。
「意味が知りたかったんだ。そんなことをする意味が。けれどそんなこと、知る必要なかったんだ。それはただあなたがやりたかったことなだけで、別にそれを知って俺がどうこうする必要はないんだ。だからさ……あなたがどうして俺を殺そうとするとか、そんなことはもうどうでもいい」
「……そう。それで? だったら君は何のために私に立ち向かうの? それはただ殺されたくないから?」
「それもある。けど――」
当たり前だ。誰だって殺されたくはない。
でも。なんだろうか。それ以上に思い浮かんだ感想は――。
「俺がただ、あなたを悪魔になんてさせたくない。だから風香先輩の意思なんか関係なくただ止めてみせる。それがやりたいことだから」
風香先輩は呆然としている。俺の発言を理解していないのだろう。
「富士見の言った通りだ。この先のことなんて何も……これっぽっちも考えちゃいない。けどな……俺たちはそうやって今までやってきた。今回も、きっとどうにかなるさ」
こればっかりは投げやりと言われても仕方がないだろう。
でも本当に何も考えちゃいないんだ。仕方ないだろ?
「最悪……神さまに頼めばどうにかなるだろ」
「それは……あまりよくないんじゃない?」
富士見が怪訝そうな表情で見つめ返してきた。それはまあ、うんそうだな。
「な……なに言ってるの? 私の意思なんか関係ないって……私が望んでもいないことを、君がやりたいから勝手にやるって言うの!?」
風香先輩は納得していないのか、その場で叫び出す。
俺は富士見にアイコンタクトを送る。チャンスはもう二度と訪れないかもしれない。やるなら……今しかないんだ。
「そうです。俺はただ自分のやりたいことをやるだけの人間。それが俺です」
富士見の動きはバレていない。もう少し……もう少し風香先輩を俺に集中させなければ。
「君は主人公なんかじゃないんだよ。自分の思い通りの展開にはならない! そんな都合いい展開は訪れないんだよ!? どう頑張っても……私に未来はない! 悪魔になっても、ならなかったとしても……私に居場所なんてないんだよ!!!!」
確かにその通りだ。風香先輩の言葉に間違ったことは一つもない。
だとしても。俺は告げなければならない。
「そんなことは後で考えればいいんですよ。例えどれだけ時間がかかろうが、俺たちは勝手にあなたを連れ戻す。あなたの意思なんか関係なくね。ほら、とても主人公とは思えないでしょ?」
それと同時に富士見は勢いよく走り、風香先輩の体をがっしりとホールドした。
「ッ!! 姫蓮ちゃん!? 何を……!」
「怪奇谷君!! 今よ!!」
俺は富士見に続いて、勢いよく風香先輩の元に走る。
現在風香先輩は富士見に抱きつかれた状態で体を拘束されている。もちろん髪の毛も動かせないように思いっきり固定されている。
今、風香先輩は一歩も動けない。
ゴーストドレインで霊力を吸収するなら今しかない。
そのためには彼女の体に触れなければならない。
早く。早く。早く!!
風香先輩の体に触れて、その力を吸収する。そうすれば彼女の悪魔化を防げる。それから先のことは、そのとき考えればいいんだ!!
「これで、終わりだ!!」
あと一歩、そのあと一歩で俺は風香先輩の体に触れる。全てが、終わる。その瞬間まで、あとたったの一歩だったというのに。
「こんなとこで……終わらせない――!!」
世界は、どこまでいっても俺たちに味方してくれることはなかった。
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