第374話悪魔編・偽その63
私は人間を超えた存在、悪魔になりたかった。
そう思った理由はあまりにも単純なもの。生き物を、人間を殺してみたいと思ったから。
人間は同じ人間を殺してはいけない。そんな決められたルールが適応されているせいで、私は私のやりたいことが出来ずにいた。
だからこそ……だからこそ私は人間のルールが適応されない存在へと変化する必要があった。
正確には悪魔じゃなくてもいいんだけど……1番可能性が高く、実現性がある存在は悪魔だったんだ。
そう思わせてくれたのはこの街に祀られていた存在、初代怨霊のおかげだよ。
初代怨霊。彼の正体は来遊夜豪。私の祖先を辿ると来遊に繋がることが判明しており、そんな血の繋がる私に怨霊を取り憑けたら……きっと大きな変化が訪れる。そう確信していた。
私がなりたい存在。なるべき存在。
そんな存在に私はついに、なることが出来た。
自身の体に取り憑けたのは、怨霊ことロカちゃん。彼女が私の体に取り憑いた瞬間、私の体に変化が訪れた。
体の一部が変化したり、見た目の変化はさほどなかった。けれど私にはわかる。この体は人間から悪魔へと変化し始めた。細胞の一部一部が次々と変化していく。人間という存在を捨て、新たな私へと進化していく。
やった。やった、やったよ!! この日を……今日という日をどれほど待ち侘びたか。18年間、私はやりたいことも出来ずにただつまらない日々を送り続けていた。人間であるために、人間であり続けるために。私は私のやりたいことを隠し、ずっと……ずっとずっと、この世の中を生き続けていた。
けれどそんな日々ももう終わり。私は私のやりたいことができる。彼のように……自由で楽しい日々を送り続けることが出来るんだ!
だからね。私は本当に君に感謝しているんだよ、音夜斎賀。君が私の思うように動いてくれなかったら、こんなに上手く事が進むとは限らなかったんだから。
思わず勢いで殺してしまいそうになったけど、その気持ちをなんとか抑える。私はまだ完全な悪魔じゃない。変化の途中。人間と悪魔の境目みたいな存在とでも言えるだろうね。
であればまだ人間のルールは適応されてしまう。ここで音夜を殺してしまえば、今まで私が守り続けたルールを破ってしまうことになる。
それに……私が最初に殺したい人はもう決まっているからね。後少しでそれが出来ると思うと、体の底が疼いて仕方ないよ。
(あな……たは、どう……し……)
ん……? なんだろう。今の声は? 私の脳内に直接響く声。こんな経験は初めてだ。誰かが私の脳内に直接話しかけている……?
(こんなこ……して……だれも……しあわ……)
何かを伝えようとしているみたいだけど、それが私になんの利点もないことだけは理解出来た。
「うるさいなぁ。私は今の私に満足してるの。邪魔しないでね」
これも私の体がまだ完全に悪魔になりきれていない証拠だろう。感覚でわかる。私の体にはまだ怨霊が取り憑いている状態が半分程度残っていることに。
「…………」
ということはだよ。考えようによっては私に取り憑いている怨霊が除霊されてしまえば、私の体は再び元に戻ってしまう可能性が高い。
そして明日、この街では大除霊という大掛かりな儀式が行われる。この街に存在する幽霊全ての除霊というとんでもない儀式が。
だったらその儀式を止める。それが1番手っ取り早い対策だと思う。
けれど……その考えは私にはなかった。
師匠たちには予定通り大除霊を進めてもらおう。
そう考えるのにもちゃんと訳がある。
それは……私が考えたサブプラン。彼らを全て消してもらうためだ。
今まで必死に育て上げたサブプラン。それはもはや悪魔化を果たした私にとっては不要な存在。それどころか、私の脅威になりかねない存在とも言える。
一例を挙げると、智奈ちゃんが思い浮かぶ。彼女は現在生霊の力を使いこなしている。そんな彼女があるキッカケで力を暴走させてしまい、悪魔化を果たしてしまったら……それは私にとって脅威と言えるだろう。
そして紅羽ちゃん。彼女はこの街で今1番脅威と言えるぐらいに強力な存在へと変化しつつあった。おそらくそれは師匠たちも気がついているはず。
そんな彼女たちを残しておけば、間違いなく私の敵となる。だから予定通り除霊してもらおう。少しだけ名残惜しいけどね。
「紅羽ちゃん。ごめんね。最後の瞬間に立ち会えなくて」
大除霊当日に私はこの街にはいられない。いたら私に取り憑く怨霊まで除霊されてしまうからね。
だからこそ紅羽ちゃんの最後に立ち会えないのだけは本当に寂しい。いくら私の目的のために利用したとはいえ、彼女とは直接交流するぐらいには仲が良かったんだから。
「それでも……私は前に進むよ」
私は意識を外の世界へと向ける。この街を離れ、大除霊の影響を受けない場所へと。それを想像しただけで、力が湧き出る。体が答えようとする。周囲の空気は変わり、霊力が私の周りを渦巻いていく。
次の瞬間、私は瀬柿神社から飛び立った。文字通り飛び立ったんだ。空を舞い、宙を切った。
上空から見る来遊市全体。そこにはさまざまな光が見えた。そのどれもが暖かい光。人が生きているという証だった。
「うふふ、すごいねぇ。本当に……すごいね」
思わず感動しすぎて涙すら浮かんできた。私は本当に……なりたい自分になりつつあるんだって。
「さあ、悪魔の空中散歩の時間だよー」
私は夜空を自由に飛び回った。この暖かい光を見つめながら、私は……自由だと実感していた。
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