第372話悪魔編・偽その61
あれから時間は経ち、この街に君臨していた初代怨霊は姿を消した。
因縁の相手である富士見祐也の力を持って、初代怨霊は無事に消滅したのだ。もちろん彼1人の力だけではどうすることもできなかったはずだ。
姫蓮ちゃんやそのご両親。師匠や魁斗君、智奈ちゃん。それに他のみんなが一丸となって怨霊に立ち向ったんだ。その結果、元凶である初代怨霊を倒すことに成功したんだ。
みんなすごいよ。本当にあの初代怨霊を倒してしまうなんて。言葉で聞いても実感が湧かないぐらいに、未だに信じられないよ。
そんな私はただ1人、とある古民家でじっと過ごしていた。
あまりにも退屈だからその辺のコンビニで買ってきたポテチでも食べようかな。そう思って私は大量に買ってきたお菓子の中からポテチを選んで食べ始めた。
私がこんなことをしているのにはちゃんとした理由がある。
『虫なんて、どこにいるんだよ』
耳に付けたイヤホンからは1人の男の声がする。酷く疲れ切っており、気力も何もない。ただそんな覇気のない声をした男だった。
音夜斎賀。彼は記憶障害を引き起こしていた。というより、私がそうさせた。
そもそも私が彼の記憶をいじろうと思ったきっかけ。それは当然彼に取り憑く怨霊が目的だからだ。
ではどうして彼の記憶をいじる必要があるのか?
その理由も単純なものだ。彼には怨霊のことを忘れてもらい、時が来るまでじっとしてもらうためだ。
私は元々、音夜に取り憑く怨霊をずっと狙っていた。初めはあの日。魁斗君と姫蓮ちゃんに偽のデートをしてもらったあの日。
私はあの日に怨霊を手に入れる予定だった。けれどそれは失敗した。けど、今考えればそれは正しかったのかもしれない。
あの段階では、怨霊はまだ500年の時を得ていない。つまりはまだ悪魔に変化するタイミングじゃなかったんだ。
そんなタイミングで私の体に取り憑けても、きっとなんの変化も起きないだろう。だから結果論だけど、あの時音夜から怨霊を奪えなくて正解だったんだ。
そして現状、この街に存在する幽霊は力を増していた。
それも想像がついたことだ。何せこの街をずっと支配していた初代怨霊が消えたんだ。その残された力に影響され、幽霊たちの力は増幅している。
これは私にとって嬉しい誤算ともいえるし、あるいはサブプランが私の脅威になってしまうかもしれないという曖昧な状態だった。
私が今抱えているサブプラン。それは動物霊、浮遊霊、地縛霊……そして状況次第だけど一応生霊もね。
目に見えて力を増している存在といえば、動物霊の犬。そして浮遊霊こと紅羽ちゃんだ。
特に紅羽ちゃんの力は異常なぐらいに増幅しつつあった。このまま放っておけば、まあ確実に悪魔になるだろうね。まさか本当にここまでの結果を出せるなんて……私自身も驚いている。
サブプランですらこれほどの脅威なんだ。であれば本命、怨霊だってそうなる。
音夜の会話から、怨霊が自らを『ロカ』と名乗っていることがわかった。それはやはり来遊露果からとっているんだろうね。私もそれに倣ってロカちゃんと呼ぶことにしよう。
ロカちゃんは自らの力を押さえている。彼女も当然力を増しているからだ。そう、それでいい。むしろそれが目的なんだよ。
私の計算だと、来年。ちょうど年が明けた瞬間。この街に潜む幽霊で、悪魔化がありえる存在は全て悪魔に変化するだろう。
というのも、初代怨霊が行動を始めたのは今年の1月に入ってのことだった。そして今年が終われば、実質500年の時を無事に乗り越えた存在となる。もちろん実際に500年経った幽霊自体はもう誰1人として存在しないんだけどね。
他の幽霊たちはともかく、初代怨霊から別れた怨霊。彼らも同じ怨霊なんだ。その効果が適応される可能性は大いにある。
だからその時まで音夜の体でおとなしくしててもらう必要がある。そのために音夜の記憶をいじり、下手に行動をさせないようにしているんだ。
ちなみに例の薬。記憶障害を引き起こす薬だけど、あくまで記憶障害を引き起こす薬なわけで、完全な記憶喪失になるわけじゃないんだよね。
だからか、音夜自身もある程度の記憶は残したままだった。むしろその方が都合がいいんだけどね。
ただ心配なことがあるとすれば、音夜はどういうわけかロカちゃんを
ちなみに私の方でロカちゃんの声を聞き取ることは出来ない。音夜にしかロカちゃんの姿は確認出来ないのかな?
とにかく今の私に出来ることは、ただ音夜が記憶を喪失しているかどうか監視すること。年越しのタイミングを待つ。ただそれだけだった。
ただそれだけの行為がこんなにも退屈で、つまらないものだとは思いもしなかったけど。
「ふ、ふふふ」
それでも、私に笑顔は絶えない。
それほどまでに実感が湧いているからだ。
もう少しで、あと数ヶ月耐えれば。私は確実に――。
なりたい私になることができ、やりたいことが出来るようになるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます