第368話悪魔編・偽その57

 そうしてこの場にいる人間に向けて全ての真実が明らかとなった。

 初代怨霊の正体。不死身の幽霊の正体。500年前、何があったのか。そしてこれから何が起こるのかを。

 もちろん私自身も知らないことはたくさんあった。色々と驚くことでいっぱいだよ。けれどそんなことよりも私は自身の胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。みんなは初代怨霊に夢中になっている。音夜を抑えるなら今がチャンスだ。いやむしろ今しかない。早く計画を実行したい欲を抑え、今は冷静を装う。

 

 現状の課題は、智奈ちゃんの生霊をどうするかという話になっていた。まさかここに来て智奈ちゃんの生霊に焦点が向くとは思いもしなかった。肝心の本人はこの場にいないし、生霊の力を使えるようになってしまえば、彼女は私の計画から完全に外れてしまう。

 というのも、この場には霊媒師である姫蓮ちゃんのお父さんがいる。彼が智奈ちゃんに力の使い方を伝授してしまえば、智奈ちゃんは完璧に生霊の力をコントロールしてしまうだろう。

 生霊の力をコントロールするということは、生霊に支配されることはなくなるということに繋がる。そうなれば私が求めるサブプランから外れることを指す。出来れば力をコントロール出来るようになってもらうのは避けたいところだ。

 けれどここで智奈ちゃんに力を使えるようになってもらわないと、初代怨霊との戦いに影響が出る可能性がある。そうなってしまっては困るのは私だ。私が悪魔になる際に、初代怨霊がいてもらっては困るんだよね。だってもしも彼が悪魔になんてなったら、間違いなく私の天敵になるだろうからね。

 仕方ない。だったら智奈ちゃんには生霊の力を操れるようになってもらうしかない。


「……」


 けれど、それじゃあもったいない。

 せっかく来遊市でトップクラスに高い霊力を持った人物なんだ。それがこうも簡単にサブプランから外れてしまうのはあまりにももったいないよね。

 本来であれば、智奈ちゃんはまだ私のサブプランから外れることはなかった。みんなが話している通りで、一度生霊を生み出したものは再び生み出しやすいんだ。

 それをうまく利用して、私の狙ったタイミングで再び生霊を生み出してもらおう。そう思っていたんだ。

 けれど今回の作戦で力をコントロール出来るようになってしまえば、彼女は私の計画から外れる。

 だからこそ考えた。

 どうせ生霊を生み出させるのであれば、その存在をより強力にすべきではないか? あるいは……コントロールしつつも尚、悪魔化がありえるぐらいの力をつけてしまったら……?

 であればまだ彼女には利用価値がある。生霊をコントロールしつつも、その存在に意味を成させる。

 となるとここから私が取るべき行動は決まったようなものだった。

 魁斗君から智奈ちゃんに言葉を告げ、彼女が見ている夢を覚ます。それがみんなで出した結論だった。

 であれば、魁斗君から言葉を告げられる前に智奈ちゃんの気持ちを昂らせておけばいいんだ。

 現状、智奈ちゃんと連絡を取れるのは私だけだ。うまい具合に智奈ちゃんを期待させるような文章を送りつければ、きっと彼女はこう思うだろう。

 私にもまだチャンスがあるかもしれない、ってね。

 そうすれば自然と生霊の力を増幅させる可能性だってあるし、最悪うまくいかなくても困ることはない。

 どう転んでも、結局のところサブプランなんだから。

 でも私にも思うところはある。どうせこれが智奈ちゃんにとっては最後のチャンス。だったら最後ぐらい好きにさせてあげようかな、っていうのが先輩なりの優しさだと思うよ? きっと智奈ちゃんも、魁斗君から言葉を告げられるよりも……自分から確かめたいだろうしね。

 魁斗君は君のことを選ぶことはないよ。それだけは決定している。だからね……君の力を増幅させるために少しだけ夢を見させてあげるよ。

 どうせすぐに覚める大したことないちっぽけな夢だけどね。

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