第366話悪夢編・偽その55
紅羽ちゃんに何か変化が訪れるキッカケ。そんなものを考えていた時だった。
「やっほー!! 風香ちゃんいるー!?」
と、突然ドアの前から大きな声がした。思わず驚いて画用紙に間違って黒い線を引いてしまった。
「こ、この大きな声は……」
私は素早く玄関の前まで行き、ドアを開けた。そこには私と同じぐらいの身長をした少女がじっとこちらを見つめていた。
冬峰椎奈。暮奈さんが数年前に引き取った養子だ。どうやら私と同い年らしく、時々こうして話したりする。歳が近くて仲のいい子はほとんどいないから、貴重な人物であったりもする。
「やあ風香ちゃん。今取り込み中?」
椎奈ちゃんはニコニコした表情で私を見つめる。
「ううん。暇してたところだよ。それよりどうかしたの?」
言えないよね。私が悪魔になるための計画を練っていたなんてこと。
「じゃじゃーん! 突然だけどこれ風香ちゃんにあげるよっ!」
そう言って私に見せてきたのは、遊園地のペアチケットだった。
「どうしたの、これ?」
「それがさぁ。いっつもは暮奈さんが買ってくるんだけど、今回は買い忘れたっていうからね。それで私が代わりに買ったの。そしたら暮奈さん、たまたま景品かなんかでペアチケットを当てちゃったみたいなの」
なるほど。それでペアチケットが2つ存在していることになるんだ。
「ペアチケットを2種持ってても仕方ないしね。だからこれ、風香ちゃんにあげるよ。いつも暮奈さんがお世話になってるお礼ね」
遊園地のペアチケットか。私には縁のないものかな。いや……あわよくば魁斗君と一緒に……。
「いいの? 私、貰えるものは貰っちゃう主義だよ?」
「それでいいんだよ。風香ちゃんにあげたくてあげるんだから。そう暮奈さんも言ってたし」
まあ、そういうことなら貰っておこう。いつか何かに使えるかもしれないしね。
「それにしても……いつも暮奈さんが買うって言ってたけど……2人はよく遊園地に行くの?」
何気なく問いかけたことだった。けれど問いかけてから私の頭の中で何か電撃が走ったかのような感覚があった。
遊園地……? いや、それってもう。
「9月29日。この日ってね、遊園地のアトラクション事故があった日なんだ。だから毎年私たちはこの日、遊園地に行くんだよ。紅羽さんと美夏さんに会いにね」
そう、だ。そうだよ! その日は紅羽ちゃんが事故で亡くなった日。なんでそんな大事なことに気づかなかったんだろう。
いや……ということはだよ。紅羽ちゃんが亡くなった当日。その日に遊園地に行けば……
これはあくまで想像に過ぎない。けれど紅羽ちゃんの変化を求めるなら、絶好の機会だ。利用しない手はない。
だとすれば魁斗君には立ち会ってもらう必要がある。彼には紅羽ちゃんとの仲を深めてもらわないといけないからね。
それに何かあった時……最悪の場合も考えられる。ここでいう最悪の場合っていうのは、紅羽ちゃんが悪霊になってしまい手がつけられなくなるということ。でもそれはそれで好都合かもしれない。
だってそうなれば、魁斗君は紅羽ちゃんを吸収せざるを得ないよね? そうなれば地縛霊と同じく彼女は保管される。安心安全な幽霊がいる世界へとね。
「……」
と、なると。魁斗君にはこのペアチケットを使ってもらって遊園地に行ってもらう必要がある。けれどどうやって? 当然私が行きたいところだけど、これでも私は師匠に弟子入りした身。下手のことは出来ない。
かと言って姫蓮ちゃんや智奈ちゃんに行ってもらうわけにもいかない。その理由は当然理解できるよね? 生霊なんて出来事があったばかりで、魁斗君と姫蓮ちゃん。あるいは智奈ちゃんそれぞれ2人っきりになんてさせられないよ。
となれば、まだそこまで親密な仲でないけど2人で遊んでも違和感のない人物……。
「あっ……」
そういえば……先日魁斗君のクラスに外国人の女の子が引っ越して来たって言っていた。確か名前はシーナ・ミステリ。それでいつの間にか幽霊相談所のメンバーにもなっていたりする。彼女も何か怪異に関わりがあったのかな? 正直……どこかで見たことあるような気はするけど……それがどこだったかはさっぱり覚えてないや。
「……」
聞くところによるとそのシーナって人はかなりの変人らしく、常識が通用しないとも聞いた。よし……ならそれを利用しよう。
彼女の下駄箱にこのペアチケットを入れて、遊園地とは仲のいい男女で行くものだ、なんてメモでも残しておこう。そうすれば彼女はきっと魁斗君と一緒に行くはずだ。
そして2人が遊園地に向かうタイミングで、紅羽ちゃんを向かわせれば……。
「ちょっと、風香ちゃん? さっきからニヤニヤしてどうしたの?」
「えっ? ご、ごめん。私、今ニヤニヤしてた? だとしたら謝るよ……不謹慎だよね」
「え? 不謹慎? なんでそうなるの?」
「い、いやだって……その、紅羽さんと美夏さんのことを思って遊園地に行くって言ってるのにニヤニヤしてるなんて……」
「んー? その話はもうとっくに終わってるよ? 今話してるのは私のデートのことだよ。私の失敗話を聞いてニヤニヤしてるんじゃなかったの?」
あっ……どうやら私は考え過ぎていて椎奈ちゃんの話を全く聞いていなかったらしい。
「まー、いいけどね。それで? 風香ちゃんはそのチケットで誰と行くの? 前に言ってたお気に入りの子のどっちか?」
お気に入りの子。もちろんその子たちと行きたいのは山々だけど……。
「考えておくよ。このチケット、大事に使わせてもらうね。ありがとう椎奈ちゃん」
大事に使わせてもらうよ。私の計画のために、ね。
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