第364話悪魔編・偽その53

 結局、今回私が立てた作戦は失敗に終わった。

 姫蓮ちゃんと魁斗君をデートさせ、音夜を誘き出すとこまではよかった。けれどその後予想外の事故が起きた。

 姫蓮ちゃんに正体不明の幽霊が取り憑いてしまった。そのせいで姫蓮ちゃんは意識を失ってしまった。不死身の幽霊が取り憑いている姫蓮ちゃんすら気絶させるほどの幽霊。そんな得体の知れない幽霊を放っておくわけにもいかなった。それに姫蓮ちゃんがあのままだと私も困るからね。

 だから私は音夜を追いかけたい欲を捨て、魁斗君に協力することにした。その結果、とんでもないことが判明した。

 生田智奈。彼女が生霊を生み出してしまっていた。智奈ちゃんの霊力はこの街でもトップクラスに高い。そんな彼女が生霊なんか生み出したら、それはもう下手をすると怨霊を超えてしまうレベルの存在になるかもしれなかった。

 生霊が生まれる原因の1つとして、『恋愛』というものがある。恋愛関係のいざこざで生霊が生まれるケースが多いんだ。

 そして私の目から見て……いや、多分誰が見てもわかるとは思うけど。智奈ちゃんは魁斗君のことが好きだと思う。だけどきっと魁斗君はそうは思っていない。きっと彼の好きな人は……いや、それは今はいい。

 このままいけばきっと智奈ちゃんの不満は溜まり、いつか限界が来る。私にはそう思えた。その時生み出される生霊は、私の想像を超える存在になるだろうと。

 そう、それでよかった。私のサブプランの1つとして選ばれた智奈ちゃん。いつかは智奈ちゃんに生霊を生み出してもらい、私が悪魔になるためのきっかけになってもらおう。そう思っていたんだ。

 けれどそのためにはタイミングってものがある。少なくともではない。それもこれも生霊はあくまでサブプラン。怨霊でどうにかなるなら生霊なんて必要はないんだから。万が一のための切り札のように、出来るだけ伏せておきたかったんだ。

 そのためには智奈ちゃんの気持ちをコントロールする必要があった。彼女が不満を抱えないように、魁斗君と一緒にいる時間を増やす。出来るだけ2人にして。

 しかしそんな都合よく智奈ちゃんと魁斗君を一緒にする機会なんてそうそうない。何か都合のいい展開はないか……そう思っていた時だった。

 師匠から姫蓮ちゃんとの接触を頼まれた時。ついでに魁斗君への新たな課題を考える必要があった。浮遊霊、騒霊、地縛霊は使ってしまった。同じ幽霊でもいいけど、それだと事前に対策されてすぐに解決してしまう可能性がある。なら、魁斗君はまだ触れてない動物霊にでもしようか? そんな考えを抱いていた時だった。

 たまたま歩いていた繁華街。そこでウチの学校に通う非常勤講師である同志辰巳が見えない何かと会話をしていたんだ。

 同志辰巳。別に特別霊力が高いわけでもないし、近くに異常な存在も感知出来ない。私ですら把握できない何かと彼女は会話していたんだ。

 これは純粋に気になる。それと同時にいい課題が与えられそうだとも思った。さらに言えば、同志先生についての調査を魁斗君と智奈ちゃんにやってもらえば……理由はどうあれ、智奈ちゃんは魁斗君と一緒に時間を過ごせる。姫蓮ちゃんは私と行動するから絶対に現れないしね。

 とはいえ、相手が未知数なのは不安も残る。だったらさらに戦力を追加してしまおう。

 浮遊霊の少女、紅羽ちゃん。彼女も共に行動させ、魁斗君たちとの絆をさらに深めさせておこう。紅羽ちゃんぐらいなら一緒にいても、智奈ちゃんはさすがに気にしないでしょ。

 と、こんな風に私なりに気を遣っていたんだ。私が欲しいっていうタイミング以外で生霊を生み出さないで欲しかったから。


「まーでも。でちゃったもんは仕方ないよねぇ」


 私は1人、場芳賀高校に向けてゆっくりと足を進めていた。

 確かに生霊は生み出されてしまった。これから私はソレを除霊するために魁斗君を助けに行かなければならない。


「だけど智奈ちゃん。君はまだ使


 そう。生霊が生み出されてしまったからといって、彼女が私のサブプランから外れるわけではない。まだ希望はある。それはまた後の話になるんだけどね。

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