第363話悪魔編・偽その52

 8月14日。とうとう計画を実行する時が来た。

 姫蓮ちゃんは無事に目を覚まし、私の作戦を疑うことなく聞き入れてくれた。

 魁斗君もそうだ。姫蓮ちゃんからの誘いを疑うことなくちゃんと待ち合わせ場所へと来てくれていた。

 まあきっと2人とも心の底ではデートしたかったんだろうね。私にはわかるよ。それが例え偽のデートだったとしても……2人が一緒に過ごした時間っていうのは正真正銘本物なんだから。

 ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。私はしっかりと2人の後をつけなければならなかった。

 2人の姿を出来るだけ映像に残し、それを音夜に送りつける。これで彼が動き出してくれればいいんだけど……今更ながら少し不安になる。いくら姫蓮ちゃんに執着しているからといって、こんなことで本当に動き出してくれるのかな?

 いや、信じろ私。今までの音夜の行動パターンを考えれば間違いない。きっと彼は姫蓮ちゃんたちの前に現れる。絶対にそうだ。

 そう思っていたその時だった。私の思い通りの展開へと事が進んでいく。

 私は姫蓮ちゃんたちから少し離れたところで様子を伺っていた。その先には魁斗君。姫蓮ちゃん。そして……音夜斎賀がその姿を現していた。


「やった!! 大成功だっ!!」


 思わず歓喜の声をあげてしまった。まずいまずい。下手なことをして私の存在がバレてしまうと面倒なことになる。

 何はともあれいい流れだ。あとは魁斗君からの連絡を待つだけ。それで私は堂々と登場することができる。

 後少し……後少しで私は怨霊を手に入れて……悪魔へと――。


「えっ?」


 そんなにあっさりと、私の願いは叶うことはなかった。

 当然、姫蓮ちゃんがその場で倒れ込んでしまったのだ。何……? そんな作戦は立てていない。何より魁斗君は姫蓮ちゃんを心配しているし、音夜ですら表情が固まっている。


「どういうこと……? 姫蓮ちゃんには不死身の幽霊が取り憑いているんだし……他に何かが取り憑くなんて……」


 しかしあの様子を見る限り何かに取り憑かれた様子であることに違いはない。だとすればこの街で1番力をつけている怨霊であることが1番可能性は高いと思う。

 しかしそれを音夜はやらないと思う。それは今までの行動や彼の性格を知った上での判断だ。だとすれば他の怨霊が……。


「まずいね……そうなるともしかしたら近くに師匠もいるかもしれない」


 その怨霊が万邦夜美奈に取り憑いた方ならいいんだけど、もう1人の怨霊だったら面倒なことになる。

 後少しで私の願いは叶うはずだったのに……余計なことを……。

 だけどこうなった以上今私の私情のために動くわけにはいかない。そもそも姫蓮ちゃんがああなった原因も探らないといけないし。

 姫蓮ちゃんたちの方に再び目を向けると、音夜は立ち去り魁斗君は誰かに電話をしていた。


「仕方ない。ここは頼れる先輩として助けてあげるしかないね」


 本当だったら今すぐにでも音夜を追いかけたい。けれど姫蓮ちゃんを放っておくわけにもいかないし、余計な芽は潰しておかないとね。

 それに悪いことだけじゃない。音夜の行動パターンがさらに明確になった。それだけでも十分な成果とも言えるかな。

 一旦私は自身の気持ちを抑え、1人の頼れる先輩として電話をかけた。


「おやおやー? 怨霊のこととか知りたくないのかな?」

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