第360話悪魔編・偽その49
浮遊霊の少女、冬峰紅羽。彼女を魁斗君の元に送り込んだことで師匠から与えられた目的は達成した。
だけど魁斗君が紅羽ちゃんの正体に気づくのは時間の問題だろうね。彼女は幽霊だ。きっと何か違和感にすぐ気づいてしまうと思う。
何より彼にはゴーストドレインがある。下手をすると紅羽ちゃんに触れただけで気づいてしまうことだってあり得る。
魁斗君が紅羽ちゃんをどうしようが、結果としては振り出しに戻ってしまう。そうなれば再び魁斗君には課題を与えなければならない。別のことに気を逸らし、怨霊に辿り着けないようにする。それが師匠の願いなのだから。
「さぁて。次は何をしよっかなぁ〜」
そんな私は来遊市の南地区へと赴いていた。理由は至ってシンプルなもので、その区域で数多くの霊力を感じ取れたからだ。
霊力はどんな生物でも持っていることはみんな知っていると思う。これは霊能力者にしか理解出来ないことだとは思うけど、霊力の感じ方にはそれぞれ特徴があるんだ。例えば同じ霊力でも、それを放つ存在によって感じ方が違うということ。
つまりその特徴のおかげで、その霊力が人間から放たれているものなのか、幽霊からなのかがある程度は把握できるんだ。
そして今回感じた霊力。それは複数の幽霊から放たれているものだった。つまり、この区域には複数の幽霊が存在していることになる。
「こんなにたくさんの幽霊がいるなんてねぇ。果たしてその正体はどこの誰なんでしょうー」
といってもある程度の候補は上がる。これだけの数が存在し、1人1人の霊力はそこまで高くない。であれば騒霊が妥当なところだと思う。実際にこの地に辿り着いて、騒霊であることは確認できていた。
「騒霊……つまりポルターガイストかぁ。魁斗君に与える課題としてはちょうどいいかもね」
何もないところで音が鳴る。騒霊が引き起こす現象であるポルターガイスト。これであれば大した騒ぎにもならず、与える課題としてはちょうどいいと思う。
「うーん、でもなぁ」
確かに騒霊は多くいる。しかしそのほとんどは活動せずに、その辺をフラフラと彷徨っているだけだった。本来であればモノに取り憑いて人を驚かしたりするのが普通だ。
しかしここにいる騒霊達はそのどれもがおとなしい存在だった。これではポルターガイストも起こることはないだろう。
「仕方ない。何かいい幽霊はいないかな」
私は再び霊媒師の力を使い幽界にアクセスした。この辺りに縁のある幽霊はいないものかどうか……。
「おやぁ? これはこれは……こんな騒霊がいるんだね」
たまたま見つけた幽霊。それは騒霊なのだが……他の騒霊とはまた違った特殊な存在だった。どう違うかと言われると説明が難しいんだけど、一言で言えば普通の騒霊とは比べ物にならないほどの霊力を持っていたこと。
騒霊は基本的に意思を持たない。しかしこの騒霊は意思のようなものすら感じ取れた。それほどまでに特殊だと把握することが出来た。
「ふっふふふ。こんな騒霊がいたら……他の騒霊達も何かアクションを起こすかもね」
そればっかりは実際に呼んでみないとわからない。けれどものは試しだ。早速騒霊を霊媒師の力で呼び出してみる。
目の前で一瞬、透明な何かがフッと揺らいだ。しかしその存在はすぐに私の目の前から立ち去ってしまった。
「さすがに紅羽ちゃんみたいなパターンじゃなかったね」
あの子が特殊すぎるだけで、本来の幽霊とはこれが普通だ。実態を保つ紅羽ちゃんがいかに異常なのかを改めて理解出来た。
「さぁーてと。あとは適当に行動を起こしてもらうとしますかねー」
あの騒霊がどんなアクションを起こすかはわからないけど、とりあえず様子を見てみよう。そのうちポルターガイストを引き起こしてくれれば、あとは魁斗君に伝えるだけだ。それで師匠から与えられたミッションは達成される。
そう、師匠から与えられたミッションは達成される。
「……」
けれど、言わずもがな私にはさらなる目的がある。せっかくの機会だ。ポルターガイストに溶け込んで私のサブプランもここで動かしてしまおうか。
「確かこの辺には犬が……あ、彼はもう呼んでるか」
以前呼び出した動物霊の犬。彼は元々この辺りに縁のある幽霊だった。それを無理やり離れた場所に呼び出したんだった。
ならば今度はこの区域に縁のある幽霊を呼び出そう。色々な場所でサブプランを動かすことで、私の目的を果たせる確率を少しでも上げておきたい。
「さあて。どんな幽霊がいるかなぁ」
再び霊媒師の力で幽界を覗く。すると、あっさりと理想の幽霊を見つけ出せた。
「ほー、地縛霊ね。それもこの力は……」
地縛霊。それは特定の場所に執着した幽霊。基本的には悪霊だから、師匠にも呼び出したりするなって念を押されているね。
しかしそれは弟子として従うルールであり、私個人の計画のためにはどんな幽霊だろうが呼び出す必要があれば呼び出す。例えそれが悪霊だろうがなんだろうが。
そしてこの地縛霊。その存在も普通の地縛霊とは違っていた。そのルーツを辿ると、生前になんらかの怪異と関わりがあったことがわかった。それが妖怪や悪魔だったのかはわからないけど、特殊な経歴を持つが故に霊力が異常なぐらいに強かった。
きっと条件が揃えば、彼も悪魔化してもなんら不思議ではないぐらいに。
「ここから近くの場所に執着している……ってこの場所、師匠と別居してる家族が住んでるところじゃん!?」
師匠には別居している奥さん、そして娘2人がいる。そんな彼女たちが住む場所。地縛霊が執着していた場所はそのすぐ近くだった。
もしも地縛霊を呼び出して、彼女たちに何か問題が発生すれば、師匠はどうするだろうか? 魁斗君はどうするだろうか? そんな疑問を抱いてしまった。
「そんな確率相当低いけどねぇ……でも、それもちょっと面白いかも」
呼び出した地縛霊が奥さんか娘さんに取り憑いたら、きっと師匠や魁斗君は必死に解決を望むだろう。その隙に怨霊に手を出すっていうのもありなんじゃないかな?
それに……私にとっては、呼び出した幽霊達が魁斗君に吸収されてしまうことをそんなに問題視していない。
だってゴーストドレインの特徴は父から聞いている。ある意味、私の呼び出した幽霊を保管する場所にはうってつけとも言えるよね。
「ふふふ。私も悪い子だなぁ。さあおいで。君が執着してた場所に帰してあげる」
霊媒師の力で地縛霊を呼び出す。地縛霊は私の前に現れることなく、一瞬で執着する土地へと移動してしまった。
今この場所には騒霊、そして地縛霊が存在している。互いはそれぞれ別の幽霊だけど、果たしてどんなことが起きるだろうかな?
ポルターガイストが引き起こされれば魁斗君に課題を与えられる。
そして私のサブプランに1つ追加された。土地に執着する幽霊、地縛霊だった。
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