第359話悪魔編・偽その48

 思わぬ収穫があった。けれど今私に与えられた目的は、魁斗君に課題を与えること。果たしてどうしたものか……。


「……そうだ。早速だけど、あの子を使っちゃおうか」


 ふと思い出す1人の幽霊。おそらく私にとって、怨霊を抜きにしたら1番重要ともいえる幽霊だった。

 浮遊霊。ただの浮遊霊ならなんてことないだろう。しかし彼女は別だ。何せあの幽界から自力でこの現実世界に戻りつつある幽霊だったからだ。

 それほどまでに現実世界に執着しており、本人の霊力自体はそうでもないけど、その執着が無意識に力を強めていた。その証拠にあの冬峰暮奈さんの周りに異常な力を感じるほどだった。

 彼女はいずれ私の想像を超えた存在となる。そう確信出来るほどに。


「と、いうわけで早速君の来たがってたこの世界に連れ戻してあげよう!」


 私は霊媒師の力を使い、1人の浮遊霊を呼び出す。あとは動物霊の時と同じように、彷徨わせておこう。そう思っていた。というより、浮遊霊である以上それしか考えは浮かばなかった。

 けれど……そんな想像を遥かに超えることが目の前で起こった。


「あ……あれ? あ、アレ?」


 突然、見ず知らずの少女が私の目の前に出現した。これは……どういうことなの? まるでさっぱり意味がわからない。状況から考えて、彼女こそが私が呼び出した浮遊霊……冬峰紅羽ちゃんで間違いない。

 こんなことって……まさか実態を持つ浮遊霊だなんて。本当にこの街は特殊な幽霊を生み出してしまう街なんだと改めて理解した。

 しかしそうなると困った。本来であればこの浮遊霊を彷徨わせて、誰かに取り憑いたところを目撃した程で幽霊相談所に向かうつもりだったんだけど……。

 とりあえず話を聞いてみよう。


「おや、どうしたんだい? お嬢さん」


「え? あ、あのっ! 実は私弟を探していて……」


 そういえば……亡くなったお子さんは冬峰紅羽ちゃんと冬峰美夏君だったと聞いている。つまり……今紅羽ちゃんは美夏君がどうなったかを知らない状態なんだ。

 だったら……!


「ふむ。弟さんが突然いなくなってしまった、と。ふむ。おそらくそれは『神隠し』だろう」


「神隠し……」


 弟が突然いなくなった。それはまさに神隠しの条件と一致している。それをうまく利用すれば……。


「大丈夫だよ。そういった相談を受けてくれる相談所があるんだ。これこれこうこうで……」


「わかりました! ありがとうございます! 親切丁寧に教えてくださって!」


 そう。こうすれば紅羽ちゃんが相談者として魁斗君たちに接触出来る。きっと魁斗君たちは紅羽ちゃんのために神隠しについて調べるはずだ。


「ふふ。頑張ってね。小さな浮遊霊さん」


 万が一紅羽ちゃんの存在が浮遊霊だと知られても問題ないと思う。これは確実に言えたことじゃないけどね。

 でも大丈夫。だってそうでしょう?

 悪魔を助けようとした人が、きっと仲良くなるであろう幽霊の女の子を退治出来るわけないって。

 これも私のサブプランの1つ。小さな小さな浮遊霊の女の子。冬峰紅羽ちゃんだった。

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