第356話悪魔編・偽その45

 怪奇谷東吾の元に弟子入りしてからしばらく経った。この街に潜む怨霊は次第に動きを高めていた。

 来遊夜豪が変化した怨霊。私たちはその怨霊のことを初代怨霊と呼称することにした。まあ私が提案したんだけど、師匠はすんなり受け入れてくれた。

 そして調べていくうちに、その初代怨霊から複数の怨霊が別れて存在していることを知った。その数がどれぐらいいるかはまだわかっていないけど、それらも実質初代怨霊と同等の存在だ。つまりその怨霊を手に入れれば、私の計画成功に一歩近づくとも言える。

 とはいえ師匠は怨霊退治に念を入れている。彼の除霊師としてのレベルは私の想像以上だった。このままいけば初代怨霊は不可能でも、他の怨霊は除霊されてしまうかもしれない。

 であれば、何か別のことに意識を向けてもらう必要がある。


「さぁて。この街に来て初めて呼び出す幽霊は誰にしよっかなぁ〜」


 私は霊媒師の力で幽界から幽霊を呼び出すことができる。前にどんな幽霊がいるのか確認はしているから、候補はいくつかある。


「1匹の犬……それに人間の少女が混じった動物霊かぁ。ふふ、こんな変わった幽霊がいるなんて」


 幽界を彷徨う動物霊。その1匹に意識を傾けた。その存在はあまりにも特殊で、この街が産み出したイレギュラーともいえる存在だった。そしてその力が強まれば、悪魔にだってなれるかもしれない。それぐらいの可能性を持つぐらいに力強い存在だった。


「よぉし。最初に呼び出す幽霊は君だ。こんなに強そうな幽霊なら心配はいらなそうだねぇ」


 さっそく私は霊媒師の力を使い、動物霊を呼び出した。そしてそのまま霊紙に取り憑ける……というのが本来の作業なのだけど。

 今回私の目的は幽霊の力を借りることではない。特殊な幽霊を増やし、力を増してもらう。そうすることで私が悪魔へと変化するための保険をかけておく。

 だからその辺に呼び出して放置する。きっと誰かに取り憑いて力をつけていくだろう。


「よろしくね。犬の幽霊さん」



 私が動物霊を呼び出してから数日経ったある日。早速動物霊に動きがあった。しかし意外にもその数は1つではなく、複数存在していた。これはどういうことだろう? 何かまたイレギュラーなことが起きてしまったのだろうか? そう考えて早速現場に向かってみた。


「うーん。私が呼び出した動物霊は1匹……だとすればこの反応はなんだろう」


 1人呟きながら、霊力を感じる場所へと足を運ぶ。

 現在師匠は、怨霊を除霊するために取り憑かれた人を助けに向かっている。こちらに意識を向けている余裕はないはず。


「ん……? この力は……」


 私は霊能力者としての力もある。結界内には力の反応が3つあった。そのうちの1つは私が呼び出した動物霊であることは間違いない。

 であればこの2つの反応はそれとは別。だけど力の種類としては動物霊であることに違いはない。さらにはそのうちの1つは怨霊に匹敵するぐらいの力を持ち得ていた。


「ほほうこれは……なるほどなるほど。これは私的には好都合かな」


 仮説だけど私が呼び出した動物霊に影響され、同類が近くに現れたのだろう。

 だったら彼らも利用しよう。特に怨霊に匹敵するほど力をつけた動物霊。しばらくはその動物霊をターゲットにすれば……怨霊から目を離すことになる。


「いいねぇ。やっぱりこの街は面白いなぁ」


 そんな考えを張り巡らせていた中、目の前で1人の人物が大げさに動き回っていた。こんな夜遅くだというのに、私が通う場芳賀高の制服を着た、いかにもチャラチャラしてそうな少年だった。

 しかしそんなことよりも、その少年から異様なほどに霊力を感じ取れた。しかもこの力は……。


「クソ。運がいいのか悪いのかわかんねぇなこれじゃ。とりあえず、飯でも食うか」


 幽霊に取り憑かれた少年は1人呟く。ラッキーだ。こんなところで早速犬の幽霊に遭遇出来るなんて。


「あー、悪いけどご飯は食べさせてあげられないかなー」


 どれだけ力を付けたか、早速確認させてもらおう。

 って……思ってたんだけど。ある意味想定外の出来事が発生した。


「特殊体質者」


「?? なにそれ」


 目の前の少年は、幽霊に取り憑かれても平静を保てる特殊体質者だった。さらには自らの意思で幽霊を奥に閉じ込めてしまった。そんなパターンはほとんど聞いたことがない。いかにも珍しいケースだった。

 だけどそれはそれで好都合だった。彼が力を押さえていれば、除霊される機会も減る。そのうち力を付けた動物霊に乗っ取られるだろうけど、そうなったら私のモノだ。


「あー、悪いけど君はほっとく」


 私は彼を置いてその場を立ち去る。

 動物霊の犬。彼はきっと私にとって役に立つはずだ。出来るだけ存在を隠しておかないと。


「師匠には内緒にしておかないと……見つけた動物霊は2匹って言っておこう」


 そのうち力を付け、みんなにとって脅威になるだろう。けれど私にとっては違う。これも私の計画のうち。

 これが私のサブプランの1つ。犬と少女が混じった動物霊。そして取り憑かれた特殊体質者の少年だった。

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