第352話悪魔編・偽その41
あれから数年が経ち、私は18歳になった。あんな出来事があったというのに、人生というのは不思議なものだね。私はなんの不自由もなくここまで無事に生きることができた。
普通に学校へ通い、習い事もした。友達はあまり出来なかったけど、ただ人間として普通に暮らすことは出来た。
だけど私の欲は収まることはなかった。それだけは人間として生まれた以上、絶対に満たされることはなかった。
人は人を殺してはいけない。それは人として生まれた以上絶対に守らなければならないルールだった。そのルールを破った人間は法によって裁かれる。つまりはまともじゃない人間たちのことを指す。
何度思ったかな。私は人間として生まれるべきではなかった。他の生物……人間のルールが適応されない存在であれば……きっと。
そんな馬鹿げたことを考えながら、今日もいつものように動物を捕まえ、いつものように殺していた。
「はぁ、はぁ……ふ、ふふ」
その辺で捕まえたネズミにカッターを差し込んでその動きを鈍らせる。ネズミの動きは徐々に静かなものとなり、やがてその命を停止させた。
私は自分でもわかるぐらいに息を荒げていた。きっとその表情は真っ赤に染まっているのだろう。
「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ」
こんなことを私はずっとずっと隠れてやっていた。これだけは絶対周りにバレるわけにはいかない。私が普通に人間として生きるためには……隠し続けなければならないんだ。
そんなことを考えていた時だった。突然部屋にノックをしてきた人物がいたのだ。今日は誰もいないはずなのに。
「は、はい!」
私は慌ててドア越しに外の声に耳を傾けた。
「私だ。思ったよりも早く用事がすんだのでな。風香、今何をしている?」
父親の声だった。おかしい。彼は今悪魔を祓いにどこかの街へと繰り出しているはずだったのに……。
「い、いえ……学校の課題をやっていたところです。お父様こそもう帰ってきたんですね」
私は咄嗟に嘘をつく。こんなことをしているとバレるわけにはいかない。
「そうか。後で少し話がある。時間を空けておいてくれ」
「は、はい……」
父親の声は遠ざかっていく。なんとか誤魔化せることは出来たみたいだ。
それにしても……話ってなんだろう? 自分でいうのもあれだけど、私は父親を避けている傾向がある。そんな私に自ら進んで声を掛けてくるのは滅多にないことだ。
不安堂総司。私の父親であり、世界に3人しかいないエクソシストの1人でもある。そして神魔会とよばれる組織に所属している人物でもあった。神魔会の中でも立場は上位の位置に存在しているらしい。
私は父親が苦手だった。それはいつからだったか。ハッキリとはわからない。だけど決定的な瞬間は今でも覚えている。
私の母親を殺した瞬間。あの時、私にとっての父親は死んでしまったのだ。
私の母親は父親に殺された。もちろん恨みがあって殺したわけではない。その理由も後から知ることとなった。
この世界には悪魔という存在がいる。人間とは全く違う別の存在。そんなあり得ないようであり得る存在が、この世界には存在しているんだ。
そんな悪魔を倒す専門家、それがエクソシスト。エクソシストの役割は悪魔を祓うこと。だけどそれ以外にも重要な役割があった。
それは、悪魔を召喚した者を殺さなければならないということだ。
そう。だから私の母親は殺されたんだ。悪魔を召喚しようとした……その行為のせいで。人間としてやってはいけないことをしてしまったがために。
「……」
今でもハッキリと覚えている。あの時母親が死んでいく瞬間を。体の動きは徐々に鈍くなり、体温がどんどん下がっていく。やがて動きは完全に停止し、その命を終える。
私はその瞬間を目撃して、心底父親を憎んだ。
だって、そうでしょう?
どうして……
「はぁ、バカみたい」
人を殺すことを許された職業といっても過言ではない。私にとって天職とも言えるだろう。
だけど私には何故かエクソシストとしての才能はこれっぽっちもなかったんだ。
どうしてなのかな? これも神さまのイタズラなのかな? どうして私は私のやりたいことが一切出来ないのかな?
私はエクソシストにはなれない。人を合法的に殺すことが出来ないんだ。だからそれが出来る父親が羨ましく、妬ましかった。しかも私の目の前で人を殺すなんて……あんな……あんなこと、二度と味わいたくない。
「……」
私は自分の部屋から出て、外の空気を吸った。今日は晴天で、気持ちのいい空模様だった。周りにいる人たちは皆それぞれが幸せそうで、人間としてきっと満足した生活を送っているだろう。
けれど、私は違う。私だけはみんなと違う。絶対に、絶対に私の気持ちが満たされることはない。
人間であり続ける限り……私のやりたいことは一生できないんだ。
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