第342話悪魔編・偽その31
俺は占い師に言われた通りに2つの神社を周っていた。外湖神社。そして瀬柿神社。この2つだ。
まず1番近くにある外湖神社から攻めてみた。しかし外湖神社には風香先輩の姿はなく、その気配すら感じなかった。そんな気配感じ取れる力はないが。
となれば向かうべき目的地はただ1つ。来遊市最大の神社。瀬柿神社だ。
「やっぱりあの女。いるとしたらあそこなのかね」
俺は瀬柿神社に向けて足を進めていた。外湖神社からはそれなりに距離がある。途中まではバスで移動して、残りは徒歩だ。
「さあな。だけど占い師がああ言ってるんだ。可能性はあるだろ」
風香先輩が現れる可能性は、あくまで可能性に過ぎない。彼女からすれば、放っておけばいずれは悪魔へと変化するのだから。
けれど彼女の目的。それらを考慮すれば神社に現れる可能性は高い。
「でもよ。本当にあいつと対話でどうにかなると思うか? アタシはそう上手くいくとは思えないけどな〜」
風香先輩は完全な悪魔じゃない。だから彼女の力を吸収すればいい。それが確実に悪魔化を防げる方法だ。
だけどそんなことをせずとも、彼女と和解してしまえば戦う必要はない。できれば俺は……それを目指したい。
「かもしれないな。でもさ。やっぱり俺は……あの人とちゃんと話がしたいんだ。どうして悪魔になりたいのか。どうして俺を殺そうとするのか。どうして……そんな人間になってしまったんだ、って」
そんなこと、到底理解出来ることではない。だからこそ……だからこそだ。俺は彼女のことが知りたい。どうしてそんな結論に至ったのか。彼女の人生を……全てを知る権利がある。
「はぁ……結局アンタはただやりたいことをしてるだけ、ってことかよ。相変わらずだな」
やりたいことをしているだけ。ああ、そうだな。俺の根本は結局変わっていない。そのせいで自分も傷ついたし、傷つけた人も多い。
それでも……俺は――。
「ほら、着いたぞ……」
そうこうしているうちに、瀬柿神社の入り口へと辿り着いた。ここからさらに階段を登らなければならないので、まだまだ先だが。
「なんか……妙に人が多くないか?」
ヘッドホンの言う通りだ。今日はやけに人が多い。何かあるのだろうか? そう自問自答していたが、簡単に解答を得ることができた。
「いや……考えてみればそうか。今日は12月31日。大晦日じゃないか。そりゃあ前日に準備する人たちでいっぱいになるよな」
瀬柿神社は市街からも参拝客が来るくらいには有名な神社だ。前市長自殺事件があってから多少の人気は落ちたかもしれないが、それでも最大の神社であることには変わらない。きっと来年も多くの参拝客が訪れる。となれば色々と準備が必要になるのも頷ける。
「みんな神さまのご加護を得ようとして来るわけだろ? 残念でした! その神は不在ですってな!」
笑えない話だ。現に今瀬柿神社に神さまは不在だ。彼女を帰すためにも、今回の問題は確実に解決させなければならない。
「縁起でもないこというなよ」
「事実だろ〜。大体何が神さまのご加護だ。あんなもん何の意味もないって」
「おいおい。それを付喪神であるお前が言うのか? 前に自分は仮にも神だって言ってたじゃないか」
当然本物じゃないが、付喪神という名前に神が付いている以上。神さまに近しい存在であることに違いはない。
「……あ〜、そういやそんなことも言ったっけな」
「珍しいな。お前がそんなふうにはぐらかすなんて。どこか調子でも悪いのか?」
「うるせぇ! いいから黙って先に進みな!」
全く。何を怒っているのか。
しかしこの階段は本当に長い。以前来た時は途中までだったから、そこまで疲れることはなかった。富士見たちはこの先。境内に向けて進んでいったのだ。
「なあ、アンタ」
すると、先ほどとは打って変わって小さな声でヘッドホンが話しかけてきた。
「どうした?」
「いやな。アンタはあの女……どうするべきだ、って聞いていたよな? あの質問の意図はなんだ?」
それは俺が占い師に問いかけた質問のことだろう。返答はただ一言。『お主ら次第』だと。
質問の意図。それは言うまでもない。風香先輩を仮に止めたとして、問題はその後だ。
「風香先輩は……悪魔になろうとして、生き物を……人を殺そうとしている。多分その事実を知っているのはごく僅かだ。けど……その時点で彼女は人を捨てている。そんな彼女を止めれたとして……あの人のその後は? 未来はどうなる?」
仮に全てがうまくいき、風香先輩を止めることが出来たとしよう。
彼女は今後、どのようにして人生を過ごすというんだ?
どれだけ綺麗事を並べようと、彼女には『悪魔になろうとした人間』というレッテルが貼られ続ける。
そんな人間を、この世界は許すのか? 専門家たちがそれをただ黙って放っておくのか?
「悪魔を召喚しようとした人間は殺す。それがエクソシストに与えられた使命だと富士見祐也……それから来遊夜豪は言っていた。風香先輩はやり方は違くても、それに近いやり方をしている。その時点で……あの人は殺されてもおかしくないんじゃないか?」
彼女の父である不安堂総司。奴であれば見逃す可能性は高いが、エクソシストは世界に3人いる。彼が見逃しても他の2人は許さないかもしれない。
それにあまりハッキリと聞かなかったが、礼譲さんは怪異庁、という言葉を使っていた。おそらく専門家たちが所属する正式な組織なんだろう。そんな人間たちに目をつけられたら……きっとただじゃ済まない。
「それの何が問題なんだ? あの女は悪魔になろうとした人間。ルールを破った。裁かれて当然じゃないのか?」
そう。それが普通だ。当然の結果であり答えだ。
だけど……それが俺はどうしても、嫌だった。
「俺はさ……風香先輩は、ただ普通の人だと思うんだ。たまたま目指すべき目的がおかしかっただけで……あの人は、俺と変わらない。ただ、
あの人も俺と変わらない。ただやり方が許されないだけ。そんな彼女を、殺すことなんて……俺には出来ないし、どこかで殺されてしまうなんてことも……あってはならない。
「アンタは……本当に――」
そんな思いを抱きながらも、ようやく頂上へと辿り着いた。境内には大きな鳥居があり、そこをゆっくりと潜った。
「お前は、やっぱり反対なのか?」
俺の考えがただのわがままだということは百も承知だ。そんな気持ちを理解してもらおうとは思ってもいない。
「まあそりゃあ反対さ。けどな……アタシはそうやって、アンタに助けられた。何も言う資格はないよ」
そうだった。俺がヘッドホンを……リリスを助けた時も、俺のわがままで無理やり助けた。あの時と変わらない。俺は前から何も、変わっていない。
「…………あれ、なんか」
しかし、なんだろうか。たった今の会話。別になんの変哲もないやり取り。だというのに、何かが引っ掛かる。一体、何が引っ掛かっているのだろうか……?
そんな、疑問を抱いていた時だった。
「やあ、魁斗君! こんなところで会うなんて奇遇だね!」
「は……?」
背筋が凍った。気づけばさっきまでいた人たちの姿はなくなっている。この場所にはたった2人の人間……いや、1人の人間と1人の存在がいた。
「風香、先輩……?」
「ふふふ。久しぶりだね」
そんないつもと変わらない、胡散臭くて不思議な先輩は満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。
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