第334話悪魔編・偽その23
来遊夜豪こと、初代怨霊。彼は自身を瀬柿神社に祀らせ、神として崇めさせた。そうしてこの500年の間、瀬柿神社で力を蓄え続けていたのだ。
「わしは他の神とは少し違ってな。わしにのみ唯一与えられた役割があったのだよ」
占い師は、地面を走るネズミに目を向けている。
「本来神とは神域を動くことは出来ない。しかしわしだけは神域と現実世界を行き来することが出来たのだよ」
神さまは神域にいるもの。それが当然であり当たり前だと理解していた。しかし彼女はその当然から外れていた。
「それは、何故ですか?」
礼譲さんが問いかける。
「まあ簡単に言ってしまえば、わしはこの街来遊市を代表する神なのだよ。それ故に他の神以上に役割が多くての。こうして直接現実世界に行くことを許された存在なのだよ」
なるほど。それはなんとなく腑に落ちる。この街で1番大きい神社が瀬柿神社である理由も納得できる気がする。
「そして今から約500年前。あの出来事が起こった」
あの出来事。それはつまり来遊夜豪が死に、絶望し、激しく怨み、怨霊となったあの日のこと。
「ちょうどあの日、わしは現実世界へと赴いていた。そんな時だった。世界は闇に包まれ、この世界で最初の怨霊が誕生してしまった」
だからあの日、富士見祐也の前に姿を現したんだ。
「わしは世界のことを占った。わしの占いは当たる。だがそれも
占いは当たる。だけど確実ではない。これほどまでに矛盾した言葉はないだろう。
「わしの占いでは、あの初代怨霊の事件を解決させるには富士見祐也は必須だと出た。だからなんとしても彼を最終決戦の場に鉢合わせる必要があったのだ。例えどんな手を使ってでも」
富士見祐也はあの時、人として許されないことをした。あの選択のおかげで今の俺たちはある。だからそれを否定する義理なんてない。
それでも、あの選択は正しくはない。それだけは声を大にして言える。
そしてその選択肢を与えたのが、他の誰でもないこの占い師なのだから。
「さらに問題だったのが、わしが席を外している間に、いつの間にかヤツに席を奪われていたということだ」
俺たちはてっきり北の神さまが初代怨霊に力負けしてしまったのではないか? そう思っていた。
だけどそれは間違っていた。単純に神さまが不在だったんだ。だからその間に初代怨霊に本来の席を奪われてしまったんだ。
「そのせいでわしは神域に戻れなくなり、神としての力もほぼ失ってしまった。わしに残された道はただ1つ。富士見祐也と同じく、500年耐え忍ぶしかなかったのだよ」
ネズミはどこかへと去り、占い師は天井を見上げた。500年。それは果てしなく長いものだ。と言っても、妖怪や神さまにとってはそれぐらい大したことないのかもしれないが。
「それじゃあ……なんでそれを俺たちに言ってくれなかったんですか? 言ってくれれば……何かヒントを貰えたかもしれないのに」
父さんは嘆く。それもそうだろう。この中で1番占い師と付き合いが長いのは父さんだ。この事情を知っていれば、色々と対策出来たかもしれない。
「バカもん。わしはこれでも神だ。直接手を貸すことはできんよ。だからわしに出来ることは
確かにそれは一理あるかもしれない。神さまになんでも助けてもらっていたら、誰だって力を借りたくなってしまう。
「それに今はわしの力はほとんど無い状態だと言っただろう? そんな状態でも力なら貸したじゃないか。もう忘れたのか?」
「えっ……?」
占い師は父さんを睨む。何か父さんに力を貸していたのだろうか?
「あっ……!! あのお守りッ!! 瀬柿神社の……!」
「お守り??」
「わしの力が宿っているお守りをこやつは持っていたのだよ。そのおかけで命まで助けられたというのに。あーあー、忘れられているとはなぁ」
そんなことがあったのか。そういえば父さんと春彦さんは、市長から何かを借りたと言っていたが……それがそのお守りだったのだろうか?
「す、すいません。あの時は非常に助かりました。ま、まさかあなたが力を貸してくれていたなんて……」
「ふん。ま、初代怨霊の力に圧倒されて、敗北寸前だったのは内緒だがな」
なぜかニコリと笑みを浮かべる占い師。いや、全く笑えないぞ。
「ほっほ。それでその人類に直接手を貸さないあなたが、今回はどうしてこのようにお話をすることにしたのでしょう?」
陽司さんははっきりと告げた。確かにその通りだ。今回占い師は自らの正体を明かし、俺たちに手を貸そうとしている。なぜ初代怨霊の時にしなかったことを、今回はしようとしているのか?
「まあそう焦るな。そうだな……初代怨霊は無事に消滅し、わしはこれにて無事に戻れる。そう確信していたんだがな」
「……それで、どうなったんです?」
占い師は口を閉ざす。そしてやっと口を開いたと思えば、無言でペロペロキャンディを舐め始めた。
「えっと……」
思わず情けない声を出してしまう。なんだ。なんで急に黙り込んでしまった。
「あのー……占い師さん?」
「わかってる。わしはな、最後にこれから先のことを少し占ってみたんだよ。その結果がな……あまりにも絶望的なものでな……」
その時の占い師は、どこか寂しげな表情をしていた。
「その結果を変えて欲しい。だからお主に来てもらったんだよ。他の誰でもない……お主に」
彼女は真っ直ぐと俺の目を見て言った。俺が……彼女にとって重要な存在だと、改めて理解した。
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