第333話悪魔編・偽その22

 自称占い師。そう名乗る彼女の正体。それはこの場にいるみんなが想像をしていなかった存在だっただろう。


「い、いや……それは……どんなご冗談ですか?」


 思わず苦笑いをする父さん。


「えっと……今、真面目な話をしているんでしたよね?」


 礼譲さんに至っては、占い師がふざけていると思っているようだ。

 

「ほっほ。さすがにそれは冗談でしょう。いくらなんでも神さまなんて存在、この目で見ることなど出来るはずもないでしょう」


 この場において1番年齢が高いのは、占い師を除けば間違いなく陽司さんだろう。その陽司さんですら否定するのだ。それほど神さまとは本来であれば会うことが出来ない存在なのだろう。


「むむ。皆信じていないのか。ほれ、お主は信じるだろう?」


 と、占い師は俺に目線を合わせてきた。やはりそうだ。俺は彼女にどこか既視感を覚えていた。その答えはわかっていた。かつて出会った神たちに、どこか似た感覚があったからだったんだ。


「ま、まあ……信じるしかないっていうか……」


 俺の言葉を聞いて父さんたちは目を丸くする。


「魁斗!? その根拠は一体どこに……?」


「はっはっは! 何を隠そうこの少年は神隠しにあったことがあり、その場で他の神に会ったことがあるのだよ!」


 なぜかドヤ顔で告げる占い師。それを聞いてさらにみるみる表情が曇っていく父さん。


「神隠し……? 神さまに会ったことがある……? ま、待て。理解が追いつかん。どういうことだ? い、いやそもそも。神隠しという事象が本当にあったとして、どうやってこの世界に戻って……」


「まあまあ今は彼女の話を聞こうではありませんか。彼のことは一旦置いておきまして」


 ぶつぶつ呟く父さんを抑える陽司さん。父さんに神隠しや神さまのことを話さなかったのは、こう……説明がめんどくさかったからだ。父さんの反応を見てくれればすぐに理解できると思う。


「ふむ。話が早くて助かる」


「ほっほ。伊達に長く生きてませんからねぇ。それに怪異に関わった以上、この世界で何が起きても不思議ではないことぐらいとっくに味わっておりますからねぇ」


「そ、それもそうですね……しかし神さま、ですか。まさか本当に存在しているなんて……」


 礼譲さんは未だに信じられないのか、占い師を疑心暗鬼な目で見つめる。その気持ちはわからんでもないが。


「さて、ではまずわしという神がなぜこの現実世界にいるのかを説明しなければならないな」


 俺がかつて出会った神。それは黒戸神社にいた東の神。そして外湖神社にいた西の神。彼女達はそれぞれ神域におり、この現実世界には基本的に干渉出来ないと言っていた。だからこそ現実世界の異物を取り除こうとした結果、神隠しという現象が起きるのだと言っていた。

 しかし彼女……占い師はこの現実世界に存在している。


「それではまずおさらいだ、除霊師の息子よ。神とは、何から成るものだとお主は聞いておるかね?」


 再び俺に目線を合わせて告げた。


「えっと……確か人間から……あるいは幽霊からとか」


「ふむ。その通りだ」


 その答えを聞いて、父さん達は再び目を丸くした。その事実は専門家たちにはあまり知られていないことだったのだろうか?


「しかしだな。必ずしも人間。あるいは幽霊から変化するわけではないのだよ。もっと別の存在。そんな存在も神に認められ、跡を継ぐことだってあるのさ」


 そんな話は聞いたことはない。しかしそうなると想像がつくとしたら……。


「人間。そして幽霊以外となると……それこそ悪魔……はご本人が否定されてましたね。であれば……」


「妖怪、か」


 父さんの言葉を受け、占い師はニヤリと笑った。


「わしは元々はただの1匹の妖怪だった。名前もない……ただの妖怪だったのさ。無垢妖怪などと一緒にするなよ?」


「無垢妖怪?」


 俺の知らない単語が出てきたので、つい聞き返していた。


「怪奇谷魁斗さん。妖怪には名の知れた存在がいくつか存在していますよね? 例えば天狗。天狗は天狗という名前の妖怪ですが、そういった名前のある妖怪になる前の名前のない存在のことを無垢妖怪というのですよ」


 礼譲さんが丁寧に答えてくれた。妖怪にもそんな種類が存在していたとは。


「無垢妖怪は人を襲うのですよ。そういった妖怪を退治するのが、妖怪殺しなのですよ。彼のようにね」


 今度は陽司さんが答える。そうか。妖怪殺しである翔列は、人に危害を加える無垢妖怪を退治していたんだ。


「わしはその無垢妖怪でもなければ、天狗のように名前のある妖怪ではない。その間、といったところか。ともかくわしには妖怪名がなかったのさ」


 なるほど。わかるようなわからないような……そもそも妖怪なんてこの街では一切現れないし、知る機会もなかなかなかった。知らなくて当然だ。


「そんなわしにも特殊能力が目覚めつつあった。お主、アマビエやくだんといった妖怪を知っているか?」


「聞いたことあるような……ないような?」


 微妙な記憶だ。少なくとも全く知らないということはない。ただその妖怪がなんなのかはさっぱりわからない。名前ぐらいならなんとか聞いたことがあるかもぐらいだ。


「ま、ざっくりと言うのであれば、あやつらは未来予知が出来る妖怪とでも言っておこう。わしはそんな彼らに近い力に目覚めつつあったのだよ」


「それが……あなたの言う占い、というわけか」


 誰もが思ったことを父さんが告げた。つまり……占い師は元々1匹の妖怪で、未来予知能力に目覚めつつあった。その力を応用したものが、占いだということか。


「そういうことよ。結局、わしの力は完全に目覚めることはなかった。だから占いという中途半端な力しか使えない状態なのだよ。こればかりはもうどうしようもないのだがね」


 占い師はやれやれといった風に告げているが、その表情は悪いものではなかった。


「それで? その妖怪様がどのようにして神さまへと昇格されたのですか?」


 礼譲さんは告げた。確かに彼女の正体、さらにその正体は掴めた。しかしそれからどうやって神さまへと成り上がったのだろうか?


「わしは妖怪でありながら、この微弱な力を使って世界に貢献した。その結果神に認められ、この瀬柿神社に祀られる神となったのだよ」


 なるほど。きっと東の神さま、西の神さまも同じようになにかを成し遂げた人物だったのだろう。


「ま、ここからが本題になるのだがな」


 と、深くため息をつく占い師。


「お主らも知っているだろう。わしの代わりに瀬柿神社に祀られていた存在のことを」


 瀬柿神社に祀られていた存在。それは俺たちにとって強敵であり、この世界に存在することを許されなかった……この世界で最初に誕生した怨霊。初代怨霊のことを告げていた。

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