第330話悪魔編・偽その19

 俺の目の前にいる少女。いや、この場合彼女のことを少女と呼称してしまっていいのかわからない。だけど見た目だけなら完全にただの少女だ。

 しかし本当に少女なのか? と疑ってしまう自分の気持ちも理解できる。

 まずは少女の服装。ところどころが透けた網のような服装……まるで魔女のような格好をしていた。年相応の少女だったら絶対にしないような格好だった。

 そして部屋に佇む少女の姿。それがまるで不思議に思えた。ただその場で立ち尽くし、俺の目をジッと見つめる。本当にただそれだけなのに、何か得体の知れない存在に見つめられている。そんな感覚があった。だけど、不思議と悪い感覚ではなかった。それに……この感覚。どこかで味わったことがあるような……?


「なんだそんなに惚けて。わしの姿に見惚れるような趣味の持ち主ではないだろう」


 少女はパッと服に着いた埃を払った。よく見ればこの部屋は随分と埃っぽい。


「い、いや……それより君は……なんだ?」


「なんだとは失礼な。見てわからぬか? まあそれもそうか。お主と直接会うのはこれが初めてだしな。とりあえず敵ではない。その武器ともいえない物を下ろしたらどうだ?」


 そういえば俺はレンガを構えたままだった。確かに彼女に敵意はない。言われた通りに振り上げていた腕を下ろす。


「ふふ。素直でよろしい。さて、それじゃあ行くとするか」


 と、少女は外に目を向けた。といっても窓から見えるのはただの庭。それ以外に何も映っていないのだが。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 行くってどこに!? っていうか君は誰なんだ? 何者かもわからないのにホイホイと着いていけるわけないだろ!」


 しかしなんだろうか。会ったことないはずなのに、なぜか知っている。そんな感覚を覚えた。会っていないはずなのに、なぜそんな感覚を覚えたのだろう?


「ふむ、そうだなぁ……それじゃあそこのはどう思う?」


 少女は明らかに、俺の首にかけてあるヘッドホン目掛けて問いかけた。


「……アタシの正体を一瞬で見抜いた、ってわけか」


「もちろんだ。お主の。ハッキリと理解しておるぞ」


 体がビクッと震えたのがわかった。正体。ただその一言だけなのに、何故だか俺は感じてしまった。

 今彼女は、ヘッドホンの正体……悪魔であることを見抜いたのではないか、と。


「ふん……でもこの不気味な女が言ってることに間違いはない。確かに敵じゃあないな。味方、かどうかは知らんがな」


「おいおい。どこからどう見てもわしは味方だよ。ああ、わしは悲しいよ。こんないかにも無害そうな見た目をしているというのに……敵扱いだなんて……」


「いやいや、別に敵扱いなんてしてないよ……無害そうな見た目かどうかは置いておいて」


「なんじゃと?」


 やはりどこかで彼女に会ったことがあるのだろうか? どうにも既視感がある。一体どこで……?


「勿体ぶらないで教えろよ。アタシたちは急いでんだよ。くだらねぇ不気味な幼女に構っているほど暇じゃねぇんだって」


「はいはい、せっかちな奴だこと」


 会ったことがないのなら、似たような存在を知っている? あるいは、どこかで聞いたことがある……?

 聞いたこと……いや、待て。そういえば、彼女の特徴と一致する話を聞いた記憶がある。


「君は、もしかして占い師じゃないか?」


 以前富士見祐也が語った500年前の話。その時に現れた人物。自らを占い師と名乗り、富士見祐也に多くの提案をした人物。俺の目の前にいる少女と特徴が完全に一致している。


「ほほう。見事当てて見せたか。もしやお主、占い師の才能があるのではないか?」


 やはりそうか。話で聞いていたからなんとなくこの雰囲気に既視感があったんだ。


「いや、待てよ。占い師って……あの時の話に出てきた奴だろ? 500年前だぜ?? いくらなんでもそんなバカな話……」


「ふふ、何を隠そうわしは人間ではないからな。500年前から存在していてもなんら不思議じゃないのよ」


 あまりにもあっさりと告げたので、思わずスルーしそうになってしまう。

 人間ではない。であればまた別の存在なのだろう。それがなんなのかは……想像もつかないが。


「人間じゃないって……お前なにも――いや、まさか……もしかして……」


 ヘッドホンは何やら1人でボソボソと呟いている。彼女の正体に何か心当たりがあるのだろうか?


「さて、わしが占い師ということがわかったところで早速行くとしようか」


「い、いやいや! 確かに君が占い師ってことはわかった。だけどどこに行くんだ? そもそもここで何をしていたんだ?」


 占い師はジッと俺を見つめる。なんでそんなことをわざわざ言わなくちゃならんのだ、という目をしている。


「ここにいた理由は至極単純なことよ。お主がここに来ることがわかっていたからだ」


「要は待ち伏せしてたってことか?」


「言い方を変えればそうであろうな」


 彼女が占い師なのであれば、俺がここに来ることは予想出来たのだろう。それが彼女の力なのであれば。


「それで? そんな俺を待ち伏せして、どこに連れて行こうって言うんだよ」


 占い師はわざわざ待ち伏せしてまで俺に会おうとした。それには何か深い理由がある。その理由がなんなのかはわからないが、それはきっと。俺にとって重要なことなんじゃないか。不思議とそう思った。


「ま、ざっくり言うとお主の父親に会わせてやる」


 だけど、彼女の口から放たれた言葉は想像とは少し違ったものだった。

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