第124話神隠し編・真その4
結論から語ると、『キャプテンゴージャス』はとんでもないアトラクションだった。
最初はゆっくりと進んでいき海からワニが出てきたり、森からゴリラが出てきたりと驚かしてくるぐらいだった。(当然だがワニもゴリラも本物ではない)
だが突然洞窟に入ったと思うと急に猛スピードで走り出し、洞窟を飛び出したと思ったら海ではなくなぜか空中を走っており、横を見ればジェットコースターが並行して走っていた。(この時点でヘッドホンの叫びは響いていた)
のんびり探検するだけのアトラクションかと思っていたが、実は絶叫マシーンだったというオチだった。
そんなこんなで無事に帰ってきた俺たち一行なのだった。
「し、死ぬかと思った……」
「そ、そうね……っていうか途中すっごい叫び声が聞こえたんだけどあれは誰だったんだろう……」
「いやー! すっごい楽しかったー! ねー、雅人君も楽しかったよねー!」
「うん……」
それぞれが感想を述べていく。そんな中唯一死んだようにヘッドホンは止まっているが。
「魁斗お兄さんも天理お姉さんもビビりすぎー!! まだまだですね!」
「う……言ってくれるじゃない……! 次は紅羽ちゃんの苦手なとこ行くよ! どこ? どこが苦手なのか言いなさい!」
「まあまあ落ち着けよ。そんなことより腹減らないか?」
時刻は12時を過ぎている。俺は腹が減ったので昼ご飯を提案した。
「それもそうね。私見てくる。行こう、雅人」
「お、おい」
根井九は俺をスルーして、雅人君と共にそのまま立ち去ってしまった。
「なんだよ、一緒に探せばいいのに」
根井九は雅人君を連れてフードコートらしき場所に入っていった。
「へぇー、一緒に探したかったんですか〜?」
冬峰がまたもや不敵な笑みを浮かべて俺の顔を覗いてくる。
「そうじゃねーよ。一緒に行きたいとかじゃなくて、単純に根井九に任せて探してもらうつもりはなかったってことだよ」
「なるほど! さすが魁斗お兄さん! かっこいいー!」
へいへい、と俺は適当に答える。しかしそうなってしまっては仕方がない。大人しく待つとしよう。
俺と冬峰は近くのベンチに座った。冬峰は足をブラブラとさせている。
「冬峰……」
俺は再び考えていた。冬峰は一体どうすれば成仏出来るのだろうか。何をどうするのが冬峰にしてあげられる優しさなのか。
俺は一体、冬峰に何をしてあげられるのだろうか?
「はい? どうしたんですか?」
冬峰がキョトンとした顔で俺の顔を覗く。
「へ? あ、ああ……そういや……弟は、どうなったんだ?」
俺はおそるおそる聞いていた。冬峰に外湖神社で真実を話したあの日。あの日以来、冬峰の口から弟に関する話は一切聞かなくなった。
それがどういう意味なのかはわからない。ありえないとは思うが、実は自分が幽霊であるという事実を覚えているという可能性もあるのではないか……?
しかし、その予想は大きく外れた。
「そうですね……弟は多分、もう帰ってこないんじゃないかなって」
冬峰は、初めてその話題に触れた。
「どういう、ことだ?」
「弟は神隠しにあったって私言いましたよね? よくよく考えたら神隠しにあって帰ってくるなんて私聞いたことないですもん。だから多分弟はもう帰ってこないです。認めたくはないですよ、もちろん」
「冬峰……」
「だけど仕方ないですよ。もうそれは事実なんですから。せめて……連れ戻すことは出来なくても……私も一緒にいてあげたいな……」
冬峰は弟を見つけ出すことを諦めていた。それは俺が真実を伝えたことで少しだけ冬峰の存在自体が変わってしまったということなのだろうか。
浮遊霊である冬峰は、自分が幽霊であるという事実をすぐに忘れてしまう。しかしその記憶が少しだけ影響しているとしたら? 1度だけ真実を知ったことで冬峰自身の考え方に影響が出てきたのだとしたら……
それは俺の責任となる。しかしこの様子だと冬峰は自分が幽霊だということは覚えていないようだ。変わった事象は『弟を探す』という思想から『弟はもう見つからない』という考えになったということだけだ。
「もー、なんでそんな顔してるんですかー! 別に魁斗お兄さんをせめてるわけじゃないんですからー」
比較的明るい声を出し、冬峰はなぜか俺の頭を撫でた。俺よりもはるかに背が小さい女の子がベンチを使って頑張って撫でてきたのだ。さすがにこれはとんでもなく恥ずかしい。
「やっ……な、なにをするんだ!」
「おや? もしかして恥ずかしいんですかー? ふっふっふー。もっとお姉ちゃんがなでなでしてあげよっか〜?」
「お姉ちゃん……! い、いや……冬峰はどちらかというと妹で……」
見た目だけならそうなのだが、実年齢は俺よりもはるかに年上になる。そう考えればお姉ちゃんどころかもうおかあ……
「む。何か今とんでもないことを考えましたね……ならこっちにも考えがあります!」
ムスッとした表情をした冬峰は再びベンチに座った。そしてスカートの上を手でパッと払い、自分の太ももに当たる部位をポンポンと叩いた。
そして、冬峰はこの後こう言った。
「膝枕。したいですか?」
冬峰は再びポンポンと叩く。そして首を傾げた。もしもこれが俺と同い年ぐらいの女の子にやられていたら危なかったかもしれない。とはいえ今の冬峰に少しもドキッとしなかったかと言われれば嘘にはなるだろう……
「魁斗。お前は幼女とそういうプレイをするのにハマっているのか?」
俺と冬峰が変な雰囲気になってる中突然声がした。聞き覚えのある声だ。その声の主は相変わらずダサい格好をしていた。帽子のカラーリングがレインボーになっているのが面白い。
「なんだレインボーガール。お前こそ今まで何してたんだ?」
「レインボーガール……? それは私のことか? それにプレイについては否定しないのだな」
「レインボーガールさん! 私は幼女じゃないです! れっきとした大人の女性に憧れている大人の女性(仮)です!!」
「プレイには否定しないのだな……」
冬峰は再び首をかしげる。今度は疑問を抱いているから首をかしげているのだ。
「えーと冬峰。彼女はシーナ・ミステリ。俺の友達だ」
友達と言われて嬉しそうにするシーナ。それが動きですぐにわかる。
「友達……ああ! 私はシーナ・ミステリだ! 魁斗の友達のシーナだ! 覚えておいてくれ、大人の女性(仮)よ」
「えっと、シーナさん? 私の名前はそんなんじゃないですよ? 冬峰紅羽っていうちゃんとした名前があるんです!」
「……? そうなのか。冬峰紅羽は名前が2つあるのか」
「違いまーす! さっきのはそういう冗談ですよー!」
「そうか……あ、わかったぞ。姫蓮の『超絶美少女』と同じようなものだな? 冬峰紅羽」
「い、一緒にしないでください! それといちいちフルネームで呼ばないでくださいよー!」
さっそく冬峰とシーナは打ち解けたな、と俺は思う。どっちもそれぞれの個性が出ていて見ていて面白いな。
「ところで魁斗。魁斗はこんなところで何をしているんだ?」
「何って……根井九がフードコートの中に行ったから待ってんだよ」
「根井九……? ああ、あの姫蓮と喧嘩している」
「ってそうじゃねえ! シーナこそ何してたんだよ! コーヒーカップなんか乗っちゃってさ!」
「ああ。コーヒーカップの前にいたクマさんに誘われてな。つい乗ってしまったんだ。あれは中々面白いな」
「な、なんですかそれは!? か、魁斗お兄さん! 次はコーヒーカップに行きましょう!!」
冬峰が興奮して俺の腕を引っ張る。それを見てシーナが少しだけ微笑んだ。
「シーナ?」
「ん? いや……昔本当の姉妹ではないが妹のように可愛がっていた子がいてな……少しその面影を感じただけだ」
シーナの過去ということはここに来る前のことだ。つまり、神魔会での話ということになる。気にはなるが下手なことは聞けない。だから質問したい気持ちをなんとか抑える。
「えー、私が妹ですかー? ということはシーナさんがお姉ちゃん?」
「そうだ。い、嫌か?」
「ううん! 嫌じゃないよ! むしろ大歓迎でーす!」
ガバッと勢いよくシーナに抱きつく冬峰。シーナもそんな冬峰の背中に手を回した。
その瞬間だった。シーナは何かを感じ取ったのか一瞬で穏やかな表情から一転して動揺していた。
「?? シーナさん? どうかしたの?」
冬峰が心配そうに尋ねる。
「あ、ああ……何でもない」
シーナはそっと冬峰を離す。明らかに動揺していた。それが何故なのか俺には理解できてしまう。
彼女はゴーストコントロールという特殊能力を有している。幽霊に触れればその幽霊を操ることができるという力だ。
つまり、幽霊に触れれば当たり前だが幽霊と認識できる。そう。シーナは今、浮遊霊という幽霊に触れたのだ。だから驚いているのだろう。
「魁斗お兄さん。そろそろ時間ですよー」
冬峰がふとそんなことを言った。時間、とは何のことだろうか?
「冬峰?」
「あれ? 知らないんですか? この遊園地って1年に1回だけ1時になると音楽が流れるんですよー。なんで1年に1回だけかわかりますかー?」
なんだろう。なぜだかとても不穏な空気がする。
「今日はですねーー」
その瞬間。遊園地から音楽が流れた。遊園地なのに決して明るい曲ではなく、どちらかと言えば悲しい曲。まるで、昔にあった悲しい出来事を思い出させるかのように。
辺りを見れば歩行者は立ち止まっており、下を向いている人も多い。手を合わせている人もいる。
ああーー、つまり今日は。遊園地で事故が起きた日付なのだ。
音楽は遊園地中に響いている。俺はそのメロディに心を奪われていた。そして同時に、冬峰のことを、思っていた。
冬峰は今大丈夫なのか。
冬峰は今どんな気持ちを抱いているんだ。
冬峰は今何をしているのか。
冬峰は今何を見ているんだ。
嫌な予感がする。冬峰はーー
「冬峰!!」
俺はすぐ隣にいるはずの冬峰に声をかけた。そうすればそこにいるはずの冬峰が返事をしていつも通りに会話が始まっていつも通りに笑いあえると思ったからだ。
だというのに。そこには。
「ーーふゆ、みね?」
いつもの笑い声は、帰ってこなかった。
代わりにあるのは、悲しい音楽だけだった。
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