第116話付喪神編その8
富士見への謝罪が無事に済み、俺は約束通りに外湖神社裏の墓地へと向かっていた。富士見とは現地で集合することになっていた。
時刻は8時50分。あと少しで着くだろう。
「で? なんでシーナはそんな格好なんだ?」
シーナは途中でバッタリ出会って、一緒に目的地に向かっている。
そんなシーナだが、地味な灰色のTシャツに、地味な緑のズボン。そして白の帽子を被っていた。
なんというか……あまりにミスマッチな格好すぎる。
「私はこういう服装が好きなんだ。世間一般からすれば地味な格好というやつだな。それをあえてしてみるというのが私の好みなんだ……おかしいか?」
そんな好みだとは知らなかった。違和感はあるが、決してダメな格好をしているわけではないしな。
「おかしくはないんじゃないか……? まあ、多分」
「お世辞はいらないさ! 俺様もこの格好はどうかと思うんだけどなぁ」
「む……付喪神ごときが私のファッションセンスに文句をつけるのか?」
「ごとき!? あぁ!? 今お前付喪神ごときって言ったな!?」
「言ったさ。何か問題でも?」
「お、おいそっちの付喪神!! こいつをどう思う? 同じ付喪神として!!」
ウォッチはヘッドホンに意見を求める。しかし。
「そりゃあイラつくのもわからないでもないが、言われて当然だろ。だってお前、うるさいし」
「なっ!?」
ふふっと笑うシーナ。よく言ったヘッドホン。確かに奴は少しうるさい。
「仲間かと思ったら敵だったか。なんという不覚。俺様だって初めて見る付喪神の同類に感動していたというのに!!」
「こんなもんだろ。アタシもよく知らないけどな」
はっきりいってここにいる誰もがまともな付喪神なんて見てないのだ。何が正しいのかなんてわかりもしない。
そんなこんなでまずは外湖神社へとたどり着いた。
「ここは……へぇなるほど」
ウォッチが何やら意味深なセリフを吐く。
「なんだ?」
俺が質問するとウォッチは答えた。
「何。付喪神も曲がりなりにも
つまり、ここには神がいるってことを言いたいのだろうか?
「魁斗。時間が過ぎてる」
言われて気づいた。とっくに9時を過ぎていた。慌てて裏へと向かおうとするが、その前に気になったことを1つ。
「シーナ。ウォッチって壊れてるんだよな? どうやって時間を確認したんだ?」
携帯電話で確認したならわかる。だけど今日シーナと出会ってから携帯を取り出している姿をまだ見ていない。
「体内時計だ。私はそれで生活している」
「そうなのか。そんな正確にわかるもんなんだな」
「私には時計がない生活が長かったからな。体内時計で把握するしかなかったんだ」
なるほど、と思いながら俺たちは目的地である墓地へとたどり着いた。そこには、3人の人物がいた。
まず1人目。富士見姫蓮。俺を見るなり遅いと言わんばかりの目つきで睨む。
そして2人目。土津具剛。俺が現れるまではかなり気まずそうな表情をしていたが、俺をみるなり顔を緩めた。なんでそんな顔をしていたのか。
その答えは3人目を見ればわかった。根井九天理。剛の彼女だ。根井九は終始不機嫌そうな表情をしていたが、俺をみるなりさらに嫌そうな表情を浮かべた。
そんないてはならないような3人が揃っていた。
「おー! 魁斗! 来てくれたか! それにシーナちゃんも」
「剛。これはなんだ? 言っとくが俺はもう……」
「わかってる。今回はそんなんじゃない。ちゃんと理由がある」
ほんとうか? そう疑わざるを得ない。そもそもなんで根井九と富士見を会わす必要がある。
「じゃあこれはなんだ? なんの集まりだ?」
「まあ聞いてくれ。今から、肝試しを始める!!」
「は?」
何を言っているんだ? 肝試し??
「魁斗。私の情報が間違いでなければ肝試しとは普通夏にやるものだと聞いたが」
「俺もそう思う」
シーナに同調する。夏以外にやってはいけないわけではないが、普通肝試しといったら夏にやるだろう。
「まあまあまだ9月だ。ギリギリ夏みたいなもんだろ!」
「それはともかくどういう理由で肝試しをするのかしら?」
富士見が剛に問いかける。
「ああ。俺たちのクラスの文化祭の出し物は聞いているな?」
「ええ。お化け屋敷でしょう?」
「そう。それで俺たちは客を驚かさなければならない。だからまずは俺たちが一度怖い目にあう必要があると考えた!」
なるほど、剛の考えは理解できた。
「こうして肝試しをすることでどうすれば人を怖がらせることが出来るのかわかるだろう? つまりこれは事前学習ということだッ!!」
「そう。怪奇谷君やシーナさんを呼ぶのはわかるわ。だけど
富士見の言うことも一理ある。
「それはだな。残念ながらクラスの女子はみんな予定が合わなくて断念したのだ。だから俺が呼べる人を呼んだまでさ」
「ふーん。だというのに怪奇谷君とシーナさんよりも先に私を呼ぶなんてねー」
「う……」
やっぱり剛の狙いは例の話なのか?
「……私が頼んだの。それでいいでしょ」
「……」
根井九が富士見をはっきりと見て言葉を放った。初めて見たのだが、なんだかとても違和感を感じる会話に聞こえた。
「そう。それじゃ早く始めましょ」
剛はあたふたしながら何かを取り出した。それを見てシーナは目を点にする。
「これは、なんだ?」
「これ? これはくじだよ」
どうしてくじなんだ? と思ったがそれはすぐに理解できた。
「これを引いて二手に分けようと思う! さすがに5人で行動したら恐怖が軽減されちゃうかと思ってさ!」
そうきたか。しかしそうすると2人3人になるような。
「さー、みんなで一斉に引くぞ!」
とりあえず剛にしたがってみんなそれぞれくじを掴む。
「せーの!!」
剛の掛け声と共にくじを引いた。棒の先には数字の1が書かれている。
「私も1だ」
シーナが俺のくじを見てそう言った。あれ……そうなると。
「私は2ね」
「……俺も2だ」
「私も2……剛と一緒だよ」
まさかの3人が一緒になってしまった。これも剛の狙い通りなのか?
「……ま、まあ行くっきゃないよな! どうせならもう1人連れてくればよかったな!」
目がかなり泳いでいる。あの顔を見る限り予想外だったようだな。あいつは一体どうするつもりだったんだ。
「で? どうするんだよ」
「え? ああ、とりあえずこの地図を見てくれ。ここがゴールだ。ここまで自由に向かってくれ。ただしスタート地点は別々な」
俺とシーナ1組は東の方から北を目指し、富士見ら2組は西から北を目指す。
俺は遠くにいる剛を見る。明らかにソワソワしている。まあ、自業自得というやつだ。
「魁斗。私は肝試しというのが初めてでな! それなりに楽しみなんだ!」
そんな俺の感想とは裏腹に楽しそうにしているシーナ。
「シーナは怖いものはないのか?」
シーナは俺の質問に困ったのか、少しだけ表情を固めた。そしてゆっくりと口を開き、こう答えた。
「そうだな。人の敵意、かな」
「……」
シーナはすぐに表情を戻すと、そのまま暗闇の中を進んでいった。剛達の方を確認してみると、あちらもすでに闇の中に消えていた。
「人の敵意、か」
シーナが放った言葉の意味を考えながら、俺も後を追った。
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