第101話動物編・裏その6
時刻は12時を少し過ぎていた。俺は来遊駅へと到着した。普段着慣れない服を着ているのでかなり違和感を感じる。
「確かこの辺だよな……」
来遊駅はこの来遊市の中心部に存在する駅だ。駅自体もかなり大きく、出口も北、南、東、西とありやたらと複雑だ。さっそく迷いそうだ。
すると、肩を誰かにポン、と叩かれた。誰だ? と思い俺は振り向いた。
そこにはサングラスをかけた謎の少女がいた。
「合言葉を言え」
謎の少女は低めの声でそう言った。
「風香の好きなラーメンは味玉入りの醤油ラーメン」
「ってなんでそこでそんなこと言うんですかぁ!! そもそも合言葉なんてないでしょ!!」
風香はそのままサングラスを外す。よく見れば風香はいつもの格好ではなかった。上はパーカーを着ており、下はふりふりのスカートを履いている。髪型はいつも通りで髪を一本に束ねてまとめている。
「なんだその格好は?」
「この方が都合がいいと思ったんですよ。いざとなったらいい作戦がありますからねー」
なんだろう。とても嫌な予感しかない。
「とりあえず私行きたいところあるんでいいですか?」
「……一応確認するが、遊びに来たわけじゃないぞ?」
そのまま風香に連れられた場所は、なぜかケーキ屋だった。
「おい」
「まあ待ってください。ちゃんと理由がありますからねー」
そうして俺は連れられて店内へと入る。すると、不思議な光景が目に入った。
店内にいる客はほとんど2人組。しかしその年齢層がおかしい。片方は若い子なのに対し、もう片方は歳をとっている人ばかりだ。そう、まるで親子のようだった。
そして目に入る1つの看板。そこには。
『親子2人組でご来店のお客様にはジャンボケーキがなんと半額!!』
と、大きく書かれていた。
「おい風香。まさかとは思うが……」
「どうかしたの? パパ?」
「ぶっ!!」
急なパパ呼びはダメだろ。香や恵子にもそんな風に言われたことはないと言うのに。
「さすがにまずくないか?」
俺は小声で風香に言った。
「大丈夫ですよー。親子である証明をしろとは書いてありませんからねぇ……それじゃあお願いね、パパ!」
「ぐっ……」
まずい。これはとんでもない破壊力だ。
「いらっしゃいませー。お客様は2名様でよろしかったでしょうか?」
店員さんが声を掛けてきた。
「そうですよー。ねーパパ?」
「お、おう。これは私の可愛い自慢の娘だ」
「ご注文はどうなさいます?」
「え、えっと……」
「ジャンボケーキで! いいよね? パパ?」
「…………ジャンボケーキを1つ」
ああ……香と恵子がもしこんな甘えん坊だったら、こんな風に甘やかしていたのだろう。
と、風香に踊らされてジャンボケーキを買って席に着く。
「さて、これを食べてる間に話をつけちゃいましょうか」
「なんだ。ちゃんと目的があったんだな」
「バカにしないでください。私だって師匠がお父さんとか嫌ですよ」
さっきはあんなにいい子だったのに……がっくし。
「結界からわかっているのは、このあたり周辺に霊力の高い存在が2匹いるということです」
「ああ。だけどそれが動物霊だとは限らない、そうだろ?」
「そうです。ただ可能性は高いですね。最近怨霊の動きもあったりなかったりですしね」
だとすれば動物霊の可能性は高い。
「本格的に動くにしても夜にならなければ幽霊は活動できない。だからその前に見つけ出せれば1番いいんですけどね」
しかし幽霊を判別出来るのは霊能力者の風香だけだ。除霊師は幽霊を判別する力はない。なので動物霊に取り憑かれた人を見つけ出すことは出来ない。
「そうなると俺はいらなくないか?」
「ですねー。夜までにかたがつけば師匠は必要ないですね。でも相手は2匹。そしてこの周辺となると探すのにも一苦労です。だから師匠は必要なんですよ」
もちろん必要なくても俺はやるが。風香にだけやらせるなんてそんなことするわけがない。
「だからここからは別行動です。私が出来るだけ1匹を追い詰めるので、その間に師匠にはもう1匹をなんとかしてほしいんです」
「そういうことか。でも俺には取り憑かれた人を判別出来ないぞ?」
「私が常に師匠に連絡します。だから師匠は私の言われた通りの場所に移動し続けてください」
つまり、俺は何もすることはないということか。
「……ま、実際俺の役割がこれが1番だからな」
「夜になれば幽霊も動き出すはずです。そしたら後は師匠にお任せしますよー」
風香の提案には納得だ。しかし、俺にはたった1つだけ疑問が残った。
ジャンボケーキ、必要だったか??
そうして俺と風香は、ジャンボケーキを食べ終え別れた。甘ったるい食べ物は久しぶりに食べた。ものすごくコーヒーが飲みたい気分だ。
と、そんなことを考えつつ俺は駅周辺の店を回っていた。風香からの連絡によればこの辺りに1匹はいるという。
「人、多いな」
土曜日ということもあり人が多い。こんな中から幽霊に取り憑かれた人を探すというのはかなり大変な作業だ。ここであっさりと見つかりさえすれば楽な話だというのに。
「ん……?」
ふと、俺の目に映り込んだのはある光景だった。女の子が1人、そしてその周りにいかにもチンピラのような男が3人で囲んでいた。
「いやぁ、見過ごせないな」
昔、香があのような輩に絡まれたことがあると聞いて以来、ああいう光景を目撃するたびに俺は割って入るようにしているのだ。
「ちょっとそこの少年たちよ。その子、困ってるじゃないか!」
俺は堂々とそう告げた。
「あ? なんだテメェは?」
「邪魔すんじゃねーぞ!!」
「ぶち、殺す……!」
1人ヤバいのがいるがスルーしておこう。チンピラは一斉にかかってくる。それを。
「がっ……!」
一瞬で綺麗に仕留める。ふふ、実は仕事柄体術に自信があるのだ。幽霊相手に体術なんて効かないけどな。
「なんだこのおっさん!? 強え!」
「チッ……! 覚えてろよ!!」
「ひっひっひっ……命拾いしたな……!」
3人のチンピラは去っていった。
「ふう。しっかしこんな白昼堂々と絡みに来るなんて相当だな」
「あ、あの……」
そうだった。女の子のことを忘れていた。俺は改めて女の子を見た。
髪型がツインテールで若干ツリ目の少女だ。歳は……魁斗と同じぐらいだろうか?
「やあごめんね。大丈夫かい?」
「ええ。ありがとうございます……私最近ああいう人達によく絡まれるんです……」
ツインテールの女の子はあまり怯えた様子もない。もしかして絡まれるのに慣れているのだろうか? それは良くないな。
「気をつけるんだよ。何かあってからじゃ遅いからね」
「大丈夫です。私には大切な人がいますから。私のことを守ってくれる」
ツインテールの女の子はどこか遠くを見つめている。
「そうか、それなら安心だな。それじゃあ俺はこれで」
俺は女の子の側から離れ、再び周辺をうろつく作業に戻った。
時折、風香からの連絡を待つが連絡が来ない。ということは、幽霊はこの辺から移動をしていないのだろうか?
そんなことを考えなつつも、何も起こらずに時は過ぎていった。
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