第97話動物編・表その6
さて、これからどうしようか。俺はさっそく難題にぶつかっていた。
俺にはおととい、動物霊のベロスが取り憑いた。そんな状態で初めて学校に向かうわけだが。
(なにをそんなにビビってんだ? そんな怖いのか? その魁斗って奴が)
そう。1番の問題は魁斗だ。魁斗はどういうわけか最近幽霊に詳しい。さらには幽霊がらみの相談を受けて、解決までしているという。
そんな魁斗のことだ。ベロスのことにも気づいてしまうのでは? そう思ってなんだか落ち着かないのだ。
「そりゃあビビるぜ……あいつにバレたら俺どうなるんだ……」
(どうもこうもあるかよ。別にそいつに特別な力があるわけじゃないんだろ? だったらいいじゃねぇかよ)
確かにそれはそうなのだが……そんなこんなであっという間に学校へと着いてしまった。
「お、おい! 土津具がもう学校にいるぞ!!」
「バカな!? 明日は台風でも来るのか!?」
落ち着かないせいか無駄に早く学校に着いてしまった。俺らしくないな。と、そんなことを考えていると。
(お? あいつか?)
ベロスは俺の視線を感じ取ったのか、魁斗の存在に気づいた。魁斗はいつも通りに席へと座った。
俺は深呼吸をした。いつものように声をかけるだけだ。
「よ! 魁斗!!」
「ん? ああ剛か。珍しいな。お前がこんなに早くに学校に来てるなんて」
「あ、ああ! なんか早くに目が覚めちまってな! たまには早く行ってやるかってな!」
「そうかい。あ、そういや今日食堂カツカレーだぞ。食うか?」
「ん? カツカレーか……それはなかなか惹かれるが先客がいるからな! 遠慮しとくぜ!」
「おう、そうか」
いつものように俺は席に戻った。バレて、ない?
(全然平気じゃねーか。なんだあのヘッドホン野郎は。大したことないな)
とにかく魁斗にはベロスのことはバレていないようだ。それがわかって一安心したのか、一気に眠気が襲ってきた。
寝よう。そう思って体を伸ばした時だった。
「ん?」
携帯が鳴っている。電話ではなくメールだ。誰からだろうと思って開いてみる。
『今日は体調が悪いから学校休む。昼ごはんいっしょに食べれなくてごめんね』
と、根井九からのメールだった。
「あいつ……」
やっぱり何かあったのだろうか? 気にはなるが本人が何もないと言っているのだ。あまり詮索するもんではないな。
(お前、その根井九ってやつ気にしすぎじゃねぇか? 好きなのか?)
好き、と言われるとどうなのだろうか。確かに根井九は可愛いと思うしどちらかと言えば好きな部類だと思う。
だけど、どこかまだわからないことが多い。それが怖い。根井九の全てを知らないのが怖い。だから簡単に好きとは断言が出来ない。
ベロスの問いにははっきりと答える事はできず、俺は眠りについていた。
それから根井九はしばらく学校を休んだ。しかしメールをすれば返事も来るし、電話も出来た。話し声を聞く限りでも体調は悪くはなさそうだった。
ただ1つだけ気がかりなことがあるとしたら、なんだかテンションが低いというか……ダルそうな雰囲気を感じた。
それでも俺はいつものように接していた。そして根井九から久しぶりに学校に行くかもしれないと連絡が来た。
「根井九、ほんとに大丈夫なのかね」
7月12日。俺は食堂へと向かっていた。食堂に向かっている理由だが、根井九からの連絡で決めたことだった。
学校には向かっているけど、遅れているとのことだ。だから昼ごはんは食堂で済ませておいて欲しいと言われたのだ。
(心配性だな。そんなに心配か?)
「当たり前だろ」
心配ではあるが学校に向かっているなら会えば済む話だ。そういう意味では後は待つだけだ。
そして俺は以前魁斗が言っていたカツカレーを頼んだ。
(おお! こりゃあうまそうだ! 俺にも食わせろ!)
って、どうやって食べさせろって言うんだ。とにかく俺は一口目をいただく。
「辛っ!!」
とんでもなくというほどではないが、だいぶ辛い。舌がヒリヒリするのがわかる。なんでこんなもの学食に置いているんだ……
(そんなに辛いのか? だったら前のやつみたいにしろよ)
前……? 俺は目の前に座っている人物を見る。そこには1人の女生徒が座っていた。そして食べているものは普通のカレーだ。
しかし問題はそこではない。なんとカレーに
あ、ありえない。いくらなんでもカレーに砂糖はないだろう……
(案外うまいかもよ? やってみろよ)
絶対嫌だ。しかし本当に辛いな。どんどん汗が出てくる。
(はっはっは!! バカだなぁお前は!)
ベロスの笑い声が俺の中に響く。くそー、食わせられるなら是非食わせてやりたいものだ。
(……お? なんだなんだ、こいつは)
と、ベロスが何やら変なことを言い出した。なんだ? と思っていると何やら足音が近づいてくる。俺はそれに気づいて後ろに振り返った。
そこには、
「ね……! て、天理?? ど、どうしたんだ!? その髪とメガネは??」
そこにいた根井九はいつもと違ってツインテールではなく、髪を束ねずにそのままにしていた。しかもボサボサじゃないか。そして何故かメガネを掛けていた。雰囲気が違う。何がどうなってるんだ?
「あー……これね、その……朝支度するのがめんどくさくて……メガネで誤魔化してるんだー」
言われて根井九をよく見てみると、確かに清潔感が欠けているように見えた。一言で言えば寝起きの状態に近く感じた。
(へぇ……なるほど……)
ベロスはベロスで意味深に頷く。どうせ、(なんだ! めっちゃ可愛いじゃねーか! こりゃ心配もするわ!)など思っているんだろう。
「そ、そうか。と、とにかく天理もなんか食えよ。早くしないと昼休み終わっちまうぞ」
「そうだねー。私もそうす……」
根井九は思い足取りで食券を買いに行こうとした時だった。何故か青ざめた顔をして立ち止まってしまった。
「……? 天理?」
根井九は俺を見ていない。視線の先は俺よりも前に向かっていて……
「ご、ごめん!」
「え、ちょっと」
突然、根井九は立ち去ってしまった。
「根井九……? どうしたんだ?」
(ああー、そりゃあれだろ。あいつはーー)
ベロスが何か言おうとした。それとほぼ同時に。
「あなた。あの子と仲がいいの?」
「へ?」
声の主は俺の目の前に座っている砂糖を振りかけていた女生徒だった。
「お友達? それともあなたたちは付き合っているのかしら?」
「は、はぁ!? 付き合ってなんかねーよ! ってかそれがなんだっていうんだよ!」
よく考えれば、根井九はこの女生徒を見ていた気がする。ということは根井九の知り合いなのか……?
「いえ、少し気になったから。それよりも急に怒鳴らないでもらえる? 私こう見えてもか弱い女子なんだから」
「あ、す、すまん」
つい怒鳴ってしまっていた。あんまりこんな風に感情的になることはないんだけどな。
「ところで、あの子はあなたとどういう関係なのかしら?」
「随分と気にするんだな。そういうあんたも根井九の友達か?」
「いいえ。少なくともあの子は私のことを友達だなんて思ってないでしょうね」
なんだろう。複雑な関係なのかな?
「ふーん。俺はまああれだ。そのー、なんというか成り行きで仲良くなったというか……」
龍牙さんに頼まれて相談事を聞くはずが、いつのまにか仲良くなっていたなんて説明は面倒だ。
そういえば龍牙さんとも最近連絡を取っていない。今どうしているのだろうか?
「そう。あの子は思い込みが激しいから気をつけた方がいいわよ。それでも仲良くしてくれるならきっとあの子も喜ぶ」
女生徒は淡々と言葉を告げると、立ち上がってトレーを持った。
「なあ。よくわからないけどさ。あんたは根井九と仲良くは出来ないのか?」
何故かわからないけどそんなことを聞いていた。理由はわからないが、頭の中で想像がついてしまった。2人の関係性というものに。
何があったかはわからないが、2人の仲は現状良くない。しかし少なくとも目の前の女生徒は根井九のことを嫌っている様子はない。むしろ根井九のことを思っているようにも見える。
そんな人が、どうして根井九と仲良くしちゃいけないんだ?
「仲良くなるのは私じゃなくても出来ることよ。今の彼女が必要としているのがあなたということ。それだけ」
「……」
なんだそれは。そんなのおかしいだろ。
「なあ待てよ!」
俺は再び声をかけていた。そんなのはおかしい。それをはっきりと言ってやらねばならない。
だけど、そんなこと言ってどうする? 彼女には彼女なりに何か仲良く出来ない理由があるのかもしれない。それを、何も知らない俺が口出しできることなのか?
「何? もう昼休み終わっちゃうんだけど?」
「あ、ええっと……」
「……?」
「その、砂糖はなんだ!!」
俺は、何を聞いているんだ。女生徒は俺の疑問を察したのかポケットから砂糖を取り出す。
「これ? これはね……」
何故かわからないがこのタイミングで俺は思った。この女生徒。どこかで見たことがあるような……?
そしてそんな俺の疑問も知らずに、女生徒は何故か誇らしげに答えた。
「マイ砂糖よ」
どこかで見たような女生徒は砂糖をポケットにしまうと、そのまま去って行った。
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