第96話動物編・裏その4
俺は1人、とある場所を訪れていた。住宅街から少し離れた所にある屋敷。もうボロボロになっていて人は住んでいない。
「相変わらずボロいな……」
俺は屋敷の中に入ってそうそう呟いた。歩けば床はミシミシと音を立て、そこら中にはネズミがうろついている。
「久しぶりだな、除霊師の息子よ」
そんな屋敷の奥から声がし、主は姿を現わした。網のような服を着ており、ところどころ透けている。そんなおかしな格好をした背の低い女性が現れた。
「いい加減名前を覚えてくれてもいいんじゃないですかね?」
「そうだったな。お主、名前はなんというんだっけか?」
「東吾ですよ」
「ああそうだったな。うむ。久しぶりだな、東吾よ」
女性は小声で名前を呟いた。本当に忘れていたのか。
「そういうあなたは本当に変わらないんですね」
「わしは変わらんよ。それで? ただ再開を喜ぶために会いに来たわけではないだろう?」
目の前の女性……通称、占い師とは過去に何度か会ったことがある。
本名不明の謎が多い人物。俺が小さい頃に会った時と姿が全く変わっていない。どういう仕組みなのか今でもさっぱりわからない。彼女はもしかしたら人ではないかもしれない。
「ええ。怨霊について……聞きたいことがいくつか」
しかし彼女の占い師としての力は本物だ。だがどこかズレていることもある。とはいえ、本質的には当たっているのだ。
「なんだそんなことか。それならお主はもうほとんど知っているではないか。そんなことよりももっと聞き出すべきことがあるのではないか?」
「……」
怨霊の情報は一昨日知り得ている。今出来ることはほとんどない。だから今聞くべき内容は別にあるのだ。
「……動物霊について。知っていることを教えてほしい」
この街で次に対処すべき脅威、動物霊。力をつけられる前に手を打つべきだ。
「動物霊か。わしが知っていることは1つだけだが良いか?」
「1つ? なんですかそれは?」
占い師が知っている1つの情報……それが今後の対策に繋がるのか。
「動物霊は人間と結託している。それだけだ」
「は……? 人間と結託? つまりなんですか。動物霊が取り憑いている人間と協力していると……?」
そんなバカなことがあるか。そもそも取り憑かれた人間は動物霊とコミュニケーションを取ることなんて出来ないし、動物霊も人間とコミュニケーションを取るはずがないのだ。
動物霊とは基本的に成仏が目的だ。だから取り憑いて何か悪さをするようなことは基本ない。つまりコミュニケーションなどそもそも取る必要など無いはずなのに……
「わしの占いにはそう出ている。今後、幽霊と人間が協力するとな。だから常識に囚われるな。この街では予想を遥かに上回る事象がよく発生する」
幽霊と人間が協力する。そんなことが……しかし実際に1人、思い浮かんでいた。
音夜斎賀。彼は怨霊に取り憑かれつつも、平静を保っていた。そして怨霊に協力していた。
今後、音夜のような人物が現れるというのか……?
「では、動物霊も人間と協力していると? やはりそれは怨霊と目的は同じなんですか?」
「さあな」
「さあなって……そこを占ってくださいよ」
「……動物霊にはある目的があると出た」
これだ。占い師の占いは当たるのだが、たまにズレた答えが返ってくる。そのある目的、が知りたいのだがな。
「はぁ……とにかく動物霊も人間と協力して何かを成し遂げようとしている、ということですね。怨霊と同じかどうかは別として」
「わしの占いは当たるぞ。目的があるのは確実だ」
占い師は少し拗ねてるのだろうか。なぜかそっぽを向いてしまった。
「まあまあ。これでも食べてください」
拗ねる占い師に向けて、俺はペロペロキャンディを差し出した。
「……お主。わしを子供扱いするのか?」
「そんなことないですよ?」
「わしがそんなものに惹かれると思うなよ?」
「とかいってさっきから視線がこれに向いてますね」
「……!? ち、違うわい!」
占い師はそそくさと屋敷の奥へと逃げていった。しかし数秒後に戻ってきた。
「……!」
バシッとペロペロキャンディを奪うと再び屋敷の奥へと逃げていった。
「なんだ。やっぱり好きなんじゃないか」
過去に俺の親父が、占い師にキャンディをあげている姿が印象に残っていた。だから同じことをしてみたのだ。
「東吾よ、最後に1ついいことを教えてやろう」
屋敷の奥から声がする。姿は見えないがすぐそこにいるのはわかる。
「今回のキーとなるのは
キーはイヌ、それを伝えてさらに奥へと進んでいく足音が聞こえた。
先ほども言ったがここには人は住んでいない。しかし彼女はここで生活していることもあるという。こんな場所でどうやって過ごしているというのだろうか? と、疑問に思う。
「犬、か」
おそらくそれは動物の犬ではなく、幽霊である動物霊の犬のことだろう。それが今回風香が発見した動物霊2匹のうちの1匹なのだろう。
占い師の足音は聞こえなくなり、完全に姿を消してしまった。俺もここに残る意味はない。
屋敷を出てすぐに携帯を取り出し、電話をした。
『むーなんですか師匠。今良いところなのにー』
相手は風香だ。電話越しからでも聞こえるぐらいには周りが騒がしい。
「なんだ、取り込み中か? かけ直そうか?」
『いえいえ。一回ここで冷静になります!』
「……? なんだお前どこにいるんだ?」
ガヤガヤと音がうるさい。人の声というより電子音のようなものだ。
『ゲーセンですよ。今クレーンゲームをしてたんです! 可愛いぬいぐるみがあったから絶賛挑戦中です! しかしこの子は私に取られたくないのかなかなか厄介なんです! もう3000円も使っちゃいました!』
「おお……それはなんという……確かに一回冷静になれ」
ゲーセンか。それならこの騒音も納得できる。
『それで? 昨日言ってた人に会えたんですか?』
「ああ。話を聞いてわかったんだが、動物霊の1匹の正体はおそらく犬だ」
実際のところはわからないが、占い師が嘘をつく理由もない。それにあの場面で犬がキーと言われて動物霊以外に何があるというのだ。
『ふーん。犬ですか』
「ああ。それから幽霊と人間が協力している可能性もあるらしい。だから人間の方にも気をつけるんだ」
人間側も幽霊という存在を受け入れているということは、人間も危険な人物である可能性が高い。やはりどうしても音夜斎賀のような人物を思い浮かべてしまう。
『わかりましたー。私も私で色々調べてみますねー』
「ところで話は変わるんだが、魁斗の方はどうなってる?」
『いやいや、今日日曜ですよ? 何か仕掛けるにしても明日以降ですよー』
あ、そうだった。動物霊に意識を向けなければならないが、魁斗のことも気がかりだ。怨霊の存在には出来れば気づいて欲しくない。
「そうだったな。何か考えはあるのか?」
『そーですねぇ……とりあえず手始めに浮遊霊とか使ってみますかねー』
浮遊霊か、それなら安心だ。浮遊霊は人に取り憑いて、生前と同じような行動をしてしまう。
しかし考え方を変えれば、浮遊霊の目的はそれだけだ。人を傷つけるようなことはしないはずだ。
「そうか。風香も気をつけてくれ」
俺は通話を終え、屋敷の外を歩き始めた。これからやるべきことはたくさんある。
怨霊は一旦置いておくとして、まずは動物霊だ。動物霊をなんとかする。今は微力でも、今後脅威になる存在は祓わねばならない。
「さてと。仕事始めるか」
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