第67話怨霊編・裏その2

 風香さんと話していてまず最初に浮かんだ感想。それは。


「ところで風香さんはなぜ夏休みなのに制服を?」


「私の私服姿は何人たりにも見せてはいけないものなのよ!」


「へぇ〜」


「ってその話は置いておいて……!」


 話が逸れてしまった。純粋に気になったから聞いてみただけだったのに。


「私に協力してほしいことがあると」


「そ。まずそうだね……姫蓮ちゃんは怨霊って知ってる?」


 怨霊。幽霊の一種だと考える。あまり詳しくはないけど、なんとなくは知っている。いわゆる悪霊というものだと。


「この街にはずっと昔から彷徨ってる怨霊がいるんだ。私たちはそれを『初代怨霊』と呼んでるんだけどね。その怨霊が今になって活動を始めたの」


「なんだかピンとこない話ですね。どうしてそんな昔から彷徨っていた怨霊が今になって動き出したんでしょう?」


「それはね……姫蓮ちゃん。いや、怨霊の狙いがだからだよ」


 え??


「詳しいことはわからない。だけどそれがもし。不死身の幽霊と関係しているとしたら?」


 それなら納得はいく。私が不死身の幽霊に取り憑かれたのはつい最近の話だ。それにつられて怨霊が動き出したとすれば……


「怨霊のことはわかりました。それで? 具体的にどうするんですか?」


「まず最初に言っておくと、これから関わる怨霊は初代怨霊ではない。初代怨霊から分離した別の怨霊って思ってくれればいいよ。それでその怨霊を明日除霊しに行く。それに協力してほしいんだ」


 初代怨霊とは別の存在を先に除霊するらしい。それほど初代怨霊とは厄介な存在なのだろう。


「協力はしますよ」


「ありがとー! さすが姫蓮ちゃんだね。それじゃあ具体的にお話しようか」


 風香さんは嬉しそうな表情をした。


「まず今回のターゲットは怨霊……とりあえず怨霊αと呼称しようか。その怨霊αが何者かに取り憑いた。その人物は万邦ばんぼうという人間。わかってるのはそれだけ。性別も不明だし下の名前も不明。とにかく怨霊αは万邦に取り憑いて何かを企んでるらしい。それを私たちで阻止する。それが今回の目的だね」


「えっと、わからないことが1つ。怨霊に取り憑かれた人は正気を保てないんじゃないんですか?」


 これは以前に怪奇谷君から聞いた話だ。基本的には幽霊に取り憑かれた人間は正気を保てない。そしてその幽霊が活動するのは夜だけだと。


「そうだね。怨霊に限らず幽霊に取り憑かれたら基本は正気を保てないね。要は乗っ取られているわけだから。でも特殊な体質な人もいるんだよ。取り憑かれていても平気な人がね。姫蓮ちゃんだってもしかしたらそうかもしれないんだからね」


 そうだ。現に私も不死身の幽霊に取り憑かれている身だ。でも私は気を失ったこともなければ乗っ取られたこともない。


「そしてもう1つ。この街は特殊だって話はもう知ってるよね? この街の怨霊は強力なんだ。だから活動につまり昼だろうが夜だろうが好き勝手にできるってわけ」


 それはこの街、来遊市がおかしいのか。それともそれほど強力な力を手に入れた怨霊がおかしいのか。


「つまり、怨霊に取り憑かれた人は倒れるか、正気を保つかの二択というわけですね?」


「まあそんなところだね。正確には取り憑かれた瞬間にすぐ倒れるってわけではないんだけど……まあその辺りはいっかー」


 それは重要じゃないのかな? とか考えたけどまあ私としても一気に情報を得ても仕方がないことだからよしとしよう。


「それでさっきも言ったけど、怨霊の狙いは姫蓮ちゃんなわけ。だから姫蓮ちゃんと行動を共にすることでおびき出そうって作戦なんだ」


 要は囮……とも捉えられるかな。まあ私は今は不死身だから全然構わないけれど。


「私は怪奇谷君と違って特殊能力はないですよ? それで大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫! だから除霊師の私が退治するから! まあまだ見習いだから自信はそこまでないんだけどね」


「見習い? だったらプロの人に頼めばいいんじゃないですか?」


「そうもいかないんだよね〜。師匠は師匠で別の怨霊を追ってるからさ。だから私が追う怨霊αはそこまで強力な存在ではないんだよね。と、いっても油断は禁物ですよー。怨霊であることには変わらないからね」


 そんなに今この街では怨霊が活動しているのだろうか。


「それからこれは魁斗君には他言無用だからね」


 私としてはその問題が1番気になっていた。


「私も気になってることがあります。どうして怪奇谷君を頼らなかったんですか? 彼は幽霊にも詳しいし、特殊能力だってあります。彼ほど頼れる存在はないと思うんですが……」


「ふーん……」


 風香さんがなぜかニヤニヤしだす。なんだろう。私は何か変なことでも……


「姫蓮ちゃん。そんなに魁斗君のこと信用してるんだね〜。いやぁいいねぇ〜」


「……!!」


 言われて気づいた。私、今怪奇谷君のことを無意識に褒めていた……?


「なになに〜赤くしちゃって〜。恥ずかしがることはないんだよ? そうだよね、魁斗君は頼れるパートナーだもんね」


「ば、バカなこと言わないでください!! あ、あんなお姉さんをいやらしい目で見るような変態な顔してる人がパートナーなわけなかろう!!」


「そうか。魁斗君は姉好きなのか……」


 なぜかうんうんと頷く風香さん。とにかく話を戻そう。


「冗談は抜きで……どうして怪奇谷君を頼らなかったんですか?」


 というかそもそもこの人は怪奇谷君のこと魁斗君とか言ってるけど、知り合いなのだろうか?


「そうだね。はっきり言うと怨霊は魁斗君の手に余る存在なんだ。それは師匠からも言われてることでね。だから魁斗君と怨霊を関わらせてはいけない。だからこうして姫蓮ちゃんに頼んでるんだ」


 なんだかはっきりとしない。なぜ怨霊が怪奇谷君の手に余るのか。

 しかし現に怪奇谷君の頼りになってばかりというのも気が引ける。たまには怪奇谷君なしでも事件を解決したっていいじゃない。


「わかりました。このことは怪奇谷君には他言無用で」


「おっけい! それじゃあ姫蓮ちゃん。何か他に質問はあるかな?」


 風香さんはグッと指を立てた。


「そうですね……万が一怪奇谷君が気づいてしまうという可能性は考えなくていいんですか?」


「ああそれなら大丈夫だよ。魁斗君には別の課題を与えておくから。ちょうどいい案件があるんだ」


「課題って……つまり怪奇谷君には別の問題を解決させるってことですか?」


「そうそう。それは怨霊とは無関係だから安心してね。私が明日相談者として『幽霊相談所』に行くから。姫蓮ちゃんは適当に理由つけて欠席してね」


 そういうことか……私は適当に理由をつけて休まなければいけないんだ。家族と出かけるとでも言っておこう。


「それじゃあ姫蓮ちゃん。明日の夜10時に……このあたりにある工業地帯に集合ね。あ、連絡先交換しないとね」


 風香さんは携帯の地図を見せてきた。街のはずれにある工業地帯だ。


「わかりました。最後に1つだけいいですか?」


 連絡先を交換して満足そうな表情をしている風香さんに向かって私は言った。


「もし、私が断っていたら。あなたはどうしていたんですか?」


 風香さんは笑って答えた。


「姫蓮ちゃんは断らないってわかってたもん。だって、使


 一瞬、ゾワっとした。言っていることは間違っていない。私が断れば仕方なく怪奇谷君を頼るしかないと言っているんだ。もちろんそんな風に言われれば私は断るわけない。なのだが。

 どうしてそれをこの人は、こんなに笑顔で言えるのだろう?

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