怨霊編・裏

第66話怨霊編・裏その1

 どうも皆さん。初めまして。私は富士見姫蓮と申します。残念ながら今日はいつもドヤ顔で自分語りをしている怪奇谷君は出てきません。そのかわり、超絶美少女の私が語らさせてもらいます。

 なぜ? と、疑問に思う人もいるでしょう。今回、最後は智奈の生霊に全てを持っていかれましたが、本来だったら怨霊という敵がいてそれに対して対策を行っていたわけですが。その説明を怪奇谷君にはしていませんでしたしね。

 そこで、私と風香さんがどのようにして今回の計画を立てたのか、その経緯を話そうと思います。

 怪奇谷君? ちゃんと聞いておかないと後でお仕置きだからね? それでは……

 事件の裏側で起きていたことを話しましょう。


 8月4日。夏休みで皆が自由に過ごしている中、私は本屋に来ていた。理由は単純。『ホッパーマン 怪獣写真集』これが目的だった。

 ポルターガイスト事件も無事に解決し、怪奇谷君も姉妹と和解できたようで私としてもホッとしている。

 最初に恵子さんから話を聞いた時は正直驚いた。まさかあの怪奇谷君にこんな可愛らしい妹がいたなんて……さらには素晴らしい姉まで。

 そんなことを考えながらも私は目的の雑誌を手に持ち、レジへと向かう。会計を済まし、店を後にした。


「喉乾いたなぁ」


 ここで怪奇谷君ならGエナジーを飲むのだろう。でも私も彼と同じ行動を取るのはなんか癪だ。


「そういえば、近くに新しく喫茶店ができたんだっけ」


 しかもその喫茶店はホッパーマンとのコラボをしているらしい。よし、そこに行こう。そう考えて向かう先を変えた時だった。


「やあ! 君が富士見姫蓮ちゃんかな?」


 突然、女の人から声をかけられた。髪は長く、私と同じ場芳賀高の制服を着ていた。(今の私は私服だけど)同性の私から見てもかなりの美人だ。そんな人がなぜ私の名前を?


「……そうですけど。あなたは誰ですか? 私に何か用でもあるんですか?」


 正直いきなり知らない人にフルネームで名前を知られていて、声をかけられるというのはいい気分ではない。

 だから私はあえて露骨に嫌そうな態度をとった。


「私? 私は可愛いあなたの先輩だよー!」


 なんだろうこの人。ちょっと苦手かもしれない。


「それじゃあ可愛い先輩。あなたはなぜ私の名前を知ってるんですか?」


「そりゃあ『幽霊相談所』のサイトを見たからね。名前ぐらい知ってるよ? 姫蓮ちゃん」


 む。確かにそれなら納得はいく。今度智奈に本名を載せるのはやめるように言っておくべきかもしれない。


「それで? 私になんのようですか? 可愛い先輩?」


「姫蓮ちゃんさー。私にはちゃんと名前があるんだから名前で呼んでくれないとさー」


 だったらまず名乗るべきでは? と思ったがあえてスルー。


「……」


「……」


「っていや! そこは名前を聞くところでしょ!?」


 沈黙に耐えれなくなったのか、可愛い先輩(自称)は自ら言葉を発した。


「そうですね。では、あなたの名前は?」


 なぜか嬉しそうにドヤ顔をする可愛い先輩。


「私は安堂風香! よろしくね!」


「はぁ、よろしくお願いします。安堂先輩」


「……」


「なぜそこで露骨に嫌そうな表情をするんですか?」


「いやぁ。私的には名前で呼んでほしいかなって〜」


 めんどくさい人だなぁ、と思うけど。私が普段怪奇谷君に対してやってる態度も似たようなものか。


「それじゃあよろしくお願いします。安風先輩」


「あっ、あんふう!? き、姫蓮ちゃん……それは新しすぎないかな??」


 私の予想外の発言にあたふたしだす安風先輩。いじるのもこの辺りにしておこうかな。


「よろしくお願いします。風香さん」


「それ!! それよ!! いいねぇ……先輩ってつけないところがいい味だねぇ」


 つい先輩を外してしまった。まあ先輩呼びは私としてもあまり好きではないからいいか。


「それで? 私になんのようなんですか? もしかして相談者ですか?」


 解決するのは怪奇谷君だけど、依頼を受けるのは私ということも多かったりする。

 そこで私なりにその依頼を受けるか受けないかを判断もしたりしている。


「まあそんなところだね。とりあえずあそこ行こっか?」


 風香さんは近くのファミレスを指差した。喫茶店に行きたかったのに……まあまた今度にしよう。


「いいですけど私金欠なので。奢ってくれるなら行きますよ?」


「姫蓮ちゃん……さっそく後輩という立場を利用しだした……!?」


 風香さん驚きながらも、私を連れてファミレスに入った。


「さて……それじゃあまずこれから話そうかな」


 風香さんは注文を終えると、私の目を真っ直ぐに見て話そうとした。


「あ、その前にドリンクバーを」


「……姫蓮ちゃん」


「風香さんは何がいいですか? 取ってきますよ」


「……リンゴジュース」


 私はドリンクバーに向かった。風香さんがしょぼんとしているのはすぐにわかったが……まあいいかな。


「はい、どうぞ」


 私は自分用にオレンジジュース。風香さん用にリンゴジュースを持ってきた。


「ありがと。さて、それじゃあ気を取り直して」


 さて、風香さんは何を話すのかな? まあこんなふざけた人だし大したことは話さないだろう。適当に流しておけば大丈夫かな。


「私、除霊師なんだ」


 え? 今、この人はなんて言った?


「あれ、わからない? 除霊師だよ除霊師。聞いたことないかな?」


 いやいや。そりゃ私だって幽霊がらみの話はまだ詳しくはない。だけどそれぐらい聞いたことはある。

 除霊師とは幽霊を祓う存在。それがこの人だっていうの……?


「いや、ちょっと理解が追いつかなくて」


 そもそも適当なことを言うと勝手に決めつけていた私も悪いのだけど、こんなことを言われるとは思いもしなかった。


「あははー。それはそうだよね。私も姫蓮ちゃんがいきなり、なんて言っても信じないもん」


 え? この人また何かおかしなことを言った??


「なんで、それを?」


 私はおそるおそる聞いた。もしかするとこの人は不死身の幽霊について知っている?


「ごめんね。ちょっと調べさせてもらったんだ。その上で姫蓮ちゃんにお願いがあるんだ」


「お願い、ですか……?」


「うん。これは姫蓮ちゃんにとっても嫌な話にはならないと思うんだ。それに何より」


 風香さんは一拍おいて口を開いた。



 この時点ではまだこの先のことは予想できていなかった。でも、きっと私はこの時点でこの人に協力すると決めていたのだろう。

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