第45話ティーチャー編その11
ティーチャー編その11
2人の幽霊に見守られながら同志先生は夢について語り出した。
「私の夢はね。女優になることなんだ」
先生の言葉を真剣に受け止める智奈。
「じゃあなんで先生やってアイドルやってるんだって話になるわよね。先生は、正直つなぎ感覚なんだ。たまたま先生になれる資格があったからなった、みたいな」
さらっとすごいことを言ってるぞ、この人。
「アイドルはね、さっきも言った通りで出発点なんだ。有名になって、テレビとかにも出れるようになって。そしたらいつか女優として活躍できる日が来るかもしれないから……」
アイドルになることが目標なのではなく、その先の女優を目指していたのか。
「実は今もね。オーディションを受けているんだ。ただアイドル活動しているだけじゃダメだからね」
素直に驚いた。この人は実質3つのことを同時にやろうとしているのだ。
「まあでもそうね……新しいバイトでも探そうかな」
「え、どうしてですか……?」
智奈の疑問に対し、同志先生は残念そうに俺たちを見る。
「だって、貴方達に知られちゃったから……」
同志先生は俺たちに知られたことで、教師として仕事をすることが出来ないと思ったのだろう。
「知られちゃった以上、私は教師としてやっていけないでしょ。だから何か新しい……」
「だ、大丈夫です!!」
智奈がまた一段と大きな声を上げる。
「私も、魁斗先輩も誰にも言いません……絶対に誰にも言いませんから……だから、辞めないでください……」
「生田さん……」
智奈がこんなに積極的に意見するなんて……珍しいこともあるもんだな。
「やっぱこのガキ。ドラコのこと気に入ってんだな」
「まあ授業中も真剣に聴いてますしね」
2人の指導霊が言う。この2人の声は智奈には聞こえていないからあれだが、聞こえていたら絶対恥ずかしがっているだろうな。
「魁斗先輩。誰にも、言いませんよね……?」
智奈が俺の目を強い視線で見て言う。ここまで言わせておいて、NOとは言えないだろう。
「ああ。俺も言わない」
それに、この人については調べる必要がありそうだしな。指導霊のことや、指導霊が見えることについて。近くにいるなら尚のこと調べやすいだろう。
「貴方達……」
同志先生は意外に思ったのか、複雑そうな表情をする。
「ありがとう。でも、気をつけてね。あんまり人に優しくしすぎちゃ……ダメだから」
そう言って、食器を片付ける同志先生。それを見て智奈も手伝いに行った。
「今の言葉、どういうことなんだろう?」
冬峰が首をかしげる。
「なにがだ?」
「人に優しくしすぎちゃダメって。人に優しくしてなにが悪いのかなって……」
それは、人それぞれだろう。あまり深く干渉することでもない。
「なに? なんの話?」
戻ってきた同志先生に追求される。
「いや、なんでもないですよー」
俺は笑って誤魔化す。
「……? そう。ところでなんだけど。貴方達これからどうやって帰るつもり?」
現在時刻は深夜0時。今から駅に向かって歩いても終電には間に合わない時間だった。
「仕方ないか……どっか泊まれるとこ探すしか……」
「ま、待ちなさい!!」
そこで声を荒げる同志先生。
「な、なんですか?」
「と、泊まるってあなたと生田さん……そして冬峰さんも?? あ、危ないわ! 年頃の男の子と女の子が同じ部屋で一晩過ごすなんて……しかも男の子1人に対して女の子は2人……だ、ダメよ!! そんな、はしたない!!」
「魁斗お兄さん。先生さんどうしたのかな?」
「冬峰。とりあえずお前は聞かないほうがいい」
俺はそう言って冬峰の耳を塞ぐ。
「仕方ないわね。貴方達、今日はウチに泊まりなさい。これは教師として見過ごせないことだから!」
と、いうこともあり。俺たちは同志家に泊まることとなった。
「ふぅー、さっぱりしたー」
同志家に泊まることとなった俺たちは、順番に風呂に入らせてもらった。
最初は俺。次に智奈、冬峰、同志先生という順番だった。先に上がった俺たちはトランプをして遊んでいた。そして風呂から上がった同志先生がパジャマ姿で現れた。
「ほう……」
なぜか冬峰が目を輝かせている。俺は冬峰が何か言う前に発言した。
「同志先生って、確か20代前半でしたよね?」
「前半って……まあ、その方がアイドルとしては都合がいいか」
「魁斗先輩。同志先生は24歳です……」
「生田さん……」
24歳の同志先生。俺はそれでもあえて質問してみた。
「先生。その格好は、子供っぽいのでは?」
パジャマはピンクの花柄だった。20代が着るような服ではなかった。
「なっ……そ、そんなことないわよ! こ、これは私にピッタリなの!」
顔を赤らめつつもそう反論する。
「ほら言ったじゃん。辰巳はいい加減にそういう子供っぽいものから卒業しなよ。いつか男が出来た時に困るよ?」
「ば、バカ言わないで! っていうか生徒の前でそういうこと言わないで!」
さらに顔を赤らめる同志先生。それを見て智奈は首をかしげる。冬峰はというと。
「ほほう。同志先生さん、フリーなんですね!」
「なっ……あ、アイドルに彼氏なんていたらダメだからね! し、仕方なくよ! つ、作ろうと思えばいつでも作れるんだから!」
ああ、こりゃ同志先生のイメージはだいぶ崩れたな。こっちが本当の同志先生の姿で、学校では無理してキャラを作っているんだろう。
「ったく。嬢ちゃん、悪いな。ドラコは彼氏は作らない主義なんだ。わかってやってくれ」
オジサンが冬峰にそう言った。冬峰はニヤニヤしつつも返事をする。
「はぁ、それじゃあみんな。明日早いからもう寝るわよ」
同志先生がそれぞれに寝場所を指定する。リビングの隣に居間がある。そこに智奈と冬峰。リビングのソファーで同志先生。そしてリビングの床に布団を敷いて俺が寝るといった感じだ。
ちなみに、俺と同志先生が同じ部屋で問題ないのか聞いてみたところ。
『女の子2人に手を出されるよりは自分の方がマシ』
とのことだ。それもそれでどうかと思うのだが。
「明日、何かあるんですか?」
「うん。明日はオーディションなんだ」
さっき言っていたオーディションだ。そういうことならさっさと寝てしまおうか。電気を消し、それぞれ就寝に就こうとした。
「ねえ、怪奇谷君」
眠りにつけそうなころ、同志先生から声をかけられた。
「なんですか?」
「怪奇谷君って、生田さんと付き合ってるの?」
そういう風に見えてしまったかもしれない。だがその事実はしっかりと否定しておかないといけない。
「違いますよ。そんなんじゃないです」
居間の扉は閉まっているが、声は聞こえているだろう。智奈が寝ていようが、起きていようが、中途半端なことは言えない。
「そう。でも、仲はいいんでしょ?」
「ええ、まあ。俺よりももっと仲いい奴いますけどね」
富士見のことを思い浮かべた。富士見は俺よりもずっと智奈と仲がいいんだからな。
「そう、よかった。……生田さんね。クラスであんまり友達いないみたいで……学校、楽しんでるか心配だったんだ。でも、怪奇谷君みたいな人が知り合いなら安心だね」
そうだったのか。俺は『幽霊相談所』での智奈しか知らない。クラスでどのように過ごしているのかもだ。
「先生は、智奈に何かしてあげたんですか?」
「別に特別何かしたわけじゃないわよ。ただ空いてる時間に話しかけたり、本を貸したりとかはしたかな」
智奈が同志先生にこだわっていたのは、同志先生とのやり取りがあったからなんだろう。
「……」
「……」
なんだか、眠れない。
「あの、先生」
「なに?」
「先生ってメガネかけてますよね」
「それがどうかしたの?」
「先生ってエロいんですか?」
「……!」
あれ、俺は何を聞いているんだ。
「だ、ダメよ。あなたは生徒で私は教師でありアイドル。そ、そんな……いくらなんでも……」
なんか、誤解されている気がする。そんなアホな質問は放っておいて今度こそ眠ってしまおう。
「……と、いうこと」
「……へぇ、そんなことが……」
と、思っていたのになんだ。何か声が聞こえる。俺はそっと目を開け、時刻を確認する。夜中の3時。もうみんな寝ている時間だ。だというのに誰が喋っている。
「……これでわかった? 今度はアタシから質問させてもらうよ」
「なかなか興味深いね。記憶のない付喪神か……オジサン、何かわかった?」
「いやぁ。俺もそんなの知らねえな」
どうやらヘッドホンと指導霊2人が会話しているようだ。俺は目をつぶりながらも3人の会話に意識を向ける。
「それで? 君の質問ってのは?」
「単純なことだ。あんた達の『力』が知りたいんだ。他の奴らには聞かれたくないだろ?」
ヘッドホンは何の話をしているんだ? 『力』。なんのことだ?
「ああ。そういうことか。確かに他の人には聞かれたくないなー。でも君なら同族だし大丈夫か」
「そうか? こいつ、あのボウズにバラしたりしねぇか?」
「しないわよ。アタシこう見えても口は堅いんだけど」
あいつ、口堅かったのか。
「まあ、そういうことなら君を信用していうけど。それに、君は辰巳には話しかけられないからねー。さて、僕が憑くことによって得られる力は『料理』だね」
「料理……? つまり、あんたが憑いたことでこの女は料理が上手くなったってこと?」
「そういうことだね。僕は生前はプロの料理人だったんだ」
この会話で俺は指導霊の特性を1つ思い出した。指導霊に取り憑かれた人間は、その指導霊によって様々な能力の上達が得られるというのだ。
例えばある指導霊が生前、プロ野球選手だったとする。その指導霊に憑かれた人間は野球が上手くなるという。
この場合、同志先生はプロの料理人であるボクに取り憑かれたことで、料理が上達したということになる。
「なるほどね。で、それをあの女は知っているの?」
そしてもう1つ。指導霊にはあるルールがあった。
「それは言えない決まりなんだよ。僕がそれを辰巳に言ってしまったら、辰巳は簡単にプロの料理人になることが出来てしまう。それは僕達指導霊の目的ではないからね」
指導霊は自分が憑くことによって得られる力を本人に伝えられないということだ。
指導霊の役目はあくまで指導することだ。それを伝えてしまうことは指導ではない。むしろ楽をさせてしまうということになる。
それは本人にだけではなく、他人に伝えることもしてはいけないことだ。ヘッドホンに伝えたのは、ヘッドホンが同志先生に話しかけることができないからだろう。
もっとも、本来であれば本人に伝えることなんて出来るはずもないのだが。
「ま、辰巳はきっと僕達の能力のことを伝えても女優を目指すんだろうけどね」
「で? あんたは『アイドル』の能力? それとも『先生』?」
ヘッドホンはオジサンに向かって言う。
「悪いがそのどちらでもない。なんなら俺がつくことで得られる能力は今後の役には全くたたないだろうな」
「へぇ、どんなの? 『彼氏が出来ない』とかいう能力だったり?」
それは、とんでもないぐらいに嫌だな。
「違うな。俺の場合、『ガンマン』だよ。こう見えても俺は生前、現代のビリー・ザ・キッドって言われてたぐらいなんだぜ?」
ガンマンか。確かに、役には立ちそうもない力だ。だがそうなると、同志先生には『先生』、『アイドル』、『女優』といった能力は無いということになってしまう。
「それじゃあ、その人には先生の才能も、アイドルの才能も無いってことになるわけか」
ヘッドホンの言う通り……とまではいかないが、その通りなのかもしれない。
「さあな。そいつは本人の努力次第だ。それに、ドラコならやるさ」
「あんたら2人とも随分と高く買ってるんだな。さすが指導霊ってだけはあるな〜」
「それは僕たちは辰巳の過去を知ってますから」
過去。同志先生の過去に何かあったのか?
「ヘッドホンさん。辰巳がなんで女優目指してるかわかりますか?」
「知らないね」
「辰巳の母親、女優だったんですよ。それに憧れてるんです」
それは知らなかった。それなりに有名な女優なのだろうか?
「へぇ、なんていう人なんだ?」
「rayって名前で活動していたみたいです」
え? 待て待て。その名前、聞いたことあるぞ。確か冬峰が言っていたカッコいい人じゃないか。
「あ、確かふゆみんが言ってた人か。てことは昔の人なのか〜」
ヘッドホンよ。いつから冬峰のことをふゆみんと言うようになったのだ。
「彼女ですね。どうやらそっちにも色々事情があるみたいですし、詳しくは聞きませんけど。……その通りです。それから……もうrayという人物はいないんです」
それは、どういう。
「辰巳の両親は2人とももうこの世にはいないんです」
ボクから語られる事実。それは淡々と告げられた。
「2人ともそれぞれ事故で死んでしまったんです。辰巳が幼いころに。そして辰巳は幼いころに約束をしたんですよ。将来、カッコいい女優になるって」
同志先生の両親は事故で死んだ。この家も一軒家だが、やけに広いと思ったら当時は3人で暮らしていたんだ。
「その話を聞いた時は僕の力が『料理』じゃなくて『女優』だったらいいのにって何度も思いましたよ」
悔しそうに語るボク。
「そりゃあ違うな。それじゃあドラコの努力じゃない。俺たちはむしろこんな力でよかったんだよ」
オジサンはボクとは別の考えを持っているようだ。
「そうですね。僕たちは指導霊ですもんね」
ヘッドホンは納得したのかしてないのかわからないが、声を出さなくなった。2人もそれからは何も語らなかった。
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