第46話ティーチャー編その12
ティーチャー編その12
昨日の会話が蘇る。ヘッドホンと指導霊の2人。本来なら俺は聞いてはいけない話だった。だが聞こえてしまった以上、考えないわけにはいかなかった。
「魁斗先輩! 起きてますか……?」
いい匂いがする。焼き魚……だろうか? 食欲がそそられるが、昨日寝れなかったぶん眠気も強い。
「お、起きて下さーい……ど、どうしよう……」
「ふふふ。起きないなら……こうだー!!」
と、突然顔面に重いものがのしかかってきた。な、なんだ! どういう状況だ!
「ぐ、ぐるし……!」
「はっはっはー! これぞ、抱きつき大作戦! さあ! 起きて!!」
なに? 今俺は抱きつかれているのか? 視界が埋もれているので前は見えない。だとすればこの目の前にあるのは。
「や、やばいやばい!! ふ、冬峰!! 離れろー!!」
「お、起きましたねー。おはようございますー」
し、死ぬかと思った。色々な意味で。
「お、おはようございます……魁斗先輩……」
「あ、ああ。おはよう」
とにかく一旦落ち着こう。俺は顔を洗おうと洗面所へと向かう。途中、同志先生の姿が見えないことに気づく。これは、まさか。
「あれだな。洗面所に行ったら朝シャワーを浴びていた同志先生が絶賛髪を乾かしている最中というパターンッ!!」
と、思い俺はそれを避けるためにリビングへと戻る。
「あれ、早いですね」
「ああ。展開的にはラッキースケベで美味しいはずなんだけどな。俺は紳士だからな」
「……? ちょっと何言ってるのかわからないですけど、同志先生さんならもう出かけましたよ?」
「え?」
なんだ、もう出た後だったか。それじゃあこの朝食は一体誰が?
「あ、私が作りました……先生に好きに使っていいって言われたので……」
なんと家庭的な子なんだ。THE朝食といったラインナップでとても美味しそう。これは同志先生にも負けてないのでは。
「それじゃあ、いただきます」
俺と冬峰は智奈の作った朝食を頂く。
「お、うまいぞこれ」
「ほんとですね! さすが智奈お姉ちゃん!」
智奈は照れているのか、俯いている。
「そうだ、智奈。同志先生、なんか言ってたか?」
俺は同志先生の行動を一応把握しておこうと思った。
「え……そうですね……午前中はオーディションだそうです……結果次第では午後もそのまま、みたいです……」
「ふーん」
俺は時刻を確認した。現在午前9時。オーディションは10時からとのこと。確か会場までは駅の近くからバスで向かうと言っていた気がする。
「俺たちも行くか?」
「え、いいのでしょうか……?」
「ここにいても仕方ないしな。会場の外で待機してようぜ」
まあ、見ることはできないだろうから結果を待つ形になるのだろうけど。
「あ、そうだ! そろそろホッパーマンの時間ですね!」
冬峰はそう言ってテレビの電源をつける。俺もなんとなく携帯に目を向ける。すると、二件のメールが届いていることに気づく。
「ん?」
宛先は……
『風香です☆』
風香先輩だった。現状報告をしろということだろう。仕方ない。一応文面を見てやろう。
『おはよー!
昨日はちゃんと眠れたかな? よしよし。
それじゃあ本題!
同志先生のこと、わかったかな? わかったら教えてほしいなー
それからもう一つ』
「ん……?」
なんだ? ここでメールは終わっている。
「あれ、ホッパーマン今日やってないんですかー」
「臨時ニュース……みたいですね……」
俺はそのまま二件目のメールを確認する。
「えっと……なんですか? これ? 爆弾??」
「そ、そんな……こ、このバス……」
『今朝、魁斗君達がいる繁華街を通っているバスに爆弾が仕掛けられたみたい。一応、気をつけてね』
そんな現実みを感じさせないような文章がメールには書かれていた。
俺は走った。あれからすぐに家を飛び出して来た。智奈に聞いたところ、同志先生が家を出たのは俺が目を覚ます10分前だったらしい。ここからバス停がある繁華街までは20分ほど歩かないとつけない。
「ちょっとアンタ! 間に合うのかよ⁉︎」
「間に合わせる! クソ、こんなことなら連絡先交換しとけばよかったよ!」
同志先生への連絡手段はない。だからニュースを見て気づいてくれていることを祈るしかない。
「だいたいさ! まず先生が乗るバスに必ずしも仕掛けられてるとは限らないだろ!」
「そうだな! だけど、もし仕掛けられてたら? つまりそういうことだよ!」
とにかく俺は走った。仕掛けられていようが、仕掛けられていまいが、可能性のことを考えれば乗せるわけにはいかない。
そもそも、報道されているのだからバスは止まっているのではないか? そうも考えた。
しかし智奈が調べた情報によれば、バス会社にはどういうわけか連絡がつかずに、通常通りに運行しているらしいのだ。誰かが通信を遮断した可能性もある。
つまり、今危ないのは現在乗っている人。そして情報を知らないこれから乗ろうとしている人ということになる。
そんなことを考えながら走ってる中、電話がかかってきた。
『やっほー魁斗君。……その様子だとなにかあったね?』
風香先輩だった。俺は走りながら現状を説明した。
『そっか。……いい? よく聞いて魁斗君。仕掛けられた爆弾は合計5つ。その内の2つがどこかのバスに仕掛けられてある。他の3つは別のところだから安心して』
「ふ、2つがバスに……⁉︎ ってなんでそんなことわかるんですか⁉︎」
『私の情報源を舐めないでほしいな! とにかく! バスには乗らないで! そうすれば爆発はしないから』
「なにを根拠にそんなこと!」
『いいから! 可愛い先輩を信じなさい。とにかく魁斗君は同志先生をバスに乗せないこと! いい? 絶対だから!』
そう言って風香先輩は電話を切った。
「おい……あの女なにか知ってそうな雰囲気だったぞ?」
「ああ。聞きたいことは終わってから聞くさ……!」
確かになぜ風香先輩がそんな細かい状況まで知っているのかはわからない。でも今はそれより先に片付けなければならないことがある。
「み、見えた!」
バス停だ。ギリギリ間に合った。
「同志先生は……⁉︎」
俺はバス停で待っている人を探す。先頭に同志先生の姿が。それと同時に、バスが到着する。
「……! 同志先生!!」
俺は叫ぶ、もし乗ってしまったら手遅れだ。しかし俺の予想は大きく外れた。
道路。正確には横断歩道だ。よく見ると、横断歩道に1人の子供が倒れている。信号は赤だが、横断歩道の信号は点滅し始めていた。
同志先生はその子供を助けに走っていったのだ。俺も後を追い、同志先生の元にたどり着く。
「怪奇谷君?? どうしてこんなところに?」
同志先生は子供を前に抱き抱えながら驚いた。
「せ、先生! あのバスに乗っちゃダメです! 爆弾が仕掛けられているかもしれないんです!」
「え? で、でもあれに乗らないと……」
同志先生がそう呟いたころにはバスのドアは閉まり、発車していた。
「よ、よかった……」
俺は安堵した。だが。
「……うそ、でしょ」
同志先生は、違った。
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