第43話ティーチャー編その9

ティーチャー編その9

 俺たち一行は同志家へと向かって歩いていた。その道中でまずは俺たちのことを話すことに。同志先生に俺たちの敵意が無いということを証明しなければならなかったからだ。


「はぁ……そういうことね。全く! あんた達が余計なこと話しかけるからよ!」


「失敬な。周りに誰もいないことを把握してなかったドラコにも問題があっただろ」


「まあまあ。僕たちも気づくべきでしたよ」


 一応把握はしてくれたみたいだ。


「でもね。さすがに尾行はどうかと思うよ? 私は気づかなかったけど」


「じゃあ、あんたらのどっちかが気づいたのか?」


 俺は2人に視線を向ける。


「僕が気づいたんだ。後ろから誰かがつけてるなぁって気づいてね。それで最初はストーカーかと思ったんだよね。だから真相を突き止めるように辰巳に言ったんだよ」


「ほんと、ストーカーどころじゃなかったわけね」


 つまり同志先生は俺たちには気づいていなかったわけだ。


「じゃあ、あの時俺を指名したのは」


「そう。あなたがストーカーかそうじゃないかを確かめるために指名したの。わざわざ後ろの席の人を選ぶの大変なんだからね? 目あんまり良くないし……」


 なるほど。それでわざわざ俺を指名したのか。


「あのー。同志先生さんってアイドルなんですか?」


 冬峰が問いかける。問いに対し苦い表情をする同志先生。


「う、うんまあ一応ね。そういうあなたは、その……」


 さっきの少年の発言が気になるのか、冬峰のことを気にしているようだ。


「辰巳。それはまた後で聞くから大丈夫。それより今は君のことだ。君はつまり、その幽霊を吸収する能力を使って、僕たちを吸収するつもりなのかい?」


 少年は話題をそらした。もしかしたら俺がした先程の反応を見て色々と察したのかもしれない。


「いや、あんたらの話を聞いてる限り、悪事を企んでるってわけでもなさそうだしな。能力は使わない」


 実際その通りだ。だがまだ肝心なことがわからなかった。それは。


「ただしだ。あんたらが悪霊じゃなければの話だ」


 主に悪さをする幽霊を総じて悪霊と呼ぶ。この2人がそうだった場合は話は別になる。


「おいおい。聞いたか? 俺たちが悪霊って。失礼な話だよな?」


「まあ、僕たちも特殊ですからね。ちゃんと説明しないといけませんね」


 ヘッドホンも言っていたが、彼らは霊格が高い幽霊らしい。

 幽霊にも階級というものが存在する。主に低級霊、高級霊といった種類に分かれる。例えば浮遊霊。浮遊霊は低級霊に属する。

 そして高級霊は守護霊などが値する。守護霊とは人間に必ず1人憑いていると言われている幽霊であり、人間に憑くことを許されている幽霊である。だが守護霊は人間を守ることが使命であり、コミュニケーションをとることはできない。 

 つまり、といえる。


「まあまず結論から言った方が早いと思うんで言いますけど」


 守護霊にも種類が複数ある。それも本来なら見ることは出来ない。しかし今俺が見ている彼らは、もうその守護霊のなにか、としか考えられなかった。


「僕たちは、指導霊です」


 少年の言葉を予想してたにもかかわらず、驚きを隠せない。

『指導霊』先程言った通り、守護霊の種類の1つである。その名の通り、憑いた人間にあらゆる指導を行う幽霊である。 

 その数にはばらつきがあり、1人から100人ほど憑いていることもある。指導霊は同じ霊がずっと憑いているわけではなく、時が来れば別の指導霊へと交代するらしい。


「ま、そういうことよ。なんで知らないけどな」


 本来ならば、守護霊を見ることは出来ない。ましてや関わりを持つことすら出来ないはずなのだ。だというのにこの2人はここに存在している。それが謎なのだ。


「やっぱり、この街のせいなのか?」


「さあ、どうでしょうね。それもあるとは思いますけど、僕が思うに誰かがタブーを犯した、とも考えられますね」


「それは、つまり誰かが守護霊を見えるようにしたっていうのか?」


 そんなこと、可能なのか??


「そこまではなんとも……あとは辰巳が特殊だったというのもあるんでしょうね」


 同志先生が特殊??


「そうそう。辰巳は僕たちが見える。それが一番特殊なんですよね。辰巳がもし僕たちを認識出来なければ、僕たちはこうして関わることすら出来なかったというのに」


「どうなんですか? 先生」


 俺は同志先生に質問する。


「実は私もよくわかんないのよね。気がついたらボクとオジサンがいて、最初は驚いたけど2人の説明を聞いたら悪い幽霊じゃないみたいだったしね。だからこのままでいたのよ」


 同志先生に自覚はなく、突然見えるようになったということか。


「ボクとオジサンってそれが名前なんです??」


 冬峰が疑問を抱く。言われてみればおかしな呼び名だ。


「ああ、それは私がつけた名前よ。こっちがボク。こっちがオジサン。ね? 簡単でしょ?」


 シンプルにもほどがあるだろう。


「名前、無いのか?」


「生前はもちろんありましたよ。でも指導霊になるに当たって僕は忘れちゃったんですよ」


 そういうものなのか。しかし僕は、ということはオジサンと呼ばれる指導霊は……


「ああ。俺は覚えているぞ。名前も、そしてなんで指導霊になったのかもな」


 どうやら個人差があるようだ。


「で、話を戻すけど。おそらく君が僕たちを見ることが出来るのは君のその能力のせいだろうね。そして辰巳に触れたことで本格的に見ることが出来るようになったということかな」


 おそらく冬峰も同じだろう。幽霊が幽霊を見れないなんてこともないだろうし。しかしそうなると気になる点が。


「あの、魁斗先輩……」


 さっきから黙っていた智奈が声を出す。


「その、さっきから会話してるのは……やっぱり、同志先生に憑いている幽霊なんですか……?」


 そう。智奈には2人が見えていない。智奈も同志先生に触れてみたが、指導霊の姿を見ることが出来なかった。そもそも見れているのだとしたら、すでに学校で見れているだろう。


「ああ。……えっと、ボク? でいいのかな?」


 ボクというのはなんだか呼びづらいな。


「いいですよ」


「じゃあボク。智奈があんたらを見ることが出来ないのはなんでなんだ?」


 ボクは少し考えた。そして口を開く。


「やっぱり普通の人間、だからじゃないですかね? 特殊な力を持っているわけではありませんし」


 やはりその解答が一番妥当であろう。冬峰のように、霊的存在が近くにいれば見ることが出来るのとは別のパターンだ。

 現在出せる結論としては、霊的存在、あるいはそれを有する者が同志先生に触れると2人の指導霊を見ることが出来る。ということになる。


「俺はそのガキ、俺たちのこと見えると思ったんだけどな」


「??」


 オジサンと呼ばれる指導霊はそう言った。どういう意味なのだろう?


「それはきっと関係ないんですよ……辰巳、どうかした? 難しい顔して」


 ボクは同志先生を気にかける。難しい顔をしながら歩いている同志先生。


「いやね。あんたらほんとに指導霊っていうだけはあるわね。そんな難しい話をよくペラペラと話せるわね。それについていってる君もだけど」


 俺は単純にその辺りの知識を覚えているからなのだが。


「当たり前だよ。僕は指導霊なんだ。指導しないでなにが指導霊だ」


「別に今は指導なんかしてないだろ。それに俺たちが指導すんのはドラコだけなんだしな」


「はいはい。それより着いたわよ」


 いつのまにか同志家へと着いていた。繁華街からは少し離れたところにあり、一軒家の小さな家だった。


「それじゃ、続きは中でしましょう」


 同志先生は一息つくと、俺たちを家へと上がらせた。

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