第42話ティーチャー編その8

ティーチャー編その8

 ゾロゾロと外に姿を現すオタクたち。彼らのターゲットは俺である。


「うおおおおお!! 奴はどこだ!!」


「ドラコの仇は俺がとる!!」


「お前、どさくさに紛れてドラコの気をひくつもりだな⁉︎」


「待て待て。今は争っている時ではない。我々が力を合わせる時だ」


「お、おい! いたぞ!」


 しかしそのオタク達を遮るのは浮遊霊の少女、冬峰紅羽だった。


「オタクの皆さん! 私にちゅうもーく!!」


 冬峰はオタク達に向かって声をあげた。本当に大丈夫なのだろうか? 今になって不安になってきた。


「おい、なんだあの幼女は?」


「俺、ガキには興味ないんだが」


「いや、待て。よく見ると結構可愛いぞ」


「あれは鹿場中学の制服であるな。しかしあれは現在の制服ではない。丁度10年前に新制服へと変わったはずなのだが。まさか、生粋の制服マニアなのだろうか?」


「お前の方が十分制服マニアだろ」


 オタク達はなんだかんだ言いつつも冬峰に従って注目する。


「皆さん、あのお兄ちゃんは確かに変態かもしれないけど、悪い人じゃないから! 許してあげて? ね??」


 なにやら余計な一言があった気もするが気にしない。


「うーん」


「可愛いなぁ」


「しかしまだ足りないよな」


「うむ」


「体型からしてあの子は小学生だろう。だというのに中学の制服を着るとは……やはり生粋の制服マニア!」


 これは、どうなのだろう。


「ど、どう思う?」


 俺は智奈に聞いてみる。


「さあ……でも先ほどに比べて皆さん大人しくなっている気がします……」


 智奈の言う通りに、オタクは俺のことは気にしていないようだった。冬峰、やるではないか。


「うーん、まだ足りないかぁ。よーし」


 そう言うと冬峰は咳払いをして言った。


「いじわるしないで欲しいなぁ……お願い、ね??」


 なんだ、今の甘々なボイスは。それを聞いたオタク達は。


「うおおおおお!!」


「可愛い」


「まじか……俺ロリコンだったのかな?」


「いや、今の声やばいでしょ!」


「小学生だというのに中学生に憧れている……? その気持ちに心が響いたぞ!」


 無事にターゲットは俺から外れ、冬峰へと移り変わった。それが良いことかどうかは別として。そしてそのまま冬峰に流されて去っていくオタク達。


「へへーん。どうでしたか? 私の作戦!」


 と、誇らしげに胸を張る冬峰。


「えっと、ナイス! でも作戦ってあれがか?」


「ふふ。名付けて『体型を生かしたメロメロ大作戦!』です! ああいう人たちは小さい女の子が好きなんですよ」


 冬峰。その知識は一体どこから……それに必ずもそうとは限らないぞ。


「見たかい今の。辰巳もあんな風にもっとあざとくした方がいいんだよ」


「う、うるさいわね! もう十分あざとくしてるつもりよ!」


 背後から女性の声がした。階段から登ってきたのは、サングラスをかけたミニスカートの女性。つまり同志先生だ。そして2人の幽霊も。


「え、あっ、せ、先輩! その、いいんですか……?」


 智奈があたふたしだす。そういえばまだなにも説明していなかった。


「おや? そっちにも幽霊がいたんだね」


 少年が冬峰を見て言った。見ただけで幽霊と見破るなんて……やはり普通ではない。


「おいおい。こりゃほんとにどうなってんだ? 例外ってやつか?」


 中年の男性はそう言った。俺たちみたい? と、なればこの2人も例外ということなのか?


「それで? あなた、どういうつもりなの?」


 同志先生は2人を気にかけずに俺に話しかける。


「だからさっき言った通りですって。あんたが見えない何か……そこにいる2人に話しかけている姿を見た人がいるんですよ」


 俺の発言を聞き、智奈と冬峰が驚く。


「え? 魁斗先輩、み、見えるんですか……?」


「ええー! なになに? そこに幽霊さんがいるの??」


 この辺りも説明しなければならないな。


「ん? そこの少女、僕たちが見えないのかい? あ、そうか。辰巳、その少女に触れてみて」


「え? なんでよ」


 そう言いつつも言われた通りに冬峰に触る同志先生。


「ふぇ⁉︎」


 触れられた冬峰が情けない声を出す。それは触られてびっくりしたからではないということがすぐにわかった。


「ほ、ほんとに……ゆ、幽霊だぁ……」


「?? なにを言っているんだ君は? 君だってゆうれ……」


 まずい、冬峰に幽霊のことはNGだ。


「ああー!! そうだ!! 智奈も見たいよな!! 幽霊!!」


「……⁉︎」


 突然のフリに驚く智奈。しかし1番最初に反応したのは同志先生だった。


「ねえ。もしかしてあなた、生田さん??」


 そう言われて智奈はゆっくりと頷く。


「は、ははは。そっかー、生田さんだったのね連れって。そりゃ気づかないわけだ。ま、私も人のこと言えないけど……」


 そう言ってしょんぼりする同志先生。自分の教え子にあんな姿を見られたのだ。あまりいい気分にはならないだろう。


「わ、私は……先生がその……楽しそうでよかったです……」


 その一言にキョトンとする同志先生。そしてすぐに笑った。


「ははは。生田さんやっぱり面白いなー。ありがとうね」


「おい。とりあえず現状をどうにかした方がいいんじゃないか?」


 中年の男性はそう言った。確かにお互い、まだわからないことだらけだ。


「そうね。とりあえず、お互いのこと話すしかなさそうね。それじゃあ行くわよ」


「行くってどこに?」


 同志先生は歩き出す。そしてキッパリと言った。


「どこって、ウチに決まってるでしょう」

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