第39話ティーチャー編その5

ティーチャー編その5

 同志先生はスタスタと歩いて行く。その数メートル後ろに俺と智奈、冬峰がゆっくり後をつける。


「ふふふ。なんだか探偵になった気分です!」


「お前はいいよな。気楽で」


「なっ……! それじゃあまるで私がバカみたいじゃないですか!」


「騒ぐなよ! バレたらどうすんだ」


 俺は冬峰の頭を軽くポンと叩き大人しくさせる。


「お?」


 同志先生はどうやらコンビニに用があるようだ。見られているとも知らずにコンビニに入っていく同志先生。俺たちもその後に続き、バレないように入っていく。


「魁斗お兄さん。あの同志先生っていう人がなにを買うか予想しましょうよ」


 冬峰がなにやらバカなことを言った。だが特に考えることもなかったので俺はそれに乗った。


「そうだな……やっぱりお菓子とかじゃないか?」


「はぁ、甘いですね。非常に甘い」


 と、なぜかやれやれと手を振る冬峰。一体なんなんだ。


「あのカッコいい人がそんな子供みたいなもの買うと思いますか? 全くー、一体どんな生活を送っていたらそこまでダサい考え方になるんですか」


「どうでもいいが、お前なんだか毒舌になってないか?」


「あの人が買うものはズバリ! これです!」


 そう言ってスルーした冬峰が指さしたのは缶コーヒーのブラックだった。


「えっと」


「ふふふ。驚いてますね! 私のカッコいいセンサーにビビってますね! そうです! カッコいい大人といえば缶コーヒーのブラックです! 見ててください! 今にこれを取りに来ますよ!」


 そう言ってるうちに同志先生が近づいて来たので急いで離れる。飲み物を選ぼうとゆっくりと手を伸ばす。


「お」


 その手の先には缶コーヒーのブラックが!


「おお」


 そしてそれを手に。


「おおお!!!」


 取らなかった。


「おお……?」


その隣にあるビールを手に取る同志先生。


「……」


 騒いでいた冬峰が大人しくなる。


「いやー喉乾いたなー」


「だよなー」


 すると高校生らしき2人組の男子が飲み物コーナーにやってくる。


「お、俺これにするわ」


「お前、ブラックなんて飲めんのかよ」


「当たり前だろ? 俺、ブラックしか飲まないんだよ。なんでだろうなぁ。ガキの頃は甘いのしか飲めなかったんだけどな。俺の舌が大人になったんかなー」


「お前、相当イタイぞ」


 と、いう会話した後そのままブラックを買っていく高校生。それを見た冬峰は。


「や、やっぱりカッコいい大人ってのはビールに限るぜ!!」


「なに中学生のガキがそんなこと言ってんだ!」


「魁斗先輩……同志先生が……」


 と、智奈に言われ気づく。同志先生はレジで会計をしていた。


「ビール、つまみ、雑誌……ふっ。カッコいいものだらけですね」


「お前のカッコいいの基準はなんなんだろうな」


 そしてそのまま外へと出て行く。俺たちも後を追った。


「どこに向かっているんでしょう……」


 智奈が疑問を抱く。それは俺も同じ気持ちだ。進んで行くにつれて人気がなくなっていく。なんだか嫌な雰囲気だ。


「……!」


 同志先生がなぜか立ち止まり周りを気にしだした。俺たちは物陰に隠れる。


「どうした……なぜ止まる?」


 よく見ると同志先生の口元が動いているのがわかる。やはり何かと会話しているのか?? そしてそのまますぐ近くにある階段を降りていった。


「あ、危なかったな」


 俺たちはその階段に近づこうとした。その時だった。


「あー、ちょっと君たち」


 しまった。見ないでもわかる。少しだけ威圧的なこの雰囲気。間違いない。


「こんな時間になにやってるのかな?」


 警察だ。どうやらこの辺りをパトロールしていたらしい。まずい。これは非常にまずい状況だ。

 俺と智奈はともかく冬峰をどうする? 冬峰は中学生だ。こんな夜遅くに、ましてやこんな場所にいたら声をかけてくるのも当然だ。


「あ、えっと」


「君、高校生? まだ時間は大丈夫だけどこの辺りは物騒だから気をつけて欲しいんだよね。それからその子だけど……」


 まずいぞ。どうする。


「ねー! お兄ちゃん! 早くアイス食べたいなぁ〜!」


 突然冬峰はそんなことをいって腕にしがみついてきた。え? え? なにやってんだこいつは。


「お兄ちゃん! 早く早く〜!」


 密着しすぎだ。そしてうねうね動くな! い、色々と当たるじゃないか……中学生とはいえそれなりにあるものはあるわけで……


「あぁなんだ妹さんか。さっきも言ったけどこの辺りは物騒だから気をつけてね」


 そう言って警官は離れていく。そして冬峰も腕から離れる。


「はぁ、助かった……色々と」


「どうでした? 私の可愛い妹大作戦! よかったでしょ??」


「え? あ、まあよかったけど……じゃなくてだな! お前、いいのか? 可愛い妹大作戦なんて。カッコいいの目指してんじゃないのか?」


 しばらく沈黙が続いた。そして冬峰が口を開く。


「オマワリさーん!! やり直させてくださーい!!」


「バカ! やめろよ!!」


 俺はドタバタと暴れる冬峰を抑える。


「はぁ、とりあえずこの先はちょっと不安だな。冬峰はここで残っていてくれ」


「ええー、なんでですかー?」


 それはもう決まっている。一言で言えば怪しい。階段は地下へと続いている。

 しかしなんだろう。この雰囲気。いかにも危ないお店という雰囲気がする。

 ほんとは智奈も連れて行きたくないが、同志先生のことがわかるのは智奈だけだから仕方がないのだ。だからせめて冬峰だけはここに置いておこう。


「な? 後でアイス買ってやるから」


「……いつ、戻ってきます?」


 相変わらずチョロいな。


「とりあえずは様子見だ。そんなにはかからないと思うけど……」


 まずどういう場所なのかすらわからないのだ。不安にもなるし、絶対にこうだと断言も出来ない。


「智奈。行こう」


 と、さっきまで智奈が立っていた場所を見るが智奈がいない。どこに行ったと探すと、もう階段の下に降りていた。


「お、おい待てよ!」


「あーあ。智奈お姉ちゃん私にヤキモチ焼いてますねー」


 なぜか嬉しそうに笑みを浮かべる冬峰。


「ほんとにそうか??」


 俺はとりあえず智奈を追い、階段を降りていく。


「魁斗先輩、遅いです……」


 あれ? やっぱりなんか怒ってる? と思ったがすぐにその思考は閉ざされた。

 目の前には錆びついたドアがある。そこには一枚のチラシが貼ってあった。


『大人気!! ドラゴン系アイドル!! ドラコ!! 定期ライブ!!』


「なんだ、これ?」


 アイドル……? しかもドラゴン系アイドルってなんだよとツッコミを入れたい所だが、突然ドアが開いた。


「そういうわけなのよ〜……! おや、君たちライブ見にきたのね! さ、どうぞ入って入って!」


 知らないおっさんに俺たちは無理やり中に入れられる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺たちは別に……」


「いやいや。君、その服が全てを物語ってるじゃん」


 え? と思い今の俺の服装を思い出した。『アイドルは神!!』と書いてある服だ。あぁ……これは何も反論できないではないか。


「それに彼女さんもいいセンスしてるじゃん!」


 彼女さんって智奈のことか……俺は彼女の反応が気になりゆっくり表情を確認しようとした。

 サングラスをしているので表情はよくわからないが、頬が赤い。やめてくれ。そんなに恥ずかしがられるとこっちも照れる。


「さあさあとりあえず座ったー」


 おっさんに連れられ、俺たちはライブ席に座らされる。と言っても大した数ではない。ほんとに少数だけだ。ぱっと見で50人……ぐらいだろうか。


「なんだ、ここは」


 俺たちの他にも何人か人がいる。どいつもこいつも特徴的な人間ばかりだ。『ドラコ』と書かれたグッズを持っている人がほとんどだ。すると、会場の電気が消えた。


「みんなー! おまたせー!!」


 突然会場に甘ったるい声が響いた。その声が聞こえたと同時に観客が叫ぶ。


「うおおおおおお!!」


「ドラコちゃーん!!」


「きたできたできたでぇ!!」


 ステージには1人の女性が立っていた。その女性はドラゴンをモチーフにしたような服をまとっていて、頭にはツノが生えていた。髪はカツラなのか金髪で爪は長く、そして尻尾が生えていた。何より1番感じたのは、全体的に赤かった。


「みんな、いつものいくよー!!」


 あの女性が『ドラコ』なんだろう。だが、俺は妙に既視感を感じていた。それは、智奈も同じだったのだろう。


「ど、同志……先生……」


 智奈のその一言で、全てを理解できた。


「こんにちファイヤー!!」


「ファイヤー!!」


 ステージに立っているアイドルは、普段とはかけ離れた格好をしている同志先生だった。

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