第38話ティーチャー編その4

ティーチャー編その4

 俺たちの目の先には、普段の格好とはほど遠い姿をした同志先生がいた。


「ほ、ほんとにミニスカート……それになんだか……」


「ああ。サングラスに帽子か。まるで有名人が身バレしないための変装だな」


 俺が今言った通りだ。まるで自分の存在をバラさないために変装しているように見えた。つまり今の俺たちみたいにだ。


「ふむふむ。あの方、私のカッコいいセンサーが反応していますね!」


 冬峰が突然意味不明なことを言う。


「なんだよカッコいいセンサーって」


「私が思うにあの方はカッコいい人だと考えます! 普段のあの方はどのような人なんですか?」


 と、俺に聞かれても授業を受けたことがないのでわからない。なので智奈に解説を求める。


「えっと……同志先生はカッコいいかはわかりませんけど……授業がわかりやすいです……」


「智奈お姉ちゃんー。私が聞きたいのはそういうことじゃないよー。どんな雰囲気の人なのかってことー」


「そんなら直接聞いてこいよ」


 呆れ気味に冬峰を見た瞬間ふと、なにか思い浮かびそうだった。なんだ? 今俺は何を考えた??


「えー、話かけるんですかー……なんかちょっと不安ですー」


「閃いた!!!」


「……⁉︎」


「……⁉︎」


 俺が放つ突然の叫びに驚く2人。


「か、魁斗先輩? ど、どうかしたんですか……?」


「冬峰。俺たちは遠くで見ててやるからお前、同志先生のとこ行ってなんか話しかけて来てくれないか?」


「ええー、さっきも言いましたけどちょっと不安ですよー」


「よし。1人で行って来れたら後でアイス買ってやる」


「さあ、行きましょうか! どのタイミングで声かければいいですかね?」


 想像以上にチョロいな。


 こうして冬峰を同志先生のところに向かわせた。そして出来るだけ俺たちは冬峰から離れる。


「魁斗先輩……どうしてわざわざこんなに離れる必要が…?」


 俺たちは近くのビルに登っていた。そして上から見下ろせば真下には同志先生の姿が。そして冬峰の姿も。冬峰はどうやら同志先生に話しかけることに成功したようだ。


「きっと風香先輩はこのために冬峰を連れて来たんだろう」


「……?」


 智奈が理解できてないようなので俺は思いついたことを話す。


「智奈。冬峰のことはもちろん知っているよな?」 

 

 ここで言う冬峰のこと、とは彼女の正体は何かということだ。もちろん智奈もそれは知っている。


「冬峰がこの世界に実態を保てるのは霊的存在が近くにいる時だ。霊的存在が近くにいなければ冬峰は実態を保たずに誰にも見えなくなってしまうわけだが」


「はい……」


 真剣に話を聞く智奈もかわいいな。と、思考を元に戻す。


「あの場における霊的存在とは俺とヘッドホンだけだ。そしてここまで冬峰から離れれば普通だったら冬峰の姿はもう見えなくなっているはずなんだ」


「あ、もしかして……」


「そう。今冬峰は見えていて、なおかつ同志先生と会話している。つまりだ。あの近くに霊的存在がいるというのは間違いないということだ。そして1番可能性が高いのは同志先生ってことだ」


 おそらく冬峰を利用して確かめろって言いたかったんだろう、風香先輩は。


「これで同志先生が何かと会話している、霊的存在と関わりがあるのはほぼ決まったみたいなもんだ。だとすると問題は……」


 そう、その会話している相手だ。先程確認したところでは誰かと会話しているようには見えなかった。

 加えて、見えない何かの姿を俺たちも確認できるのかも気になる。どのみちこの先も様子を見る必要がありそうだ。


「考えているところ悪いんだけどさ」


 ヘッドホンが淡々と言う。


「あの先生。どっか行っちゃうよ」


「へ?」


 俺は再び下を見る。冬峰が辺りをキョロキョロしている。同志先生はまっすぐ歩いていってしまう。


「ま、まずい! 智奈! 急ぐぞ!」


「は、はい……!」


 しまった。冬峰と接触されるところまでは良かったが、その後のことを考えていなかった。

 俺たちは急いで階段を降り、さっきの場所に戻る。少し離れたところに冬峰がいる。


「あっ! 魁斗お兄さんも智奈お姉ちゃんもどこ行ってたんですか!!」


 冬峰がこちらに気づきトタトタと寄ってくる。


「いやぁ悪い悪い。急に腹が痛くなってな」


「だったら智奈お姉ちゃんも一緒に行く必要ないじゃないですか」


「そ、それはだな」


 こいつ、意外と鋭い。


「は、はは〜ん。そうですか。なるほど。私、わかっちゃいましたよ」


「何かね。何がわかったというのかね?」


「街の繁華街! そして夜! 周りは若い男女でいっぱい! そして2人は男と女! ふふふ、私の目はごまかせませんよ〜? この雰囲気に流されて熱くなっちゃったんですね! そしてそのまま路地裏の影で……!」


「ち、ちちちちちちちち違います!!! わ、私も昨日のカップ麺があたったんです!!!」


 冬峰の発言もツッコミどころ満載だが、智奈がこんなにも大げさに反応するというのも珍しいものだ。と、いうよりなにやら誤解されている気がする。


「そ、そうだ。智奈も腹を痛めてたんだ」


「ふーん。ま、そういうことにしておきますよ。姫蓮お姉さんには内緒にしてあげますよー」


 なんだか面倒なことになったな。だが今はそんなことを言っている場合ではない。


「そんなことより冬峰! 同志先生は??」


「あー、あの方ならこれから仕事があるからって言ってましたよ」


 仕事?? あの人の仕事は教師だろう? なのにこれから仕事だと??


「と、とにかく後を追うぞ!」


 俺たちは同志先生が進んだ先へと向かう。


「魁斗お兄さん。あの方は幽霊とお話し出来るんですか?」


 俺たちは小走りになりながら同志先生を探す。


「幽霊ね。だったら俺の専門になるからありがたいんだけどな。そうだ冬峰。同志先生、何か変わったことあったか?」


「そうですね! 私とあの方の会話をお伝えしましょう!」


 ここから冬峰と同志先生の会話


冬「あのーすいません!」


同「え? な、なにかしら?」


冬「私、実はお願いされて……じゃなくて、あなたを見てびびっと来てしまったんです!!」


同「ええ?? あ、あなた急に何を言っているの?」


冬「……! し、しまった! や、やり直しです!  ……ゴホン。あー、初めまして! 私、あなたのようなカッコいい女性に憧れているんです!」


同「わ、私がカッコいい? それは嬉しいけれど、私はそんなキャラじゃないわよ? どちらかと言うと可愛いキャラ目指しているんだけど……! う、うるさい!!」


冬「……??」


同「あっ……ご、ごめんなさいね! えっと、もしかしてあなた私のファン? まさか、そんなわけないよね」


冬「ファン?? と、言うことは有名人なんですか⁉︎」


同「あー! ちょっと待って! それは違うって言うか違わないって言うか……と、とにかく! あなた中学生? こんな夜遅くにこんなところうろついてちゃダメでしょ!」


冬「わぁーなんだ先生みたいですー」


同「みたいじゃなくてせん……おっほん。と、とにかく私はこの後仕事だから、あなたはもう帰りなさい。いいわね? ……ったくわかってるわよ!」


冬「あのーさっきから誰とお話ししてるんですかー? もしかして幽霊さんですかー?」


同「……⁉︎ そ、そうなのよー。私、実は見えちゃうんだー。悪い人には見えちゃうんだよー。あなたはいい子だから見えないんだ」


冬「ええー‼︎ そうだったんですかー!」


同「そ。だから、これは内緒ね? お姉さんと約束できるかな?」


冬「はーい!」


同「うん。いい子いい子。(冬峰の頭を撫でる)それじゃあね」


 回想終わり


「よし、冬峰がガキで助かったぞ!!」


 同志先生としても冬峰が子供だからごまかせると思ってそんな風に言ったんだろう。これはラッキーだ。


「なんだかバカにされている気分なんですけど」


 だがこのアホらしい会話のおかげで色々わかった。同志先生は確実に見えない何かと会話している。そしてその姿は冬峰には見えていない、ということだ。


「しっかし同志先生ってそんなキャラなのか?」


 智奈の顔を見る。サングラスをしているからわかりにくいが、驚いて顔が固まっているようだ。その様子から察するに、普段とはキャラが違いすぎるということがわかる。


「あ、いましたよ!」


 冬峰が指を指す。その先には同志先生の姿が。


「よし、行くぞ」


 俺たちは再び、彼女の後を追うことにした。

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