第7話不死身編その7

不死身編その7

 その後しばらくはインターネットなどで不死身、幽霊の種類などひたすらに調べてみたがめぼしいものは見つからず途方に暮れていた。

 気づけば時刻はもう0時を回っていた。不思議と眠気はなかった。俺も必死だったのだろうか?


「ねぇ。私に取り憑いている幽霊はなんで私に取り憑いたのかしら?」


 富士見が不思議そうに疑問を投げかける。幽霊に取り憑かれやすい人ってのは実際いるみたいだ。下手に幽霊に同情したり、マイナス思考の人、恨み、嫉妬など、理由は多々ある。

 この場合富士見の場合はどうだろうか? それを確認してみよう。


「富士見。これからいくつか質問するから答えてくれ」


「いいだろう」


 なぜ男口調なのだ。


「最近心霊スポットに行ったか?」


「行ってない。最近はお墓参りぐらいしか」


「幽霊のことかわいそうって思ったりするか?」


「いや、そもそも最近まで信じてなかったからなんとも。あなたはかわいそうね」


「マイナス思考な考えが多かったりするか?」


「私は超絶美少女でありナイスバディよ」


「誰かに強い恨みを持ってたり、嫉妬したりするか?」


「嫉妬なんかするわけないわね」


 当てはまらん。唯一幽霊要素があるとしたら墓参りぐらいだが、取り憑かれた理由にはならない。そこで取り憑かれたのかもしれないが。


「手詰まりか」


 どうする? 原因が全く掴めない。仮に掴めたとしても富士見の感情が変化するかも確信が出来ない。このままだと彼女の心理を理解するどころか、幽霊を吸収することすら出来ないかもしれない。

 すると、部屋の固定電話が鳴り響いた。富士見はハッとしたかのように慌てて電話に出る。なんだかひどい慌てようだな。まるで来ることがわかっていた電話を、ついさっきまで忘れていたかのようだ。

 俺は富士見が電話している間にボーッと部屋を眺める。ごく普通の家だな。しかし彼女の家は一軒家で、1人で住むにしては広すぎる。


「あれ?」


 なんだ。この違和感。俺はなにかに気づいた。


 この家。


 部屋の中をよく観察してみる。今俺たちがいる場所はリビングだ。3人から4人掛けのソファーがある。テレビも大型。ダイニングテーブルにはイスが4つ。

 富士見は両親はいないと言っていた。つまりは一人暮らしのはずだ。

 しかしなんだろうか。この家にはまるで、

 俺は台所を覗いた。大量の食器、食料、家電があった。これも1人分にしては多すぎる。そうか、もしかしたら兄弟がいるのかもしれない。あるいは他の誰かと同居しているのだ。そうに違いない。

 それを念のため確かめようと富士見に聞こうとする。しかしあるものが目に入り、俺はそれを行わなかった。

 台所の壁に貼られてあったカレンダー。俺はそれを見て、確信した。


「怪奇谷君。どうかした?」


 電話を終えた富士見が俺に声をかける。俺は富士見をまっすぐ見てこう投げかけた。


「富士見。両親いないんだったよな? じゃあこのカレンダーはなんだ? なんでなんて書いてあるんだ?」


 6月25日に大きくそう書かれていた。富士見は両親はいないと言った。しかしこの家を観察すればわかる。3

 俺の問いに、なぜか少しにっこりとして(そう見えただけかもしれない)


「怪奇谷君。私に、両親はいないの」


 富士見はそう答えた。


「富士見。それはどういう……」


「怪奇谷君。ちょっと用事が出来たから少し出るけど、留守番しててもらってもいい?」


「こんな時間に⁉︎ 何言ってんだ⁉︎ 富士見、なにか隠してないか? 言ってくれよ! 俺だってこんなことは考えたくないんだ! なあ、頼む!」


 違う。これは何かの間違いだ。そんなはずはない。俺の勘違いだ。間違いだ。考えすぎだ。深読みしすぎただけなんだ。


 


「怪奇谷君」


 富士見は俺の肩に手を当てる。


「お願い」


 なぜだ? なぜそこでそんな言葉が出る? どんなつもりで富士見は俺に話しかけている? やっぱり富士見の精神は異常なのか?


「私は、死ななくちゃいけないの」


 そうか。そういうことだったんだな。だからそんなに死にたがってたんだな。


「わかった。待っててやる。戻ってきたら幽霊はなんとかする」


 そんな方法、まだ見つかっていなかった。でもこれから探すさ。


「ありがとう。ねえ、玄関まで来てくれない?」


 なんのつもりだ? 最後のあいさつのつもりか? いいよ。素直に従ってやるよ。


「ちょっと、人に……会ってくるから。自分の家のつもりでくつろいでてよ」


「……」


 見れるわけないだろう。歪すぎる。富士見はそのまま出て行くかと思いきや、唐突に玄関の電気を消す。


「!!」


 俺は瞬時に構えた。なぜなら目の前の女が俺に寄ってくるのがわかったからだ。だけどそれはすぐに緩んだ。


 口に、柔らかな感触があった。


「……っ!」


 富士見は振り向かずに出て行った。

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